型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2025.05.14
第9回 特産品を使ったモノづくりで町を元気に
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
「光」に縁のある「阿南市」
徳島県の南東部、四国の最東端に位置する阿南市。太平洋に面し、四国で一番初めに日が昇る町としても知られています。さらに市内には世界で初めて高輝度「青色発光ダイオード」の製品化に成功した日亜化学工業が本社を構えていて、蛍光体や発光ダイオード(LED)の一大産地でもあります。こうしたことから阿南市は「光のまち阿南」とキャッチコピーをつけ、PR 活動を展開しています。
そんな阿南市ですが、全国の多くの自治体と同じく、人口の減少に悩まされています。阿南市の人口は、1980 年にピークを迎え、その後は緩やかに減少。2020 年1 月時点の人口は約7 万人で、2030 年には約6 万1,000 人、2040 年には約5 万3,000 人まで減少すると見込まれています。
町に魅力があるのに人口が減っていく…。ならば「地域の魅力をもっと活用して町を盛り上げよう!」と活動しているのが、阿南市を拠点に学びを深めている阿南工業高等専門学校(阿南高専)の学生たちです。
イルミネーションで町を照らす課外活動
阿南高専には、学生と教職員、企業などが連携して、地域がかかえる課題の解決に取り組む「AST 倶楽部」という課外活動があり、その活動の中でAST 倶楽部(LED)としてLED イルミネーションオブジェの開発・作成などに取り組んでいます。発足当初のメンバーはわずか2 名でしたが、徐々に口コミなどでメンバーが増え、活動開始から3 年が経った現在はおよそ24 名が所属しています(しかもメンバーの9 割が女子学生だというから驚きです)。
地域のお祭りやイベントなどを盛り上げるため、会場をイルミネーションで装飾するというのはよく聞く話ですが、AST 倶楽部(LED)ではそれぞれのイベントの趣旨に合わせた「他にはないイルミネーションをイチからつくる」ということを徹底しています。
これまでに手がけた作品を見せてもらうと、高さ2 mほどのドームやツリー型のもの(図1)、複雑な星型のもの(図2)など、大きさやデザインもさまざまで個性的なものばかり。今の時代、検索すればほとんどのものは画像が見られますが、まだ世の中にないものだけは検索ができません。そういうものをつくってきたのだと学生たちは話します。
図1 大型のイルミネーションツリー(写真提供:阿南高専)
図2 複雑な星型オブジェとメンバーたち(写真提供:阿南高専)
メンバーの1 人に「ゼロからモノを生み出すのは大変ではないですか?」と尋ねたところ、「大変だけど、そういう機会をもらえたことは自分の財産だ」と答えてくれました。近年はモノづくりの現場でも自動化やスマートファクトリー化が進んでいて、AI やロボットが活躍の幅を広げていますが、そんな中で私たち人間に求められるのは「ゼロからモノを生み出す創造性」なのではないかと考えさせられます。
「子供たちの地元愛」育むモノづくり講座
製作活動のほかにもメンバーたちが力を入れているもの―それは小学生向けのLED を使った工作体験講座です(図3)。子供の頃からLED に触れることでLED への興味や関心をもってもらおうと地域の小学校などで定期的に開いているもので、講座では比較的簡単なLED オブジェを製作しています。毎回満席になるほどの大人気で、直近2 年間だけでもおよそ1,200人の地域の小学生が参加しています。
体験講座を開くにあたっては、何を使って何をつくるか、どうやって子供たちに教えるかなど、すべて学生たちが主導して決めています。学生たちの様子について指導教員の藤原健志先生にうかがったところ、「普段は教わる立場の学生たちがいつもとは逆の立場に立つことで、自然と行動も変化したのだ」と言います。例えば、子供たちに配布する資料1 つとっても、普段のレポート提出のときとは打って変わって、「もっとわかりやすくするには」、「読みたくなるようにするには」と、さまざまな工夫をしながら何度もつくり直したのだとか。文章だけだったところに写真を加えてみたり、イラストを多用して楽しい雰囲気を演出したりと、工夫した点は多岐にわたりました(図4)。
また、意外にも学生たちが一番苦労したのは、小学生とのコミュニケーションの取り方だったのだそう。普段は先生や企業の方など大人と接する機会が多いため、少しの説明で意思の疎通が図れてしまいますが、小学生相手だとそうはいきません。子供たちのモチベーションもそれぞれ違うので、教えるだけでなく一緒に盛り上げたり、どこができていないのか寄り添いながら一緒に考えたりする中で、自然と相手の立場に立って考えることの大切さを学んだと言います。私がお話をうかがいながら感じたのは、「これって小学生とのコミュニケーションだからではなく、人とのコミュニケーション全般に言えることなのでは」ということ。つまり、子供たちとのかかわりの中で試行錯誤することで、学生たちは自然と高いコミュニケーション能力を身につけていったのだと思いました。
技術力があって、創造力があって、コミュニケーション能力が高いエンジニア。これはまさに今必要とされている理想のエンジニア像なのではないでしょうか。そう考えると、このAST 倶楽部(LED)のメンバーたちは、将来のモノづくり業界を考えるうえで欠かせない存在になっていくに違いありません。