型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2026.10.29
第28回 都城から生まれる街づくりの新しい風
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
宮崎県南部、霧島連山を望む都城市。豊かな自然と農畜産業に支えられたこの地域には、静かな住宅街の一角に白い校舎がたたずんでいます。ここが都城工業高等専門学校(以下、都城高専)。地域とともに歩み、未来の技術者を育てる「街づくりの拠点」です。
都城高専では今、学生たちが主体となって街づくりの魅力を伝える活動が広がっています。空き家のリノベーションや地域住民とのワークショップなど、地域の課題を入り口にしながら、街づくりのおもしろさを体験として届ける工夫が行われているのです。その活動の中心にいるのが、建築学科の杉本弘文教授。そして、先生のもとで学びながら地域に飛び込んでいく学生たちです(図1)。
杉本先生は、参加型の住まいづくりや集合住宅の研究を専門とし、都市計画分野では20 年以上、モンゴルの都市研究に携わってきた、いわば“街づくりの先輩”。学生たちの挑戦を温かく後押ししながら、地域と世界をつなぐ学びを育んでいます。
街づくりの視野を広げるモンゴルとの交流
お話をうかがっていて特に驚いたのが、都城高専の学生たちがモンゴルで都市計画の調査やワークショップに参加しているということです。都城市がモンゴルと友好都市であること、そして都城高専がモンゴルの大学と研究協定を結んでいることから、学生たちは現地で本格的な街づくりに触れています。
ある学生はこれまで複数回モンゴルを訪れ、街の変化の速さや文化の違いから生まれる新しい視点に衝撃を受けたと話してくれました。また別の学生はウランバートルで施設分布調査に参加。都市の過密化をどうコントロールし、住民が豊かに暮らせる空間をつくるかという課題に触れ、研究の基礎となるデータ収集の重要性を実感したと言います。現地の学生と街を歩き、異なる文化や都市環境に触れるという経験は、教室では得られない学びであり、街づくりを捉える視点を大きく広げてくれたのではないかと感じます(図2)。
図2 モンゴルでの意見交換の様子図3 現場で作業中の学生たち
空き家が「学びの現場」に変わるとき
国際的な活動と並行して、都城高専では地域の課題である「空き家問題」にも本格的に取り組んでいます。地域住民から提供された空き家や空き店舗を学生が調査し、リノベーションの企画から施工までを担うプロジェクトです。単なる模型づくりや机上の設計ではなく、実際の建物を前にしながら「どうすればこの場所がもう一度、人の集まる空間になるのか」を学生自身が考え、手を動かし、地域の人と対話しながら形にしていきます。
この活動の魅力は、現場に足を運ぶことで「予想外の出来事」が次々と起こる点です。空き家の近くにある温泉の休憩所で議論していたときには、地域のおばあちゃんがふらりと話しかけてきて、そのまま街の未来について一緒に語り合う展開になったことがあったそうです。気づけばすっかり打ち解けて、スマートフォンの使い方を教えてあげたら、帰り際にミカンとジュースを手渡してくれた─そんな温かい「偶然の学び」があったのだそう。教室では絶対に起きない、地域ならではの学びが日常的にあふれています。人と人が出会い、言葉を交わし、思いが伝わることで、学びが生きたものになっていく。その瞬間を学生たちは確かに経験しているのだと感じました(図3)。
こうした地域の後押しは、空き家プロジェクト以外でも見られます。活動の中で企業や団体にアンケート調査を依頼する場面がありますが、通常は協力率が決して高くありません。しかし、学生が間に入り、自分たちの目的や思いをていねいに伝えながら依頼すると、協力率が驚くほど上がるのだそうです。「学生さんが頑張っているなら協力するよ」、「若い人の力になりたい」、そんな声が自然と集まります。
ただアンケートの協力をお願いするだけではなく、学生たちは「なぜこの調査が必要なのか」、「この地域をどうしたいのか」を自分の言葉で伝えます。その真っ直ぐな姿勢が地域の人の心を動かし、「応援したい」、「力になりたい」という気持ちを生み出すのではないでしょうか。結果として、街づくりのプロジェクトがスムーズに進み、学生たち自身も「人を巻き込む力」を身につけていきます。
地域の課題に向き合うということは、建物を直すだけではありません。そこに暮らす人の思いを受け取り、対話し、協働しながら未来を描くこと。学生たちはそのプロセスを通して、「街づくりは特別な人だけのものではなく、日常の中にある課題を解決するための道具なのだ」と気づいているはずです。
未来へつながる学びの芽
モンゴルとの国際交流で広がる視野、空き家活用プロジェクトで生まれる地域との協働、住民との対話から育まれる「人を巻き込む力」。取材を通して聞いた学生たちの経験は、どれも教室の中だけでは決して得られない、生きた学びに満ちていました。地域に入り、世界に触れ、人と関わりながら積み重ねていくそのプロセスが、街づくりの文化として静かに根を張り始めている─そんな手応えを強く感じました。
都城という地方都市の一角で始まった小さな挑戦が、やがて大きな未来を動かしていく。その未来がどんな形で花開いていくのか─そう思うと、これからの彼らの歩みが楽しみでなりません。