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機械技術

2025.06.13

異なる得意分野を活かし医療現場のニーズを取り込む―東葛医療ものづくり会

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「千葉県発の医療機器を!」の思いを共有する有志が2015 年に立ち上げた「東葛医療ものづくり会」。切削加工やプレス加工、樹脂成形、ばね製造など異なる得意分野をもつ企業が集まり、多様な要素技術が求められる医療機器開発の要望にワンストップで応えられる点を強みとする。発足から10 年。関連する展示会や学会への参加を通じ、ニーズの把握や知名度向上に努めたことで、開発段階を経て製品化に至る例が出始めている。

勉強会が発足のきっかけ

 発足のきっかけは、千葉県が開催していた医療機器市場参入のための勉強会。そこで知り合った加工メーカーと医療機器製造販売業者(以下、製販企業)がチームを組み、情報交換をしながら医療機器開発を進めようと取り組んだのが始まりである。現在の主要メンバーは岩井製作所(千葉県鎌ケ谷市)、杉原製作所(同)、中央ばね工業(千葉県柏市)、長浦製作所(同流山市)、藤井製作所(同柏市)、ファーシスジェイピイ(同松戸市)の6 社(図1)。いずれも千葉県北西部に位置する東葛飾地域にある。
図1  東葛医療ものづくり会の主要メンバー。前列右が会長を務める岩井製作所の岩井武己社長

図1  東葛医療ものづくり会の主要メンバー。前列右が会長を務める岩井製作所の岩井武己社長

 同会の最大の特徴は、構成する各社の強みが異なる点だ。血管内治療用デバイスを製造するファーシスジェイピイ以外の5 社は精密加工を得意とするが、扱う分野はそれぞれ異なる。岩井製作所はφ10mm 以下の極小精密部品の切削や研削を得意とし、歯科用機械の部品を主に手掛ける。杉原製作所は樹脂や軽金属、ステンレスなど幅広い材料の切削加工を手掛け、最近はφ50~200mm の中型部品が主力。中央ばね工業は精密ばねの設計・製造、長浦製作所はプラスチック金型の設計・製作と試作成形、藤井製作所は金属プレス加工と樹脂の押出成形のノウハウをそれぞれもつ。得意分野が分散していることで、医療現場の多様なニーズに対応がしやすい。

 また、40 年にわたり医療機器業界に身を置くファーシスジェイピイの小島保成社長は、医療機器を病院に納品するうえで必要な許認可の知識が豊富で、ほかの5 社にとって心強い“ 顧問役” だ。ほかにも医療機器の製造販売に精通する製販企業がメンバーとして加わっており、品質管理や承認申請などをサポートする体制が整っている。

 共同受注を至上命題としない点も特徴だ。開発案件が持ち込まれたときは、無理に全メンバーが関わるのではなく、担当できるメンバーだけで取り組んでもらう。1 社でことが済むならそれでもOK。また、同会の主な活動は、月に1 度の定例会と年に数回の展示会への出展で、従来の取引先分野に注力しながら医療機器市場に目配りしたいメンバーにとっても、無理なく参加できる。

 発足当初から携わり、現在会長を務める岩井製作所の岩井武己社長は、「一生懸命に医療機器の仕事を取りに行きたい会社は頑張ればいいし、そうでない会社はそのままでも構わない。会のメンバーが協力して展示会に出るだけでもメリットはある」と話す。自動車部品の量産を主力とする藤井製作所の川野保弘取締役も、「当社で医療機器がメインになることは当面ないが、モノづくりが多品種少量、変種変量に変わる中で、自動車以外の分野にも対応できる会社にならなければと感じている」と会に参加する意図を語る。

便利グッズから医療機器まで

 活動の成果は徐々に出てきている。その1 つが、長浦製作所が製造するコンセントタップホルダ「スマートコンタップ」(図2)。医療機器ではなく、病院で使われる便利グッズの一種だが、会のメンバーで千葉県内の病院を訪問し、医療現場の困りごとを聞き取って開発した独自製品だ。
図1  東葛医療ものづくり会の主要メンバー。前列右が会長を務める岩井製作所の岩井武己社長
図2 スマートコンタップ(上)と使用中の様子(下)

図2 スマートコンタップ(上)と使用中の様子(下)

 手術室やICU(集中治療室)で電源を確保する際、コンセントタップを床に置くと、輸液や血液が上からかかりショートする危険がある。そこで、点滴スタンドのポールに結束バンドで固定することが行われているが、プラグを抜き差しするたびに結束バンドが緩んでしまうため、医療スタッフのストレスになっていた。開発したスマートコンタップはワンタッチでポールに取り付けられ、コンセントタップをしっかり固定する。市販の多くのコンセントタップに対応し、汎用性が高いのも特徴。ポールに取り付けたときに滑り落ちないように、樹脂の本体に滑り止め用のゴムを圧入するといった細かい工夫も盛り込まれている。

 開発初期は、会のメンバーでアイデアを出し合った。3D プリンタをもつ藤井製作所が試作品をつくり、改良を重ねた。最終的に工業用デザインの専門家に製品デザインを依頼。長浦製作所が金型設計・製作と成形を受けもち、完成させた。同社の長浦謙太郎社長は、「メンバーが『あんなのがいい』、『こんなのがいい』とアイデアを出してくれるので、具現化しやすかった」と振り返る。

 医療機器開発に全面的に関わった例もある。食道内壁の温度を検出するために使う食道温度プローブだ(図3)。会に参加する製販企業が設計と組立て、販売を受け持ち、持ち手部分の金型設計・製作を長浦製作所、ガイドワイヤ用のばねを中央ばね工業が担当した。メンバーの製販企業がまとめ役になって開発が進む例は多く、カテーテルの先端に取り付けて使うナイフの開発では岩井製作所と中央ばね工業が関わった。ほかにもさまざまな開発案件が進行中だという。
図3 食道温度プローブ

図3 食道温度プローブ

 同会は「Medtec Japan」や「メディカルクリエーションふくしま」などの展示会、医療関係者が集まる学会に積極的に参加し、業界関係者とのネットワークを構築してきた。岩井社長は自治体にも顔が広く、医工連携を進める各県のコーディネーターと連絡を取り合っている。こうした地道な取組みが功を奏し、「新しいものを世に出そうとすると10 年はかかる」(小島社長)と言われる医療機器分野で実績を上げてきた。

 中小モノづくり企業が医療機器分野に取り組むうえで大事な点として、岩井社長は「信頼関係の構築」を挙げる。今後も1 つずつ実績を積み上げながら、顧客との信頼関係を築いていく考えだ。

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