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機械技術

2024.12.12

「働き方改革」を成長のチャンスに!イノベーションは“誰もが働きやすい職場”から

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㈱ワーク・ライフバランス 代表取締役
小室淑恵氏

多様性がイノベーションを生む

編集部

働き方改革では、残業削減やそれによる基本給アップ、モチベーションアップなどのほかにどんな効果が見込めますか。

小室

働き方改革に取り組む中で、本来最も狙いたいのは、意思決定層の多様性を高めてイノベーションを起こすことです。日本の多くの職場は長時間働ける人がスタンダードになっていて、長時間働けることを前提に仕事のいろいろなルールが決められています。そのため、能力のほぼ同じA 君・B さんがいたとしても、「重要な仕事はだいたい時間外勤務を伴うから、育児中のB さんではなく、A 君に任せよう」という事態が起きています。
時間外勤務ができるかどうかが、重要な仕事を任せるかどうかの、1 つの基準になってしまっているのです。時間外勤務ができる人には、いい仕事、難しい仕事、昇進・昇格につながる仕事がどんどん渡され、時間に制約がある人には、仕事の切れ端しか渡されない。こういうことをずっと繰り返している多くの職場では、無意識のうちに意思決定層が“24 時間型の人”で占められるようになります。同じような人たちだから、誰もが同じことをリスクと感じて挑戦せず、去年と同じ商品やサービスが生み出されるだけ。イノベーションが起きず、会社は成長しません。

編集部

イノベーションは製造業にまさに求められているものです。

小室

商品・サービスを提供する先がどんどん変化する中で、新しいものを生み出さないと生き残れない。これは製造業でも同じだと思います。にも関わらず、働き方によって特定の人を“門前払い”することで、それを妨げているのです。働き方のスタンダードが普通の労働時間まで下がれば、「A 君でもB さんでも重要な仕事を任せればいい。どうせ、時間内で終わるのだから」という考え方に変わります。意思決定層に2 児の母、介護中の男性も入ってくる。今までと違うメンバーでディスカッションすることで、イノベーティブな商品・サービス、新たな会社の制度が生まれます。
働き方改革は、ビジネスで勝つためにやることです。働き方改革と言うと、「従業員の福利厚生のため」というイメージがあり、「コストはかかるが仕方がない」、「人が採用できないからやるしかない」と“やらされ感”で取り組む企業が多いのですが、働き方改革は実は戦略そのもの。一番の効果がイノベーションであり、次にいい人材の採用、定着の効果が得られます。また、集中力の低下による事故やミスを防ぐ効果も大きいです。

社員を見守り、伴走する

編集部

働き方改革を継続して進めるために、トップや経営層に求められる姿勢を教えてください。

小室

失敗事例になりがちなのが、トップが号令をかけて「働き方改革部」や「働き方改革担当」を設置し、自社の問題点を全社アンケートで調べ、一斉に施策を打つ方法です。アンケートで意見が多かったからと、「会議は45 分以内」、「18 時に一斉消灯」などと“最大公約数的な施策”を決めて出す。この方法の問題点は、社員が「なぜそれをやる必要があるのか」を理解しておらず、働き方改革という新しい施策をやらされていると感じる点です。社員が主体的に取り組んでいないので、ある期間を過ぎると元に戻ってしまいます。

編集部

トップ主導の最大公約数的な施策では続かないと。続けるポイントは?

小室

残業が多い理由は部署やチームごとに異なるという点を理解し、チームで話し合うことが重要です。そのときの方法が、先ほど紹介したカエル会議です。付箋を使って心理的安全性を高く保ち、忖度なく意見を出し合うことで、主体的に取り組む姿勢が生まれます。当然、バラバラな施策になるので、各チームで取り組むことになります。
そのとき経営者の方にやっていただきたいのは、各チームの取組みを見に行き、「そういう風に変えたのか。グッドチャレンジ!」と伝えること。社員が今までと違うことを始めたからといって否定せず、「いいね。何か変わるならやってみて」と認めて、背中を押す。仕事の方法を変えると、失敗することもあります。でも、失敗の経験から、次にチャレンジすべきことが見えてくるので、会社にとっては大事なチャレンジとも言えます。「この程度しかやっていないのか」と言いたい気持ちをぐっとこらえて、各チームがやったことを認め、挑戦の芽を摘まないようにしてほしいです。
それから、残業時間は、取組みの最初の頃はなかなか減らないものです。急に減ったのであれば、仕事を家にもち帰っているか、タイムカードを押したあとに残業しているかのどちらかと考えた方がいい。ですから、「前年比〇%減」のように数字にこだわるのではなく、働き方を変えるためにチームで話し合えているか、その話合いで心理的安全性が担保されているのかを確認してほしい。
これらができていると、取組み開始から4~5カ月目で社員の表情が明るくなる、病欠者が減る、挨拶がしっかりできるようになるなど定性的な変化が現れます。そこでさらに、「今の職場がどうしたら働きやすくなるのか、もっと率直に意見を言っていいよ」と背中を押す。すると、4 カ月を過ぎた頃から、「本当はこれを変えたかった」という本音が出てきます。他部署にまたがる提案や上層部への要望です。そこまでたどり着けば、残業時間は本当に減り始めます。

編集部

最初の4 カ月の小さな成功が、次の4 カ月につながるのですね。

小室

そうです。スモールサクセスによって少しずつ信頼が回復してくると、後半に成果が出てきます。そのためにも、社員への寄り添い方、言葉のかけ方が重要になります。今の40 代、50 代は叱咤激励型のマネジメントで育てられてきたため、心理的安全性について知らない管理職もまだ多い。動画を見るだけでもいいので、ぜひ学んでみてほしいと思います。

男子学生の3 割「育休は半年以上」

編集部

中小モノづくり企業の多くが下請けで、顧客である大手企業の都合を優先せざるを得ないケースが多々あります。そうした中で働き方改革を進めていくためのヒントになる、他社を巻き込んだ改革例があれば教えてください。

小室

ゼネコンと、その下で働くサブコンの上下関係が厳しいことで有名な建設業界の例を紹介します。2016 年から働き方改革コンサルティングをご依頼くださっているサブコンS 社では当初、「ゼネコンが変わってくれないと、こちらも変われない」という意見が主流でした。でも、カエル会議を通じて、働き方改革に取り組み、残業時間の削減や若手の離職削減に成功します。その成功体験を踏まえたうえで、「やはりゼネコンにも変わってもらいたい」という意見が出たので、同じくわが社のクライアントであるゼネコンK 社と、S 社を含めたサブコン3 社で受発注に関するカエル会議を開催しました。そこで、発注方法A だと残業が発生するが、発注方法B なら発生しないとの意見がS 社から出されました。一方、ゼネコンK 社は、慣習でA を採用していただけであって、別にB でも構わなかったことが判明。その場で発注方法の変更について合意しました。

編集部

要望を伝えることすらしていなかった。

小室

「K 社は、発注方法A でないとだめだろう」と思い込んでいたのです。上下関係を意識しすぎるあまり、コミュニケーション不足に陥っていました。こうしたケースからわかるように、思い込みによって、顧客と話し合おうともしていない企業が多い。カエル会議の共同開催をぜひやってみてほしいと思います。

編集部

最後に製造業へのメッセージをお願いします。

小室

製造業にいい人をたくさん呼び込むために、今の若い人の考え方を積極的に知ってもらいたいと思います。厚生労働省が18~25 歳の学生に行った調査では、男子学生の3 割が「育休は半年以上取りたい」と回答し、最長で2 年間の育休を望んでいました。今の若者は「誰かの負担の上に成り立つ自分のキャリア」を非常に気持ち悪く感じます。妻に家事・育児を押し付けてまで、キャリアアップするのは嫌だと思っているのです。
これは、働き盛りの男性が数カ月単位で休んでも業務に支障がない職場を、常日頃からつくらなければならないことを意味します。実現すれば、育児や介護だけでなく、不妊治療をされている方や子どもの不登校に対応されている方、がんの治療をされている方にも対応できます。
実は、日本の長時間労働には理由があります。日本は賃金の時間外割増率を1.25 倍しか支払わなくていい国で、1.5 倍の他国と違い、余分な人員をもつよりも、ぎりぎりの人員で残業させた方が経営者には得になります。だから、日本では多くの人が「自分が休んだら終わりだ」と悲壮感に満ちて働いる。長時間労働をできる人の割合が年々減っていく中で、そんな職場に未来があるでしょうか。多めに人員を雇い、パス回しをしながら働く“お互い様職場”への転換を、製造業の皆さんにはぜひ目指してほしいと思います。
こむろ よしえ/ 2006年、㈱ワーク・ライフバランスを設立。多数の企業・自治体などに働き方改革コンサルティングを提供し、残業削減と業績向上の両立、従業員出生率の向上など多くの成果を出している。年200回以上の講演依頼を全国から受け、役員や管理職が働き方改革の必要性を深く理解できる研修にも定評がある。自らも2児の母として子育てをしながら、効率良く短時間で成果を上げる働き方を実践。会社としても、全社員が残業ゼロ、有給取得100%を実現しながら増収増益を達成し続けている。安倍内閣「産業競争力会議」民間議員、文部科学省「中央教育審議会」委員、経済産業省「産業構造審議会」委員などを歴任。
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