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機械技術

2024.12.12

「働き方改革」を成長のチャンスに!イノベーションは“誰もが働きやすい職場”から

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㈱ワーク・ライフバランス 代表取締役
小室淑恵氏

 日本の製造業を支える中小モノづくり企業で人手不足が深刻化している。若い人材を採用できず、採用できてもなかなか定着しない。対策として現場の自動化・省力化が進みつつあるが、新しいアイデアを考え、商品やサービスに結び付けるのは人。優秀な人材を採用し、育てていくことなしに企業の成長は望めない。どうすれば製造業を人が集まる、魅力ある業界に変えていけるのか。長年さまざまな業界向けに「働き方改革」へ向けたコンサルティングを行い、企業が生まれ変わる支援をしてきた㈱ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長に聞いた。

『機械設計』編集部

企業の働き方改革をサポートするワーク・ライフバランスの立上げから約20 年が経ちました。この間、働き方改革への関心や取組み状況はどう変わりましたか。

小室

私が起業した2006 年と比べて格段に社会が変わってきたと感じます。特に、時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務化などを定めた「働き方改革関連法」(2019 年施行)の影響が大きく、施行から5 年経った今年は、建設業界や病院など「自分たちは(特有の事情があるので)仕方がない」と考えてきた業界でも、人々の意識が変わってきました。全業界の足並みが揃ったことで取組みが非常に進みやすくなっています。
「中小企業は働き方改革に取り組みづらい」という誤解もずいぶん長くありましたが、すでに平均残業時間は中小企業の方が短くなっています。これは、業界を問わず「いい人を採用するには、いい働き方でないと難しい」という意識が浸透し、人材確保の面でも働き方改革に前向きな企業が増えたからだと思います。

編集部

長時間労働のイメージが強い建設業界や病院でも取組みが広がっているのですね。製造業ではどうでしょうか。

小室

「製造業の働き方改革は難しい」という意見も当初は非常に多く聞かれました。個々の企業によって大きな差があるのも事実です。ただ、取り組む企業の数が増え、いろいろな先進事例が出てきています。確実に進んでいる印象です。
一例として、2014 年に全社研修をご依頼いただいたことがきっかけで取組みが始まった㈱サカタ製作所(新潟県長岡市)を紹介します。社員約2 機械技術150 人で金属屋根部品の製造を手掛ける同社は、2014 年から働き方改革の取組みをスタートし、2年間で1 カ月の残業を1.2 時間まで減らすことに成功しました。残業を減らしても業績は堅調で、最近聞いたところでは、基本給を取組み前の1.5倍にアップしていました。これは残業代が浮いた分を最初は賞与に還元し、その後も残業時間がリバウンドしなかったので、少しずつ基本給に組み入れてきたことで実現したそうです。さらに、以前は苦労していた採用にもまったく困らなくなり、この点を最も喜ばれていました。

編集部

取り組むうえでの苦労はなかったのでしょうか。

小室

同社でも当初は製造業ならではの難しさを指摘する声がありました。職人技をもつベテランの仕事は、若手にすぐに代われるものではない、と。けれど、いわゆる「仕事の棚卸し」を行い、属人化を解消した結果、誰が休んでも業務に支障がない職場に変わりました。男性社員の育児休業取得率は5 年連続で100%、取得期間は平均5 カ月で、社員の家庭で生まれるお子さんの数も、取組み前の4.5 倍に増えています。

編集部

中小モノづくり企業では、採用できる企業とできない企業との差が広がっています。この問題に対しては、どのようなアプローチが有効ですか。

小室

われわれが企業に勧めているのは「勤務間インターバル」の導入です。これは、1 日の勤務終了後、翌日の出社までに11 時間のインターバル(休息期間)を設ける制度で、19 年から日本でも法制化され努力義務になっています。この制度を導入するだけでなく、採用時に制度についてきちんと説明することが重要です。勤務間インターバルを導入した宮崎県のある中小メーカーは、若手社員が制度の存在を非常に喜んでくれたと話していました。今、多くの若者が、入社後に自分らしく働けるのか、趣味の時間や家族と過ごす時間をもてるのか、健康に働き続けられるかなど不安を抱えています。そんな若者に対する企業としての姿勢を示す意味で、勤務間インターバルの導入に挑戦してほしいと思います。

付箋を使い意見を引き出す

編集部

働き方改革に取り組む際は、どんな方法で進めていくのがいいでしょうか。

小室

仕事のやり方をどう変えていきたいかを各人が考え、意見を出し合って議論する場をつくるといいです。そのために、われわれと一緒に取り組む企業では、職場をどう変えるかを考える「カエル会議」を実施しています。
カエル会議では、付箋を使って意見を出し合います。若い人は変えたいこと、やりたいことのアイデアをたくさんもっていますが、対面・口頭では上司に言いにくい。その点、付箋を使う方法は有効です。5 分間で付箋に「〇〇会議が長い」、「△△工程は無駄」などの意見を書き、皆で一斉に出します。こうすると、人の意見に振り回されることがありません。

編集部

現場の問題点を見つける改善活動に似ています。

小室

トヨタ方式の「カイゼン」との一番の違いは、カイゼンして空いた時間に別の仕事を入れるのがカイゼンなら、「空いた時間を何に使いたいのか」というライフ(生活)面も皆で話し合うのがカエル会議だという点です。
たとえば、スタッフ5 人のある薬局店舗では、独身の店長が「休みは不要」というスタンスの方で、有給休暇を1 度も使ったことがありませんでした。店長に気兼ねして、ほかのスタッフも有休を使いにくい状況でした。ところが、付箋を使って「有休をとれたらどこに行きたいか」を出してもらったところ、「ライブに行きたい」、「ディズニーランドに行きたい」などたくさんの意見が出たのです。店長は、「私は休みなんていらないと思っていたけれど、皆は休みたかったのか」とそのとき初めて気づき、率先して有休を使うようになりました。スタッフも有休を使いやすくなり、結果、ライフが充実して、その分を職場に恩返ししようといういいサイクルが回り始めました。
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