部品の素材が変われば、装置の機能や能力が飛躍的に向上する可能性がある。共和製作所(愛知県碧南市)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の板材に切削で穴やポケットの形状を加工する技術を確立した。半導体製造装置への採用を目指す。特殊な材料に関する知見と独自の切削加工技術を活かして、需要が旺盛な市場へ参入する。
穴とポケット形状をもつ部品
共和製作所が製作したのは半導体製造装置の1つであるEUV 露光装置の静電チャック(ウェハを置く部分の部品)を想定し、30cm のウェハが載る形状。厚さは3mm で12 角形の板に穴が20個、内径はポケット加工により1mm の厚さになっている。部品全体に導電性や防塵性をもたせるため、特殊なフッ素樹脂コーティングを施した(図1)。コーティングの密着性が高まるように加工面の切残しや穴部分のバリを抑制した。
図1 内径はウェハが置かれるため、ポケット形状になっている
CFRP を半導体製造装置の部品として採用することで得られる利点は7 つあることを同社は説明する。
1 つ目は高強度・高弾性であること。CFRP は炭素繊維と樹脂からなる複合材であるため、高い強度と高い弾性を有している。そのため、高負荷の衝撃や振動を受ける可能性がある装置の部品と相性がいい。
2 つ目は軽量であること。CFRP は半導体製造装置の部品として使用されることが多いアルミニウムに対して約40%軽くなる。この軽量性により、搬送や設置が容易で、動作時の力が小さくて済むため、省エネルギー化につながる。EUV 露光装置のような大型精密装置にとっても軽量性は重要なポイントになる。
3 つ目は低熱膨張率であること。熱膨張係数が低いため、温度変化による寸法変化が少ない。高温や低温といった温度変化が大きい環境でも耐えられる。
4 つ目は振動減衰性。CFRP を構成する炭素繊維と樹脂の2 種類の物質が異なる性質をもつため、振動による変位が少ない。振動による装置の影響を低減する。
5 つ目は耐腐食性。経年劣化が少なく、装置のメンテナンス頻度の低減が可能になる。
6 つ目は耐疲労性が高いこと。繰返し荷重や振動に対する耐性がある。
7 つ目は材料設計の自由度があること。必要な方向に強度を高める材料設計ができ、たとえば、負荷のかかる方向のみ強度を強めることができる。
一方で、切削加工により形状をつくるには、切削工具の摩耗が大きく、コストが課題になる。穴加工ではバリの制御が難しく、品質の維持にも課題がある。加工部分には粉や欠けが生じることによる粉塵への対応の必要性がある。また、CFRPの素地は導電性が少ないため、発生した静電気により、半導体デバイスを損傷させる課題もあった。導電性CFRP 製部品の開発が進むが、通常のCFRP より製造コストが上がり、加工難度も高まるという課題がある。
「CFRP の切削に関する万能な資料は、私が知る限りはありません。まさに『試行錯誤の末に成功した』という言い方しかありません」と河口治也社長(図2 左)は振り返る。
大宮勝美工場長(同図右)は特別な工作機械や切削工具を使用したのではなく、一般的な複合加工機と既製品のドリルやエンドミルだけで目標とした形状を加工したことを明かす。
「CFRP の切削に関する資料はいくつかありますが、当社が目標とする形状を加工するうえで、そのまま適用できるものは見当たりませんでした。既存資料を参考にしながらも、加工条件などを独自に調整し、試行錯誤を重ねることで、最終的に目標を達成することができました」(河口社長)
ラジコンやドローンのパーツでノウハウを蓄積
同社の祖業は自動車や工作機械の部品の製造で、粘りやバリが生じやすい純鉄や硬くて脆い焼結金属などを加工材料として扱ってきた。その後、時代の変遷を経て事業領域を転換。金属以外の特殊素材の加工の専業へ事業を転換した。その素材の1 つがCFRP の切削加工だった。CFRP の切削加工による機械部品では、半導体製造装置部品の加工技術を確立する以前に、工作機械の摺動面の部品やロボットの把持機構の吸着パッドの部品として採用された実績がある。こうした本格的な産業機械部品を手掛ける前にはラジコンやドローンのパーツの製作でCFRP の切削加工に関する知見を積んだ。
「ラジコンのパーツは外観の品質を左右する切削加工の精度や加工面の綺麗さについて品質要求が高度で、ドローンのフレームや各種パーツは上記に加えて、切削加工を施す部分が多く、厳格なピッチ精度が求められました。これらに関して工具摩耗による加工品質の見極めがポイントでした」と大宮工場長は振り返る。加工時の切込み量や切削速度、送り量などの一般的に推奨されている条件を再検証して、CFRP の積層構造に応じた加工条件をこの時点で確立できたことが結果につながった。
環境対応の複合材の加工技術の確立に向けて
CFRP を切削加工し、機械部品として活用する技術の道を拓いた共和製作所。CFRP 製半導体製造装置部品の製造技術の確立と同時に、リサイクルCFRP や天然繊維強化プラスチック(NFRP)など、さまざまな複合材の加工技術も確立した。
金属部品と市場の大きさは異なるが、圧倒的な知見と実績を積めば、独自性に十分なり得る。
「機械部品に耐えられるCFRP 製の形状を切削加工で達成できるサプライヤーはそう多くはないはずです。半導体製造装置の部品に限らず、いろいろな可能性を秘めている材料なので、確かな知見で加工できるサプライヤーであることを知ってほしい」と河口社長は独自技術を訴求していく考えだ。