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機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2025.04.30

測定で培った確かな技術・考え方を金型製作と成形に活かす

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プロニクス㈱ 代表取締役社長
森本 奈美氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

 寸法測定受託サービス業として京都で産声を上げたプロニクス(京都府宇治市)。顧客のモノづくりの工程を止めないことを意識し、測定品質の保証を請け負うことで信頼を獲得してきた。金型設計・製作やプラスチック射出成形に業態を広げたことに加え、高度な工学の知識や技能をもたない人材を、早期に戦力にする仕組みを確立したことが競争力を生み出している。率いるのは森本奈美社長。サービス業でのキャリアを通じて培った気遣いやリーダーシップでさらなる成長へ導く。
森本奈美代表取締役社長

森本奈美代表取締役社長

祖業は寸法測定受託サービス

今泉

「寸法測定受託サービス」と「金型製作」、「射出成形」というのは珍しい事業展開ですね。

森本

父・井上仁良が、金型メーカーに勤めていたときに、ある“ 問題意識” をもち、創業しました。その問題意識というのが、成形品の測定作業や人員の余剰管理に関する煩わしさです。金型の評価時に、要求仕様の成形品が成形できるか試作を行い、その成形品のあらゆるデータを取得するために、さまざまな部分の寸法や形状を測定し、金型の修正時に活用します。実際の作業の面での煩わしさに加え、業務を担う測定部門は金型製作の件数によって人員に余剰が生じてしまう。そうした実際の現場の課題が当社を創業するきっかけとなりました。だから、祖業は寸法測定受託サービスなのです。寸法測定を手掛ける中で金型設計や製作、射出成形事業にも業容を広げたのが当社の生い立ちです。

寸法測定受託サービスについて詳しい内容を教えてください。

「検査測定部」が各種機械部品の寸法や形状を測定し、依頼主仕様の報告書を作成します。射出成形品や金属プレス成形品、ダイカスト部品、金型部品など機械加工部品の寸法や形状に関する各種項目を、測定機器を使用して測定します。形状はシンプルなものから複雑なのものまであり、測定箇所は多いもので31,000 カ所あるものもあります。サイズは測定顕微鏡やノギスなどの測定機器で測定する小型のものから、門形の接触3 次元測定機の測定範囲をフル活用するものまでさまざまです。これまで1,800 を超える企業や大学、研究機関から受託実績があります。
寸法測定・計測で事業を成り立たせている企業は国内でそれほど多くはありません。そのため、事業展開に関する当社の特徴になっています。加えて、もっと特徴的なのは、女性が測定受託サービスと金型設計・製作の両事業で欠かせない戦力になっていることです。

金属加工業でも女性を技術者や技能者として迎えて戦力にする取組みは広がっています。しかし、理工系の人材の獲得は大手でも苦労しています。測定や金型設計・製作、射出成形という特殊な業務でよく人材が集まりましたね。

機械工学に関する知識やモノづくりの技能などをもつ人材を確保できれば理想的ですが、それは難しい。大手企業でもそうした人材の争奪戦になっていますよね。当社も機械工学に関する知識や機械加工の技能をもつ人材は採用できません。だから、ごく普通の大学を卒業した人材を採用して戦力にしているのです。

驚きです。

「図面」、「成形」という検査・測定の前提となるモノづくりの基本事項から始めて、「形状の変化を数値化する」、「測定誤差を最小限に抑える」といった、実務に関する基本的な考え方、「測定工具の種類と管理方法」、「幾何公差について」といった実務で必要な専門知識、「幾何公差の測定方法」のような具体的な内容に基づいて研修を行い、サンプル形状を使用した測定作業の訓練により定着を図ります。特別なことではありませんが、原理・原則や基本的な考え方、実際の作業について座学や実習を実施しています。
「何を教えるか」、「定着するようにどう教えるか」ということをよく考えました。「自分にもできる」と自信をもってもらわないと、業務に対しての興味や面白さにつながらない。興味や面白さにつながらなければ、前向きな気持ちにつながりません。

情報を共有して、チームで取り組むマインド

指摘に深く同意します。

測定も射出成形も、お客様である依頼主が必要とする仕様・品質に対して不足なく、正確な情報、製品を納めなければなりません。そのためには正確な知識と原理・原則に沿って、適切な測定機器を使用する作業が欠かせないのですが、人によって、仕事の進め方や手順が定まっていない点もありました。前提となる知識や技能をもたない人材を戦力にするには、正しい知識や作業方法を確実に理解してもらう仕組みが必要なのに、その仕組みはありませんでした。そうしたことに問題意識をもった検査測定部の社員が、業務に必要な知識的な項目、作業内容を選定・整理し、教育用資料としてまとめてくれました。
教育の仕組みを考えて整備するというのは地味ですが、時間と労力がかかる作業です。丁寧に粘り強く取り組んでくれた社員に感謝しています。こうしたことが実現した背景には、個人に知識や情報が集中することを避け、共有化し、チームで取り組む姿勢をもつ女性がいたからだと感じています。

原理・原則、当たり前のことを確実に行う

金型設計・製作と射出成形事業についての取組みは。

特定の分野に偏らない成形実績があります。手掛けているものは、コネクターに使用される、金属部品がインサートされている部品や分析関連機器、センサの部品です。15~180t の型締め力の成形機を保有し、材料は汎用樹脂とエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックに対応しています。最近はロボットを活用した成形品の取出しと段取り工程の省人化の仕組みを構築しました。ロボットが金属部品を金型にインサートして、成形品を取り出すというものです。金型製作は一般的なマシニングセンタ(MC)や各種放電加工機、平面研削盤で行っています。こちらは人に依存した技能色が強い職場です。ここにも検査測定部で蓄積した教育の仕組みづくりや標準化の手法が活かせれば作業品質のばらつきを抑制でき、合理化が進むと思うので検討したいと思います。そのために、検査測定部の管理職にリーダーシップを発揮してもらっています。
また、最近は金型の磨き作業の受託サービスも手掛けるようになりました。といしやペーパー、ダイヤモンドペーストと実体顕微鏡を使用して複雑・精密な形状に対応します。各種放電加工と切削で生じた異なる加工目の面粗さの均一化や、機械での磨きができない部分のバリ抑制、離型性向上、金型摩耗の対策、窒化コーティング前の下処理として有効です。金型や成形品質の安定化の方法として提案しています。測定の知見を活かした、磨き後の寸法・表面精度の見える化という独自の価値も提案できます。
成形工程ではロボットを活用

成形工程ではロボットを活用

測定の知見と金型設計・製作ができる機能を有しているから可能な独自技術ですね。

ほかにも、レーザスキャニングやモデリングの3 次元技術で、製品とCAD の比較や製品の図面化を行うリバースエンジニアリングサービスを手掛けています。測定の知見と金型を製作する能力を有する実際のモノづくり現場があることをしっかりとお客様に知っていただいて、成長させていきたいと考えています。

今後は。

既存の事業に加えて、金型製作や成形の現場で活用できるツールの開発・販売も手掛けてみたいと思っています。たとえば、現在、ある若手の女性社員が、オープンソースのプログラミング言語を独学して、成形品のバリの量を測定して良品か不良品かを判定する装置の開発に取り組んでいます。まずは、自社で使えるレベルのものが完成すれば、次の改良につながり、販売できるレベルになるかもしれません。射出成形のような量産のモノづくりは製品のライフサイクルが短くなり、自動化の設備を導入するのは慎重にならざるを得ません。そのため、社内で運用する自動化も外販する場合も高機能なシステムによる完全な自動化ではなく「半自動化」が有効だと感じています。
 私自身はモノづくりに関する高度な知識や技能をもっているわけではなく、社員がいるから成り立っているわけです。だから、やるべきことは社員が働きやすい環境・仕組みを構築すること、お客様に対しては、レスポンスを早くすることだと考えています。私は健康食品販売や美容業界など、サービス業でキャリアを積んできました。そうした経験を活かして、社員とお客様を良い方向に導いていきたいです。
もりもと なみ/1983 年、京都市山科区生まれ。41 歳。2006 年、京都光華大学卒業後、健康食品販売や美容関連業界を経て、12 年、プロニクス入社。19 年から現職。家族は夫、中学2 年生の長男、小学5 年生の長女。健康管理に努めながら社長業と主婦業を両立する。

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。

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