人材が定着しない中小製造業の悩み
金属・プラスチック・セラミックの精密切削加工や組立を手掛ける金子製作所(さいたま市岩槻区)は、中小製造業として長年にわたり地域に根ざした経営を続けてきた。しかし、2010 年頃より採用しても社員が定着せず、人手不足が深刻化していた。特に、中途採用では過去の経験やスキルが現場の技術と合わず、即戦力としての活用が難しいという問題に直面していた。また、大学生を対象とした新卒採用にも取り組んだものの、採用した人材が定着するケースは限られていたのである。
このままでは、製造現場で必要な人材を確保することが困難になるという危機感を抱いた同社は、新たな採用戦略を模索することとなった。
戦略的高卒採用への取組みと成果
同社が注目したのは、高校生を対象とした戦略的な採用活動である。地域の高校生にアプローチすることで、地元で働きたい若者を積極的に受け入れ、育成する方針を掲げた。そのために、以下の3 つの施策を実行した。
1. キャラクターによる認知活動
製造業では学生やその保護者になかなか認知されないことが大きな課題である。同社は、地元の高校生に自社を知ってもらうために、親しみやすいキャラクターである「カロネコ」(図1)を作成した。このキャラクターは、地元イベントや学校訪問で配布するパンフレットやノベルティに使用され、企業のイメージ向上と認知度拡大に大きく貢献した。また、地元の高校の周辺では、カロネコをデザインに取り入れた電柱広告(図2)を活用した。結果として、「金子製作所ってなんだか面白そう」という好印象を高校生やその保護者に持ってもらうことができたのである。
2. 先生との丁寧なコミュニケーション
高校生の就職活動では、学校の先生が重要な役割を果たすため、学校の進路指導担当者との関係構築に注力した。定期的に学校を訪問して卒業生の活躍などの情報提供を行い、先生が安心して生徒に企業を推薦できる環境を整えたのである。また、自社キャラクターであるカロネコのカレンダーをノベルティとして配布。日常的に使用されることで、企業を身近に感じてもらうきっかけとなった。
3. キレイ、オシャレ、優しい職場づくり
高校生やその保護者にとって、働く環境の良し悪しは非常に重要である。同社では、職場の清潔感を高めるために大規模な職場改善プロジェクトを実施した。
たとえば、工場を土足厳禁にしたり、本社に「カロネコカフェ」(図3、4)を併設したりした。また、本社の平均年齢は38 歳、工場の平均年齢は25 歳と若く、働きやすい職場づくりを推進している。さらに、有給休暇の取得率を97% 以上にまで高めるなど、休みやすい環境を整え、従業員に優しい職場づくりを目指している。
これらの取組みの成果として、2023 年度には高卒者15 人(全員女性)の採用に成功した。そのうち14 人が現在も勤務を続けており、職場への定着率の高さを示している。
採用の成功に学ぶ3 つのポイント
金子製作所の成功事例には、ほかの企業でも応用できる重要なヒントが含まれている。
1. 製造業の認知拡大策
高校生の採用では、生徒個人だけでなく、進路指導の先生や保護者といった関係者に対しても企業を認知してもらうことが重要である。同社はキャラクターやイベントを通じて、幅広い層に自社を知ってもらう施策を展開した。このような「周辺」への認知活動は、ほかの企業の採用活動にも応用が可能である。
2. 採用成功のカギは信頼関係の構築
同社の成功の大きな要因の1 つは、高校の先生が何を重要視しているのかを理解し、対応した点だ。先生が特に関心を寄せているのは、卒業後に就職した生徒が元気に働き、充実した生活を送っているかどうかである。この点を重視し、就職後の生徒の様子を定期的に報告するなど、先生方に安心感を与える取組みを行った。この情報提供が信頼関係の構築につながり、企業への推薦に結びついたのだ。
3. 職場環境が採用と定着を左右する
職場の清潔感や親しみやすい先輩の存在など、働きやすい環境を整えることは、採用後の定着率向上に直結する。同社では、採用活動だけでなく、企業文化の見直しや現場環境の改善にも注力することで、社員が安心して長く働ける職場づくりを実現している。
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金子製作所の取組みは、採用に悩む多くの企業にとって実践可能なモデルケースとなるだろう。採用活動では、候補者だけでなく、その周囲の人々にどう働きかけるかが重要だ。そして、採用後の環境整備も含めて考えることで、より強固な組織づくりが実現するのである。