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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.01.10

「残業は当たり前」じゃない 時代に合った縫製工場を目指す―ドゥ・ワン・ソーイング 岡山工場

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 土井縫工所という小さなシャツ工房から70年の時を経て、国内外の一流ブランドを支えるオーダーシャツのトップカンパニーにまで成長した㈱ドゥ・ワン・ソーイング(大阪市中央区)。カスタムメードの男性用シャツの受注生産を手がける岡山工場(岡山県玉野市)では、高効率の独自の生産管理方式「一枚生産方式」を開発し運用している。しかしながら生産現場には、高品質・高単価・1点モノを付加価値とするカスタムメードの受注生産ならではの課題が存在する。納期の標準化や残業時間の削減、多能工化の促進、厳格な品質基準と不良率といった課題を解決するべく、従業員の意識改革をベースに取組みを始めた。

個産品のオーダーシャツを量産システムで生産する「1 枚生産方式」

 ドゥ・ワン・ソーイングは1952 年にシャツの縫製工場として大阪で創業。1990 年に生産体制を整えるべく岡山工場を新設。創業当時はOEM が中心だったが、次第に縫製の下請けだけでは売上に結びつかなくなってきた。そこで生き残りを賭けて新しい事業形態を模索、15 年前にオーダー事業にシフトし、カスタムメードの男性用シャツの受注生産という道を選択した。現在、岡山工場は国内のテーラーや専門店約750 社と取引しており、オーダーに特化したシャツ工場としては日本最大規模といえる。

 1 枚単位のオーダーに対応するカスタムメードは、ともすれば効率が悪くコスト高になる。同社では何十種類もの生地や袖・襟・カフス・ポケットなどのデザインを用意、肩幅・袖・着丈などのサイズは規定値から微調整が可能、さらにはなで肩やウエスト調整などの体型補正も行っている。ドレスシャツ以外にもデニム素材などのカジュアルシャツ、フォーマルシャツも取り扱う。

 カスタムオーダーの受注生産を高効率化するため、最新の生産設備と高度な生産管理システムを連動させた「1 枚生産方式」を開発、運用している。販売店がシステム上でオーダーシートに入力すると、工場のCAD が直接そのデータからパターン情報を抜き取って型紙を自動生成、連動する裁断機がオーダーごとに生地を裁断、それを身頃・袖・エリ・カフス・ポケットといったパーツごとに縫製し、組立工程で縫い合わせて1 枚のシャツに仕立てるといった生産方式だ。

 同工場の日産枚数は350 枚。この枚数を手動でCAD に落とし込むとしたら丸2 日間はかかるという。この1 枚生産方式で、個産品であるオーダーシャツを量産品のように生産ラインに投入することを可能にした。
パーツごとに縫製・加工(不良率の高い襟の工程)

パーツごとに縫製・加工(不良率の高い襟の工程)

CADと連動する裁断機でオーダーごとに生地を裁断

CADと連動する裁断機でオーダーごとに生地を裁断

班長マネジメントと多能工化 協力体制の確立で残業時間を削減

 数年前から抱えている大きな課題は残業だ。日産枚数と売上予測から1 カ月単位の納期表を作成するも、繁忙期などで受注が予定枚数を上回ると残業せざるを得ないのが現状。「縫製工場では『繁忙期に残業するのは当たり前』という精神論がまかり通っている。うちも残業して納期を死守しています」と清本工場長は危惧する。コスト高もさることながら、残業が多いと人材が集まらない。今の若い世代はワークライフバランスを求めるので、残業は人材確保を難しくし離職率を上げる。そこで2 つの取組みに力を入れた。

 1 つは、各ラインの班長のマネジメント。「工場全体で協力しあえる体制ができれば、残業時間はおのずと減るはず。まずは班長が中心となってほかの班と連携をとる必要があります」(同)。

 製造課には班長は6 名、20 代後半が中心。求める班長像は「ほかの班とコミュニケーションをとれること、自分の班を指導し育成できること」。以前は課長が一から十まで指示を出し、班長の体を成しておらず、部下を成長させるという本来の役割を果たせていなかった。清本工場長は「縫製業は黙々と作業するのでコミュニケーションが苦手な子が多いんです。コミュニケーションとは何ぞやから教えています」縫製課の鈴木裕介課長は「同じ言い方でも伝わる子と伝わらない子がいて、相手に合わせて伝え方を変えています」と言う。週次で班長ミーティングを開き、情報共有や意見交換を行っている。以前は個々の班に与えられた役割を果たすだけだったが、今では人手が不足している班に自主的に応援人員を送れるようになり、協力体制が生まれている。

 もう1 つは多能工化の促進だ。同工場は女性従業員が8 割を占め、産休・育休や看護休暇の取得率が高い。1 人休むと1 人以上の生産性が下がり、ボトルネックになっている。製造部には裁断課・縫製課・品質管理課があるが、ほかの課や班に応援を送っても機能しなければ意味がない。縫製課ならシャツを丸々1 枚縫えるというように、所属する課の全工程の習得を最終目的としている。

「生産効率を上げるには多能工化は必須。新たな作業を覚えなきゃいけないので嫌悪感を持たれがちですが、多能工化=残業削減という“意識づけ”をするしかありません」(清本工場長)。そのため評価の見える化や年2 回の個人面談を実施。工程を細分化して各人の習熟度を評価し、班ミーティングで共有している。面談で要望をヒアリングしすり合わせることで意欲的な従業員も出てきた。
工程単位の進捗状況や生産枚数、納期を見える化

工程単位の進捗状況や生産枚数、納期を見える化

目視検査の強化 「絶対に不良を出さない」という意識づけ

 一方、不良率も大きな課題の1 つだ。当初は生地の裁断後と出荷前の2 回の検査を行い、汚れ・キズ・縫製不良による不良率は30%だった。全数検査(量産なら通常は抜取検査)を実施しているので数値は必然的に高くなるが、100 枚中30 枚が不良ではさすがにモチベーションも下がる。

 そこで、チェックポイントを増やし、目視検査を重視する意識を強化した。裁断後の生地検査と出荷前の最終検査の間に中間検査を追加。袖・襟・カフスなどの各パーツが完成した時点でパーツごとに検査して不良を弾いてから組立工程に投入する流れに変更したのだ。これにより工程別に不良率を集計し、ミスの発生しやすい工程のあぶり出しが可能となった。たとえば襟とカフスでの不良が多く、芯地の接着工程で埃が入り込むからとその原因も突き止められた。
パーツの中間検査で発見された不良の修正依頼書

パーツの中間検査で発見された不良の修正依頼書

 また設備メンテナンスも、たとえば刃は毛羽が出たら替えるルール(1 カ月に1 回程度)を毎週交換することに変更した。定期メンテナンスの強化で、機械が原因の不良率は大幅に下がった。「カスタムメードという高単価商品の付加価値として高品質は絶対です。安定した品質の担保が最優先、そのための費用は惜しみません」(同)。

 その結果、不良率は9%減を達成。それでも21%は業界ではまだ高い。目標生産枚数が300 枚なら370 枚はつくらないといけない。「やはり意識の問題は大きいです。ピッチタイムを下げてでも1人ひとりが不良を出さないよう意識すれば、もっと楽な生産ができるはず」と清本工場長は指摘する。真面目ゆえに迷惑がかかるからと不良をいい出せない従業員もいるそうだ。恐れずに不良を報告しあえる現場づくりが今の課題だ。
黙々と作業を続ける従業員のみなさん、「ミシンの音で焦りや不良率がわかる」と清本工場長

黙々と作業を続ける従業員のみなさん、「ミシンの音で焦りや不良率がわかる」と清本工場長

品質と納期の安定が一番大事 繁忙期でも安定した生産を目指す

 本来は生産管理システムで受注をコントロールすれば、納期を標準化し、残業削減や品質安定化が大幅に進む。すべてのオーダーをシステム上で受注できれば、リアルタイムの納期調整が可能となるが、現状はFAX によるオーダーが約40%を占めており一本化されていない。受注予測を立ててシステムをランニングさせても、FAX でいつ何件入ってくるかわからないのだ。今は取引先の協力を得ながら徐々に一本化を進めている。

 こうした状況下、やはり従業員の意識づけによる協力体制の確立、多能工化、不良低減が大きな意味を持つ。これらの取組みを開始してから約3年、残業時間は大幅に減り、多能工化も進み、不良率も3 分の1 まで低減できた。しかし繁忙期で納期に追われると不良率が跳ね上がり、残業が増えるという不安定な状態は否めないという。

「納期と品質が一番大事。システムと従業員が成熟すれば、納期の標準化と品質の安定化を図れ、生産性が向上して次のステップへ上がれるはずです」と清本工場長は確信している。

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