工場管理 連載「工場はプロフィットセンター 儲けを生み出す工場を実現しましょう!」
2025.05.26
第4回 そのAI導入で工場全体の生産性はどれだけ上がりましたか?
スマート工場研究所 渡邉 寛
AI やIoT の技術を活用して、工程の自動化や問題改善をしたという話をよく聞きます。でも、“それで工場全体の生産性や生産高がどれだけ上がりましたか?”と聞くと口ごもる、そんなことがよくあります。DX やスマート化というトレンドに乗って、デジタル技術を工場に導入しようという試みることは良いことです。しかしながら、それで工場全体の生産性や生産高が変わらなければ、その活動の意味はありません。せっかくやるのですから、ぜひ、工場全体の生産性や生産高を改善する活動に変えていきたいものです。
では、なぜこんなことが起こるのでしょうか?
AI導入の落とし穴
筆者は1 つに改善文化の罠があると思います。日本の製造業では、工場の各部門や現場で日々改善を行っていくことが定着しています。これは素晴らしい企業文化ですが、一方それらの改善が工場全体の改善(たとえば、生産高の増大やコストダウン)に本当のところどれだけ貢献しているか、曖昧であることが多いのではないでしょうか。各現場で毎期改善目標を設定し取り組む、そして、それらの成果を報告する。これらは皆さんにとっては結構大変ですよね。これを繰り返すうちに、視点は個別工程にロックされ、工場全体を見える目を失い、成果についてもいつしか客観性を失い都合の良いデータを採用して鉛筆を舐めて評価する。そんな状態に陥ってしまっている工場も少なくないと思います。
そこに、DX 化の号令がかかり、現場の改善活動にAI/IoT の技術を活用してできることはないかと考え、取り組む。個別最適はなされているかもしれませんが、工場全体の影響を評価していないので、ムダな活動になっていることも多々あると考えます。改善活動に当たり、工場全体を俯瞰し、どの工程のどの問題の解決や改善に取り組むことが、工場全体の生産性の向上や生産高の増大に最も効果的かを考えて実践する、そして、それらの活動の結果、工場全体の生産性や生産高がどれくらい改善したかを可視化して評価する、このようなアプローチが必要と考えます。
効果を生む3つの進め方
そこで、成果を導く3 つのポイントについてご説明します。
1 つ目は、工場の生産性や生産高のボトルネック、経済損失が大きい事象、そこにストレートにターゲットして取り組むことです。
工場全体を俯瞰して、生産性の向上や生産高の増大を阻害している問題事象を特定すること、そして、その原因を突き止めること、そこからようやく問題解決に取り組むことができます。ここで重要なことは対象工程における経済損失ではなく、工場全体に対する経済効果・損失を算出・評価することです。たとえば、ある工程のある問題が原因で工場の操業度が下がり、工場の目標生産高が3%減少しているのであれば、それを解決することで得られる経済効果は目標生産高× 3% です。その問題を解決しても工場の生産高が変わらないのであれば経済効果は0 です。後者の場合、当該問題は改善する価値の小さい問題ということです。
2 つ目は、“問題”を見つけるだけではなく、状態をより良くしようという視点を持つことです。
時に問題を見つけることが難しい場合があります。それは日常という衣を纏い、当たり前のように毎日皆さんの目の前にあるからです。そんなときは、たとえば“生産高をあと5% 高めるにはどうしたらよいか”と考えて見てください。今より良い状態はどういう状態だろう、そしてそれを達成するにはどのようにアプローチしたらよいか、そのような視点は改善の可能性や範囲を広げます(図1)。
3 つめは、問題解決のための適切な手段を選ぶということです。
“DX だからAI を使って、…”というような解決方法の前提を置くことは、かえって解決を遠ざけることがあります。筆者の経験でも、AI では解決が難しい問題であっても、センシング機器を活用することで、解決できたことがたびたびありました。世の中にはいろいろなツールや技術が溢れています。前提を置かず、問題を解決できる方法を広く調べ、出会うことが重要です。
取組み例
一例を紹介しましょう。あなたが設備保全の担当だったとします。そこで、DX を推進しろと指示されました。次のように進めてはどうでしょうか。
①過去10 年の障害やメンテナンスの履歴(=問題案件)を並べます。あるいはこれから起こり得る大きな障害をイメージします。
②それら各問題案件の経済損失を評価します。経済損失とは、「障害の復旧にかかったコスト(外注費・部品代など)+生産機会損出(失しなった生産高))×年間の発生確率」などで算出します。失った生産高は特定の工程の損失額ではなく、工場の操業が停止した金額です。たとえば、そのトラブルにより工場全体の生産が半日止まったとすれば、1 日の生産高の半分+修理代がその問題の経済損失額です。工場の操業に影響が出ず、工場の全体の生産が止まらなかったら生産機会損出額は0 です。問題解決に要した社内人件費などは実質的な影響金額を曖昧にして、かつ、恣意が入りやすいので原則除く方が良いと考えます。
③そして、影響度の大きなものから解決策・回避策を検討して実現性の評価と費用見積もりを実施します。実現性があり、経済合理性のあるものから取組みを始めます。解決策を見つけるためには、予断を持たず広く問題解決の方法を調べることです。アイデアは空から降ってこないので、皆さんが積極的に取りに行く必要があります。セミナーなどに参加して話を聞くだけでは駄目で、多くの人と会って、問題事象や解決策について積極的に意見交換することが重要です。その過程でさまざまなヒントやアイデアが生まれ、最終的に問題解決に至ることが多いのです(図2)。
いかがでしょうか。皆さんもぜひ参考にして頂ければ幸いです。