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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2025.11.05

第14回 長尺・厚板の銅製バスバーを金型レスで加工する―伊藤金属工業

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 自動車部品のプレス・鍛造メーカーの伊藤金属工業(愛知県知多郡東浦町)は、長尺の銅製バスバーをベンディングで製造する技術を開発した(写真1)。
写真1 ベンディング加工した長尺の銅製バスバー(上)とアルミ合金製バスバー(下)(写真提供:伊藤金属工業)

写真1 ベンディング加工した長尺の銅製バスバー(上)とアルミ合金製バスバー(下)(写真提供:伊藤金属工業)

 同社は、オイルノズル、ユニオンパイプ・ウォーターバイパスなどエンジンの配管部品を手がけ、加工技術として深絞り、フォーミング、切削、ろう付けなどで独自の工法を揃える。手がけるエンジンの配管部品の中には、φ4~17mm の鉄系もしくはステンレスのパイプを、エンジンルーム内でほかの部品と干渉しないように成形する高精度な曲げ加工技術を誇る。その曲げ加工技術をベースに電気自動車(EV)向けに長尺の銅製バスバーを製造する技術につなげた。

大電流化に対応できる技術を…

 バスバーは、EV などで大容量の電流を流すための電極(導電部材)であり、銅やアルミニウムなどでつくられる。バスバーの製造は、一般的にはプレス加工が用いられる。プレス加工は量産性が高いが、板厚が厚くなると加工が困難になり、長尺になると材料歩留まりが悪くなる。

「今後、EV も大電流化に向っていけば、断面積の大きな板厚の厚いバスバーの需要も高まっていくと思われます」(大橋秀俊新規事業PJ PL 次長)

 現状、EV 向けの銅製バスバーは、量産性の観点から主にプレス加工で製造される。ただ、プレス加工だと金型とプレス機の能力から成形品の寸法(長さ・板厚)が制限される。それに対してベンディング加工なら長さと板厚の制限も回避できる。そう考えて同社は2024 年にベンディング加工でのバスバーづくりの検討を始めた。

「本来の業務の合間をみながらベンダーでバスバーを加工する技術開発を始めました」(大橋PL次長)

 工法は基本的にパイプのベンディング加工と同じだ。ベンダーの2 つの駒の間に板材を送り、X-Y 方向に曲げる。また、爪で板材を挟んでZ方向に曲げることで3 次元に曲げ加工する。曲げ加工時の被加工材の伸びや横方向への膨れ、スプリングバックはこれまでのパイプ加工のノウハウを活かして適切に制御する。さらに、ボルト締結用の端部の穴はベンダー設備内にパンチを装備して打ち抜いて成形する構想。

心強い工法が完成した

 プレス加工に比べて長尺で厚板のバスバーを製造できる新工法により、長さ1,800mm、板厚5mm のバスバーを試作した。新工法は、ロール材か定尺材を曲げ加工するだけなので材料ロスが発生しない。プレス加工だと打ち抜いた形状部以外はスクラップになってしまうが、ベンディング加工なら歩留まりが良いので材料コストも抑えられる(図1)。また、異種金属のクラッド材(銅・アルミ・銅の3 層構造のクラッド材を試作)も加工でき(図2)、金型を用いないため初期投資も抑制できる。さらに、バスバーは通常、高電圧への安全対策(絶縁処理)としてプレス加工後に樹脂製絶縁材を被覆するが、新工法なら絶縁材を被覆してから曲げ加工ができる可能性があるため成形後の絶縁材の被覆工程を削減できる。
図1  従来の銅板からのプレス抜き(左)は材料の歩留まりが低い。新工法のベンディング加工(右)なら材料の歩留まりを高められる(画像提供:伊藤金属工業)

図1  従来の銅板からのプレス抜き(左)は材料の歩留まりが低い。新工法のベンディング加工(右)なら材料の歩留まりを高められる(画像提供:伊藤金属工業)

図2 クラッド材もベンディング加工できる(画像提供:伊藤金属工業)

図2 クラッド材もベンディング加工できる(画像提供:伊藤金属工業)

 ただし、加工時間ではプレス加工に劣るため、中・少量生産や長尺・厚板といったプレス加工では難しい用途に向けた活用を想定している。例えば、EV 向け銅製バスバーもそのターゲットになる。実際、海外の自動車メーカーは、長さ1,200~1,500mm の銅製バスバーをすでにEV に搭載している。それをベースに今後の国内メーカーの動向を予測し、長尺・厚板のバスバーを量産できる体制の構築を見極めていく。今後も拡大していくであろうEV の大電流化に心強い工法が提供されるようだ。

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