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工場管理 連載「ちょっと待った! そのDXは失敗します」

2025.01.23

第6回 DXなんて必要ない、行動デザインでスループットを改善しよう

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ダイテック 山口純治

やまぐち じゅんじ:執行役員 DX 推進本部 本部長
研修講師およびコンサルタント。業務改革、業務の可視化・整理・標準化、システムの導入・運用を支援し、企業のDX 推進や目標達成を伴走型で支援。
 DX という言葉の元来の定義は、「デジタル技術によって、あらゆる面で人々の生活をより良く変化させること」です。企業においては、「顧客や社会のニーズに対応するよう、データとデジタル技術を駆使して会社を全面的に刷新すること」となります。では、何のために、会社を刷新する必要があるのでしょうか。“顧客や社会のニーズが絶えず変化していく中で、自社も変わらなければ生き残れない”というのがその答えです。東京商工リサーチの調査によると、2023 年の企業倒産件数は8,690 件、そして休廃業・解散企業は、過去最多の4 万9,788 件となっており、約6 万社が事業を継続できなくなっています。企業が存続するためには、外部環境の変化に対応し適応することが重要となります。

 “マネジメント”という言葉の発明者であるピーター・ドラッカーは「Change or Die(変革か死か)」というニュアンスの言葉を残し、組織やビジネスの世界における変化の重要性を頻繁に強調していました。

 企業が本当に実現したいことは、DX でもなければ、変革でもないはずです。厳しいビジネス環境の中で生き残り続け、社会から選ばれ続けることが、企業の目標であるべきです。したがって、「DX」という言葉に踊らされることなく、社会から自社が選ばれる理由を創り続けることに注力すべきなのです。この連載を通して、一貫して言い続けていることは、目的のために手段を選択することですが、多くの場面で手段の目的化を散見します。図1 を見てください。
図1 ボトルネックの工程はどこか?

図1 ボトルネックの工程はどこか?

ボトルネックの特定と改善

 工場で4 台の機械を使って製品を加工し組み立てています。機械1 で加工された部品が次に機械2 へ、そこから機械3 へ、最後に機械4 へと順に工程が移り、完成品がつくられます。アウトプット(完成品の量)を増やしたい場合、どこを改善すべきでしょうか?もちろん、ボトルネックである機械3となります。機械4 の1 日の生産量を20%改善し、120 台から144 台にしたところで、ボトルネックである機械3 が65 台しか生産できませんから、1 日の生産量は変わりません。つまり、ボトルネック以外の業務の効率を高めても、完成品の生産量は変わらないということです。

 こう説明すれば当たり前だとわかりますが、この「機械」を「部署」に置き換えて考えてみたらどうでしょうか。多くの企業で、各部署が自部門の効率を上げる努力をしています。ビジネス全体の生産性に着目するのであれば、価値創造プロセスにおけるボトルネックに注目し、そこを改善するべきではないでしょうか。しかし、部門最適が横行するピラミッド型組織ではこのような取組みは極めて困難になります。企業が達成したいのが利益の拡大であれば、全体のプロセスにおけるボトルネックの特定と改善が必要です。

行動デザインのアプローチ

 企業変革を達成するために、当社は「行動デザイン」というアプローチを提唱しています。行動デザインとは、組織が期待する結果を得るための社員の行動を設計することを意味します。

 ①結果はインプットとプロセスに影響される
 ②プロセスとは社員や関係者の行動を指す(一部システムや協力会社が代行する領域あり)
 ③期待する結果を得るためには、正しい行動の設計(デザイン)が必須
 ④正しい行動の設計とは、業務プロセスの設計に加え業務ルールの設計を意味する

 組織変革を達成するためには、全体のプロセスを設計し社員の行動を設計する「行動デザイン」というアプローチが非常に有効です。行動デザインを通じて、組織内のメンバーが目標達成に向けて効果的に動けるようになります。

 IT 技術の導入による変革アプローチではなく、まず業務プロセスと社員の行動を設計することで、業務遂行に効果的なIT 技術を検討するというアプローチとなります。

 行動デザインのグランドデザインを紹介します(図2)。
図2 行動デザインのグランドデザイン

図2 行動デザインのグランドデザイン

ステップ1:社員のノウハウの可視化
 組織内の知識を共有しやすくするための第一歩として機能します。これにより、社員間での情報のギャップを縮小し、知識の共有と再利用が可能になります。特に、ブラックボックスとなっている熟練社員のノウハウを可視化することが重要です。

ステップ2-1:業務プロセスと業務ルールの可視化
 期待する結果を得るための新しい業務プロセスを設計し、業務遂行のための手順書やマニュアルを作成します。手順書やマニュアルが整備されることで、新しい社員でも迷うことなく適切な行動がとれるようになります。

ステップ2-2:社員の教育プログラム&コンテンツ制作
 可視化した業務プロセスを元に、各業務を遂行するための知識と技術を明確にして、教育プログラムと教育コンテンツを開発します。業務遂行における必要なマインド、知識、そして技術を教え、個々のスキル向上を促進します。

ステップ3:スキルアップデートされた社員による業務遂行
 社員は、更新されたスキルと知識を実務に適用し、共有された業務ルールに従って業務を遂行します。

ステップ4:業務結果とノウハウの分析
 ヒヤリハットやトラブル・クレーム情報に加え、実際の業務から得られた社員の知見やノウハウを組織全体の資産として蓄積し、分析します。これにより、さらなる改善点が明らかになります。

ステップ5:業務ルールと社員のスキルのアップデート
 新たに得られた知見を組織全体で共有し、業務ルールや教育コンテンツをアップデートします。これにより、継続的な改善サイクルが完成します。

 社員の能力開発と組織の知識管理を同時に推進することで、継続的に業務品質を高め、組織の成長を図ります。行動デザインのアプローチにより、組織内でこのような仕組みを構築すると、社員のスキルと業務ルールが継続的にアップデートされ、持続可能な成長を達成する有効な手段となるはずです。業務プロセスの設計においては、価値を生み出すプロセス全体を見渡しながら検討を進めることが重要となります。

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