工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」
2024.10.28
第2回 新入社員を受け入れるまでに事前準備をする
ジェムコ日本経営 古谷賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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本誌が発売される1 月の時点では、新入社員を受け入れるまでに事前準備を、と言っても「まだ4 月までは数カ月も先のこと」と思われる方も多いだろう。しかし、新入社員の教育では、数多くの先輩諸氏が伝える「段取り八分」(仕事の成否は、事前準備によって8 割方は決まるもの)の言葉にもあるように、事前準備でその成否は大きく変わるものだ。読者諸氏も、ご自身が新入社員であった時を思い出してほしい。多忙そうな先輩社員から、面倒そうな雰囲気で「行き当たりばったり」の教育を受け、これからどうなるのだろうかと不安に思った人は少なくないだろう。
学校を出て、就職で不安を抱いている新入社員にとっては、すべてが未経験で、未知の世界だ。それゆえに、これからどのような教育が行われ、自分たちはこれから何を修得しなければならないのか、少なくとも数カ月先程度のイメージが湧かないようでは、不安は会社に対する不満へと変化してしまう。自分たちが新入社員であった頃に感じた不安を、先輩社員となって教育をする側に立った時に与えてはいけない。「新入社員を受け入れてから考える」では遅いのだ。
何を教えるかをあらかじめ考えておく
一般的に、人事など管理部門が行う新入社員の受入教育では、会社のルールや安全教育など、教育内容があらかじめ決められているものだ。しかし、そのような一般教育が終わり、新入社員の教育担当部門が生産現場に移ると、「後はよろしく」と言わんばかりに、現場の教育担当となった先輩社員に丸投げされる。確かに、現場での実務教育を現場に任せる判断は間違いではない。指導役を引き継いだ現場が、新入社員に何を教育するかということを具体的に検討しないままに、新入社員の教育が開始されることが問題なのだ。
「Z 世代」の新入社員は、雑に扱われることを敏感に感じ取ると言われている。先輩社員の、行き当たりばったりの教育が透けて見えるようであれば、「この先輩は、何も準備をしていない」と認識してしまい、「ていねいに教えてもらえない」といった不満が表出してしまう(図1)。
具体的な教育内容は各社各様なので、ここでは新入社員の受け入れ教育を考える時に注意すべきポイントを挙げる。
教育予定の「見える化」を意識する
「Z 世代」の新入社員は、高校時代、あるいは大学時代にきっちりと練られた教育計画(授業計画)に基づいた指導を受けている。これから学習することは何か、期待される到達点はどんなものか、といったことを明確に示されたうえで教育を受けているのだ。ところが、就職をしたとたん、何の教育計画も示されないままに「教えられたことを覚えろ」と、まるっきり逆の教育に変わってしまうと戸惑うのは当然だ。
そこで、新入社員に対して、「これから修得すべき作業(業務)」は何かを、教育の予定としてできるだけ具体的に示すことを考えてほしい。ここで筆者が勧めるのは「向こう3 カ月の予定」を示すことだ。たとえば4 月に配属されたのであれば、4月から6 月にかけて修得すべきこと(教育すること)を示すのだ。教育計画というと、1 年といった中期的なスパンでの計画を考えることが多いが、筆者の経験上、これはあまりうまくいかない。1年計画を考えようとすると、どうしても内容が大雑把になってしまい、何を教育するのか漠然とした計画に陥りやすい。また新入社員にとっても、入社してから1 年後の自分などは想像しにくく、確実に達成すべきゴールとしてではなく、漠然としたゴールとしか捉えることができないのだ。
大雑把な1 年計画があるに越したことはないが、まずは短期的にイメージしやすい3 カ月程度の期間を想定して、どんなことを教育するのかを考えてみるとよい。そして教育の進捗を踏まえながら、適切なタイミングで「次の3 カ月の予定」を新入社員に提示すればよいのだ(図2)。
すぐに実践できるテーマを考える
「Z 世代」の新入社員は、自分自身が納得をすれば行動し、納得をしなければ行動しないといった特質があると言われている。無意味な指示を嫌い、疑問に思えば「それは、やる意味があるのですか?」と率直に聞いてくる。確かに、上司世代からすると「空気を読まないヤツ」ではあるし、「言われたことに口答えするな」と腹が立つこともあるが、見方を変えれば、当然の主張だとも言える。
教育が無意味ではないことを明確にするためには、まず教育する内容(作業や業務)の目的や意味を、具体的な説明によって理解してもらうことが必要だ。そしてもう1 つ、教育を施された新入社員が職場の役に立つことを実感してもらうことも重要なポイントになる。
難易度の高い作業(業務)を1 年かけて覚えるとなると、教育を受ける新入社員にとっては、自分が職場にとって意味のある存在、役に立つ存在として活動できるまでに1 年間我慢を重ねて教育を受け続けるしかない。1 年先のゴールは遠く、いつまでたっても自分の存在意義がわからないようでは、職場に対する不満は募るばかりだ。前述した通り「向こう3 カ月の予定」を示して教育を行ったら、すぐに実際の作業に従事してもらおう。
新入社員には、(無計画に)雑用などを押しつける現場もあるが、そうではなく、実際の作業(業務)に従事させ、彼(女)らが職場の役に立っていることを早い段階で実感させることが有効だ。
次回までの振り返り
前回の検討課題で、新入社員で直面した困りごとを列挙していただいた。今回の内容を踏まえ、事前準備を適切に行えば、解決する困りごとがないかを振り返ってほしい。
さらに、今回の内容に沿って、新入社員に教育をしたいことを、最初の3 カ月間を想定してできるだけ具体的に列挙してみよう。ポイントは教育計画への落とし込みと、速やかに実践できることを考えることだ。
今月の検討課題
・ 新入社員教育で、適切な事前準備をしておけば回避できた困りごとは何かを考えてみる。
・ 新入社員を受け入れてから、向こう3 カ月で何を教えるかを、具体的に考えてみる。