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工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」

2024.11.22

第3回 新入社員を教育するための教育ツールを準備する

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ジェムコ日本経営 古谷賢一

ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
https://www.jemco.co.jp
 今年度、新入社員を受け入れるまでの限られた時間で、どれだけの事前準備ができるかが、スムーズに新入社員の育成を進めるための分岐点になる。第2 回では、何を教育するのかをあらかじめ考えておくことが重要だと解説した。すでに教育プログラムが充実している企業であれば問題はないが、そうでない多くの企業では、新入社員を受け入れてから教育を担当する指導役の社員が任命され、その後になって何を教育するのかを考え始めることがある。

 事前に練られた教育プログラムを受けることに慣れている「Z 世代」の新入社員は、「その時になって(教育内容を)場当たり的に考える」ような指導役の先輩に直面すると、すぐに「この会社は人を育てる気がない」と見抜いてしまうだろう。読者諸氏には、教えてもらう立場にある人間がそのように考えることは「立場をわきまえない」と映ってしまうかもしれないが、時代はすでに変わっており、そう捉えること自体が次世代人材に対する教育者としてふさわしくないと気づくべきだ。

教育のためのツールを用意しておく

 新入社員に対して教育を行う際には、「教育のためのツール」が必要になる。教育のためのツールにはさまざまなものがあるが、まずは紙モノの資料が挙げられる。教育用のテキストだけでなく、教育対象となる作業の作業標準書などの指示書類もその1 つだ。また、現場の作業をわかりやすく示して教育を効果的に行うために役立つような、写真や動画なども挙げられる。さらには、実際に作業訓練に使うための材料や部材、工具や治具類なども、重要な教育のためのツールと言える。

 もし、教育のためのツールが準備できておらず、「いま新入社員に来られても困る」といった状態ならば、実際に新入社員を受け入れるまでに、必ず教育のためのツールを準備しておくべきだ。新入社員の教育は、ほぼ毎年のように繰り返して行うものである。理想的には、わかりやすく、イラストや写真・動画などを多用した、適切なテキストや作業標準書があるべきだが、少なくとも内容の巧緻はともかく、教育に使う資料類は事前に用意しておくべきだ(図1)。
図1 教育のためのツールは必ず準備する

図1 教育のためのツールは必ず準備する

教育ツールには、デジタル技術を活用する

 教育を効果的に行うためには、適切な指導内容が記載されたテキストや、作業標準書を準備することが大切だ。しかし、現実には、褒められた話ではないが、それらの作成に多くの時間を割くことができないという苦しい事情もある。

 そうした中で、「Z 世代」の新入社員に興味を持って現場や作業を理解してもらうために、写真や動画(ビデオ)を活用することをお勧めする。デジタルネイティブと呼ばれ、スマホなどで写真や動画を見ることが日常生活に織り込まれている「Z世代」の若者にとっては、このようなデジタル技術を活用しない現場は興味の対象にはならない。

 そこで、現場の状況や作業のやり方、あるいは、作業の対象となる現物をとにかく写真や動画で記録をしておくのだ。最悪、紙モノのテキスト類が準備できなくても、事前準備された写真や動画を活用すれば、それだけで教育のためにツールとして活用することができる。

 写真や動画は、注釈や解説を追加するとそれで立派な教育資料になる。それが難しいとしても、写真や動画を見ながら説明内容を事前に考えておくことはできる。そうした事前検討の中で、「この写真ではうまく説明ができない」といったケースが出たら、改めて写真や動画を撮り直せばよい。

 「Z 世代」の新入社員は、文字を読むことより写真や動画を見ることに慣れているため、豊富な写真や動画を見せることで、文章を読ませることに比べてもより高い教育効果が期待できる(図2)。
図2 デジタルツールは積極活用する

図2 デジタルツールは積極活用する

教育の対象となる現物の準備も必須

 当然だが、現場の作業は、知識を習得して、やり方を覚えるだけでは実行は不可能だ。実際に作業訓練として対象となるもの(材料や部材、製品など)を作業手順にのっとって実習することが必要となる。そのためには、教育で活用する「現物」を用意する必要がある。

 たとえばねじ締めの練習であれば、ねじ、ねじで留める対象物(あるいは練習用の材料)、そして工具類が必要だ。ねじのように現場で容易に準備ができる場合はよいが、実際の作業に近い教育を行う場合には、「現物」は実際の作業対象と同等のものが必要となる。

 しかし、当然ながら練習に使ったものは出荷には当てられないので、材料などに余裕がある場合はよいが、そうでない場合は代替品が必要になる。たとえば不良品を活用したり、捨てる予定の廃材を活用したりすることが挙げられる。とはいえ、そういった不良品や廃材は容易には発生しないこともあり、教育ツールとなるサンプルが手に入らないため、教育が中断してしまったり、大幅に遅延してしまったりするという事例も珍しくない。

 それゆえに、早い段階から計画的に、実際に作業訓練に活用する現物を収集しておかなければ、本当に教育をしたいタイミングには間に合わず、新人教育に遅延を生じさせてしまう。実際に作業訓練に活用する現物が事前準備されていれば、意味ある体験に価値を感じる「Z 世代」の新入社員にも十分に訴求するだろう。

次回までの振り返り

 まず、自職場にどのような教育のためのツールがあるのかを洗い出してほしい。紙モノとしてのテキストや作業標準、指示書類。教育に役立つ写真や動画などのデジタル技術を活用した資料類。そして、作業訓練に活用する材料や工具類だ。前回検討した教育計画に沿って必要なツールを確認し、不足しているならば今後準備すべき対象と考えることだ。
今月の検討課題
・自職場にある教育のためのツールを洗い出してみる。
 ①テキストや指示書類など
 ②写真や動画などの資料類など
 ③作業訓練に使う材料や工具類など
・もし不足をしているなら、計画的な準備対象にする。