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工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」

2024.12.16

第4回 いよいよ新入社員の受け入れ開始、現場の準備は?

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ジェムコ日本経営 古谷賢一

ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
https://www.jemco.co.jp
 いよいよ4 月になると、新入社員の受け入れが始まる。まさにZ 世代の若者たちが、読者諸氏の現場にやってくるのだ。企業によっては、すぐに実務の現場に配属されることもあるだろうが、多くの場合、まずは人事や教育を担当する部門によって、会社のさまざまなルールなど、全社的な新入社員の受け入れ教育が行われる。

 そういった受け入れ教育の過程では、高卒社員であれ大卒(大学院卒)社員であれ、企業内のさまざまな部門の業務を理解するために、業務実習といった研修期間を設けることが一般的だ。製造業であれば「現場実習」や「作業実習」などと称して、数日から数週間にかけて、生産現場の各工程を実際に体験しつつ、生産プロセスの理解を深めていくのだ。そして、早ければ1 週間から数週間の後に、新入社員が実際の配属部門に着任することになる。

 本連載の第2 回では、新入社員が配属されるまでに何を教育するのかを決め、大まかな教育スケジュールを仕上げておくこと、そして第3 回では、教育を速やかに実施できるように教育ツールなどを準備しておくことを解説した。第4 回の本稿では、受け入れ直前に押さえておくべき、最後の準備について解説をする。

現場の基本ルールの教育が最優先

 新入社員の教育では、まず「作業」の教育よりも「ルール」の教育を優先する。生産現場は正しい作業を行うために、「決められたことを、決められた通りに実行する」のが鉄則だ。ルールを軽視する職場など、生産現場として論外だ。

 現場のルールであらゆる教育に優先するべきは、「安全」に関わるものだ。たとえば、保護具の名称や使い方、工場内通路の横断のしかたなどだ。これらは現場で働くために、絶対に守らねばならないことだ。「Z 世代」への教育のポイントは、「口頭伝承」ではなく「体験」だ。体験とは、現場の危険個所を実際に見せたり、保護具を実際の現場で使ったりすることを指す。新入社員は何も知らない白紙状態なので、話を聞いただけでは十分に理解をすることが難しい。考え得るすべての危険個所、現場にあるすべての保護具を見せて、体験数を多くする。「一部の事例を見せたから、あとはわかるだろう」といった手抜き教育では、事故が起こるのは時間の問題だ(図1)。
図1 座学だけでなく「体験」機会を活用する

図1 座学だけでなく「体験」機会を活用する

 次に優先するべきは、「行動」に関わるものだ。「現場でポケットに手を入れて歩かない」「安全通路の白線を踏まない」、あるいは「使ったものは必ず元に戻す」といったものだ。「Z 世代」への教育のポイントは「納得性」だ。共感を大事にする「Z世代」は、納得をすれば動き、納得しなければ動かないといわれている。頭ごなしに「べからず集」を押しつけるのではなく、ルールの理由をきちんと説明することが重要だ。もし、教育担当の先輩社員が理由を説明できないようならば、まず自らがルールの理由を腹落ちするべきだ。

先輩はルールを守っているか

 新入社員にルールを教育する場合、教育担当である先輩社員はもとより、その職場にいる全員が確実にルールを守っていることがまずは重要だ。たとえば、安全面から「現場でポケットに手を入れて歩かない」というルールがあったとしよう。しかし、先輩社員がルールを無視してポケットに手を入れながら設備の間を歩きまわったり、階段を小走りに上っていると、新入社員はそれを見てどう思うだろうか。「Z 世代」の新入社員が納得性を重視するならば、先輩から教わったこと(言っていること)と先輩の実際の行動(やっていること)が違うと、不信感を募らせてしまうことは想像に難くない(図2)。
図2 言行不一致は不信感を招く

図2 言行不一致は不信感を招く

 こういう状況では、先輩社員の指導に信頼がなくなってしまうだけでなく、この現場はルールを軽視していると見抜かれてしまい、新入社員も先輩と同様にルールを軽視するようになってしまう。新入社員に教育を行うのであれば、まず、現場の先輩たちが新入社員に不信感を持たれないように、指導するべきルールが現場で徹底されていることを確認し、万が一、先輩社員にルール軽視があるならば、新入社員が配属されるまでに自らのルール徹底を図ることが必須だ。

実習対応は貴重な予行演習

 もし読者諸氏の現場で新入社員の現場実習があるならば、それは教育を予行演習できる貴重なチャンスとなる。しかし多くの企業では、新入社員の実習は多忙な仕事の合間に“しかたなしに”対応せざるを得ない、面倒な業務と位置づけられているのが実態だ。現場実習は、短ければ数日、長くても数週間といった短期間の活動なので、そこに労力をかけたくないと思うのも無理はない。しかし、相手は自分への扱いに敏感な「Z 世代」だ。実習でいい加減な扱いを受けてしまうと、現場に対する悪い評価はずっと残り、大きく意識を変えることは困難と考えるべきだ。

 「この現場は新入社員に対する教育を重視していない」、あるいは「親身に仕事を教えてくれない」と新入社員が感じることがないように、たとえ一過性の実習であっても、あらかじめ準備をしてきた教育内容を実践してほしい。実習の悪い感想や噂話はすぐに新入社員の中に広まり、配属者は最初から偏見の目を持った状態でやってくる。そうならないためにも、研修や実習といった形で現場に来る新入社員たちには誠実に接することが重要だと心得るべきだ。

次回までの振り返り

 まず自職場で、最初に教えるべき現場のルールを書き出してほしい。本稿で示した通り、守るべき「安全」のルール、そして守るべき「行動」のルールだ。そして、それらのルールがある理由をきちんと新入社員に説明ができるかを振り返ってみる。さらに、現場の先輩社員たちが、新入社員に教えるべきルールを自らが守っているかをチェックして、必要であれば、行動を改めることを進めてほしい。
今月の検討課題
・ まず最初に教えるべき、職場のルールを書き出してみる。「安全」「行動」など。
・ ルールの理由を明確に説明できるかを考えてみる。
・ 先輩社員が、ルールを守っているかをチェックしてみる。