工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」
2025.01.16
第5回 新入社員の基礎教育:現場のコトバ(用語)を教える
ジェムコ日本経営 古谷賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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前回は、業務や作業の教育を開始する前に、「現場で知っておくべきルール」、すなわち、安全に関わるルール、現場での行動に関わるルールといったものを教えることについて解説をした。子供向けの交通安全教室で習うような基本的な交通ルールは、安全に街を歩くうえで必須であるのと同様に、生産現場などに立ち入る時に、必ず守るべきルールを最初に教えておくことが重要だ。
第5 回となる本稿では、現場の基礎教育の次のステップとして、現場で使われるコトバ(用語)を教えることを解説する。製品名や工程名、あるいは、治工具や部品の名前などは、ベテランの先輩社員にとって、知らないことが想像できないくらいに、知っていて当たり前のことだ。
しかし、新入社員にとってはすべてが初めてであり、「知らないことが当たり前」なので、先輩社員とは大きな認識のギャップが存在する。その認識のギャップを埋める手段が、現場で使われるコトバ(用語)の共有なのだ。実物、写真、動画、あるいは用語集や工程の説明資料、ウェブサイトなどのネット情報などを準備して教育を行うことが、新入社員が職場の「仲間」として受け入れられたと実感できる第一歩になる(図1)。
コトバの共有は仲間入りの第一歩
「Z 世代」の新入社員は、よく個人主義的な傾向があると評されているが、これは個人の意見や価値観を大切にすることを指し、仲間意識が希薄という意味ではない。若者たちの考え方や行動様式の研究によると、SNS(ソーシャルメディア)に慣れ親しんだ「Z 世代」の若者は、仲間との関係性や、仲間からの評価に敏感であることがわかっている。もちろん、すべての若者が同じ特性を持っているわけではないが、この世代の代表的な特性であることは認識しておくべきだ。
新入社員として同じ職場で働くことになった若者を、仲間として受け入れるために、同じ制服や作業着を着用し、同じ場所で働くことは、とても重要な要素だ。それと同様に、仲間として受け入れられたことを実感するための重要な要素となるのがコトバ(用語)の共有だ。
「Z 世代」の新入社員は共感を大事にするので、仲間内で使われているコトバ(用語)を伝え合うことで、新入社員が先輩社員から仲間として扱ってもらえた、と感じられるように導くのだ。
コトバ(用語)とは、具体的には製品名や工程名、あるいは、部品名や治工具名などが挙げられる。これらの正式な名前や意味を教えると同時に、社内だけで使っている仲間内でのコトバ(用語)などを合わせて教えることもよいだろう。ただし、社内で使われている仲間内のコトバ(用語)の中には、年齢、容姿、性別など、ハラスメントや差別につながる意味を持つ語句が含まれている場合もあり、教育の際には十分に注意をすることが必要だ。
顧客名や製品名を教える
どのような顧客を相手に仕事をしているのかを知ってもらうことは、「Z 世代」の新入社員が、これから従事する仕事がどのような社会的役割を担っているのかを理解するための重要な情報だ。また顧客名だけでなく、重要な調達先名(仕入先名)を知ってもらうことも同様だ。ただし、顧客名リストを提示するだけ、というように名前を教えるだけでは不十分だ。「Z 世代」の新入社員は、単なる文字の羅列には興味を持たないと考えたほうがよい。顧客企業のウェブサイトなどを実際に見せるなどの視覚的な手段を活用しながら、何をやっている会社なのか、自分たちの製品がどのように使われているかを知ってもらうように教育をする。
また、自社の製品名を知ってもらうことも必須だ。ここでも、単なる文字の羅列で紹介するのではなく、実物、写真、動画などを活用しながら、自社での製品名(もし、社内や工程内だけで使われている愛称などがあればそれも含め)、世間一般での呼び名、そして、その製品はどういったものなのか用途や機能などを説明する。まだ何も知らない新入社員であるため、どんな一般用語であっても、きちんと教えることが必要になることは留意してほしい(図2)。
部品名や治工具名などを教える
先輩社員にとっては、部品名や治工具名は当たり前すぎる知識だ。しかし、新入社員にとっては、部品名や治工具名にはまったくなじみがない。「プラスドライバー」といった基本的な工具名さえ、知らない人もいると考えておいたほうがよい。
現場で日常使っている部品名や、治具・工具名を最初にきちんと教えておくと、今後の作業教育をスムーズに進めることができる。ここでも、ポイントは、実物、写真、動画などを活用して、「Z世代」の若者の興味を引き出すことだ。また、現場での仲間内のコトバ(用語)を教えることも役に立つだろう。たとえば「工具箱」を、色が青いので現場では「青箱」と呼んでいるといったものだ。治具の使い方など、詳しい説明は作業教育の時でもよいだろうが、まずは実物の名前、そして、何に使うものなのかを教え、部品や治工具に親近感を持ってもらうことを優先することがよいだろう。
なお、部品や治工具は5S 活動などを活用して置き場を整理・整頓しておくと、新入社員がいつでも確認することができるので、作業教育のスピードアップにもつながる。新入社員を受け入れるタイミングを活用して、5S を進めることも有効だろう。
次回までの振り返り
先輩社員でも、自分の担当以外の顧客名や製品名、あるいは部品名や治工具名はあまり知らないものだ。この機会に、先輩社員が集まって、新入社員に教えておくべきコトバ(用語)を洗い出しておくことを考えてほしい。そして、それらをより効果的に教育できるように、実物、写真、動画、そして企業のウェブサイトなどの活用を視野に入れて準備を進めていこう。
今月の検討課題
次のコトバ(用語)を洗い出す
・ 自社が取引している顧客名・調達先
・ 自社の製品名、世間での一般的な名前、仲間内の呼び名、そして製品の役割
・ 自社で活用している部品名、治具名、工具名(一般的な名前と仲間内での呼び名)、そしてそれらの役割