まえかわ よしのり:1971 年同志社大学大学院工学研究科、1996 年同大学院神学研究科修了。工学博士、神学修士。大阪府立産業技術総合研究所(現・大阪産業技術研究所)研究員、大阪産業大学デザイン工学部情報システム学科教授などを経て、2015 年よりモノづくり企業を支援するアドバイザーとして活躍。元型技術協会会長、名誉会員。
本連載は「EV 化の動向とそれを踏まえたプレス部品メーカーの生き残り策」がテーマである。自動車のEV 化は、2018 年頃から盛んに取り上げられるようになり、欧米や中国の取組みに対して日本の自動車メーカー(特にトヨタ自動車がやり玉に上げられた)の取組みは遅れているとの批判が多かった。自動車産業が100 年に一度の大転換を迎えていると騒がれ、「CASE 革命」のいわゆるConnected(接続)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services (シェアリング・サービス)、Electric(電動化)の4 つが次世代自動車のキーワードであり、自動車メーカーのみならず部品メーカーもそれへの対応を急いで図らなければならないと指摘されていた。CASE 革命の中でも「E」の電動化は、それによって自動車の部品構成や製造工程が大きく変化するので、特に「電動化= EV シフト」への対応を急ぐようにと取り上げられることが多くなった。
EVシフトに停滞感
その当時から筆者は、EV 化を進めるにはまだ十分な技術的対応ができておらず、急速なEV シフトは危険であると警告を行っていた。それでもマスメディアなどでの大勢の論調は、「EV シフトはもう後戻りできない世界の潮流」であり、取組みが遅れた自動車メーカーや部品メーカーは衰退を覚悟しなければならないと主張していた。
それが2024 年になって、欧州でEV シフトの減速、停滞感が出てきた。さらに2025 年に入って、それまで勢いのあった米国のEV メーカー(テスラ)や中国のEV メーカー(BYD)も減速し始めた。原因はいろいろであるが、それまでEV シフト対応に舵を取ってきた自動車産業関連からも、EV シフトは今後どうなるのかという問いかけが再度起こってきたのである。そういう経過の下、EV シフトに否定的であった筆者に、EV シフトについての原稿依頼や講演依頼が立て続けにくるようになった。まさしく今、EV シフトの新たな潮目が来ているのだと思わされた。
EV シフト減速の原因はいろいろあると書いたが、それらを再検証していくのが本連載の目的である。未成熟な技術内容についても検証していくが、ここに来て大きな問題として認識されているのが欧州でのエネルギー高騰、中国でのEV 優遇政策による過当競争と過剰生産、米国でのトランプ大統領による自動車関税とEV からの撤退宣言である(図1)。悩ましいのは、今それらの状況が進行中であり、連載中に突如想定外の出来事が起こって、事態が急変するかもしれないことである(中国の政局を危惧している)。連載中に前の予測を訂正するということも起こり得る。その危惧を感じながらも、リアルタイム(同時進行)でEV シフトの成り行きを分析し、まとめ、報告していきたい。
日本の製造業の問題点
日本の製造業は、国内経済を支える重要な産業であり、高い技術力と品質がこれまで世界的に評価されてきた。一方、日本は「技術で勝ってビジネスで負けている」と言われてきたが、近年の中国の製造業の急速な技術力向上を見ていると、日本は技術力でも中国に負けているのでは?と思わされる。もちろん、「工作機械、金型などキー技術では、日本は中国に負けていない」と強調する技術者が多いことは熟知しているが…。
米国では、トランプ大統領が「製造業復活」を叫んでいる。製造業の発展が軍事力の発展にも必要で、国力を上げるには、そのための技術力開発が重要なのだということを再認識したようである(いったん撤退させた製造業を、今から復活させるというのは簡単ではないと筆者は思っている)。
米国の状況から、やはり日本の製造業を後退させてはならないし、製造業の根幹を発展途上国に移行させてはならないと考える。今の日本の製造業の問題は、世界状況が大きく変化している中、どの方向に技術力開発を行えばよいのかが見えてこないことである。
中国企業のようにバックで国が強力な支援をしている企業と、国の支援がない日本の企業が争ってもコストパフォーマンスで勝てない。米国のトランプ大統領の関税によるディール(取引)に、日本の各企業が独自で抗うこともできない。では、中国市場や米国市場を見放してほかで勝負できる技術力開発を目指すべきなのか? 本連載では、プレス部品メーカーの経営者や現場の技術開発者へのヒアリングを通じ、そのあたりの戦略や方策をともに考え、報告していく予定である。