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プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」

2024.10.07

第1回 デジタル・アナログ双方の独自技術で開発した、位置決め精度±1μm の精密打抜き加工―サンコー技研

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プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
 精密な打抜き加工を得意とするサンコー技研は、交通系IC カードを始めとした各種電子基板、二次電池部材、医療・バイオ関連部材など幅広い製品の打抜き加工を手がける。その精密打抜き加工でポイントになるのが位置決め精度とバリ・だれ不良対策であり、デジタルとアナログそれぞれの独自技術がそれを支えている。

CCD カメラとロボット制御プログラムで高精度に位置決め制御

 まず位置決め精度だが、CCD カメラとロボット制御プログラムのデジタル技術をフル活用して精度± 5μm に位置決め制御する。通常、電子基板の打抜き加工では、基板に印刷された回路パターンの形状と金型の加工位置をガイドピンとガイド穴で合わせながらプレスで打ち抜くが、ガイドピン・ガイド穴のクリアランス精度による位置決め精度は± 100μm が限界だった。しかし、微細・高精度化する電子基板に対応するにはその2倍以上の位置決め精度に高めなければならない。そこで6 軸の小型多関節ロボット(可搬重量2kg)とCCD カメラを活用して± 50μm の位置決め精度で自動で打抜き加工する装置を2008 年に開発した(写真1)。
写真1 高精度位置決め自動プレス装置

写真1 高精度位置決め自動プレス装置

 この高精度位置決め自動プレス装置は、ロボットで電子基板を吸着し、下方からCCD カメラで撮像した回路パターンをプログラムで演算処理した後、金型(ダイ)の所定の位置に電子基板を設置して回路パターン通りに形状を打ち抜く。そして2016 年には位置決め精度を± 5μm、さらに現在は± 1μm へと高めている。

 そこまで位置決め精度を向上させられたポイントはCCD カメラの撮像方法と多関節ロボットの制御プログラムだ。それまでは電子基板を把持したロボットハンドの下側から1 台のカメラで回路パターンを撮像し、その画像を演算処理・位置決めしてから下型の任意の位置に電子基板を設置した。しかし、この方法では位置決め精度を上げられない。そこでCCD カメラを下型の2 カ所に設置し、2 台のカメラで撮像した回路パターンを演算処理することで位置決め精度を高めた。

 それとともにロボットの位置決め動作プログラムを改良した。従来は多軸方向に動作しながら位置決めしていたが、ロボットハンド自体の繰返し位置決め精度は± 20μm であり、多軸方向の動作だとロボットのギヤ(関節)のバックラッシ(がたつき)の影響を受けてどうしても位置決め精度にばらつきが生じてしまう。そこで多軸方向ではなく一軸方向への0.01μm 単位の微細な動作に変え、そのための制御プログラムを独自に作成した。その結果、1 ~ 2 秒の短時間にロボットに十数回の微調整を繰り返させることで± 1μm の位置決め精度を実現した。

せん断加工の精度を支えるアナログ技術

 次にバリ・だれ不良対策を支えるのがコーキングというアナログ技術だ。せん断加工では、バリ・だれの大きさを最小限にするためにパンチ・ダイのクリアランスを最適にする。最近はフィルム基板(FPC:フレキシブル基盤)の配線回路の線間・線幅が30μm以下、かつFPC の厚みも約30μmと極微細・極薄化しながら、その標準クリアランスは10%~ 5%に設定されることから、打抜き金型のクリアランスも1.5μm とほぼゼロクリアランスが必要になっている。そのため同社ではダイのクリアランスをコーキングで調整している(写真2)。
写真2 φ5mm 丸穴ダイのコーキング作業(写真提供:サンコー技研)

写真2 φ5mm 丸穴ダイのコーキング作業(写真提供:サンコー技研)

 同社はコーキングを生かし、2019 年から厚み10μm のアルミ電極箔のせん断加工で試作量産を始め、これまでに数十万枚を加工している。それまでは二次電池用部材の金属箔のせん断加工は、コスト、精度、技術的問題から刃型による切断打抜き加工が一般的だった。ただ、刃型による切断打抜き加工だと切断面端部にそりや曲がりが発生してしまい、二次電池用部材の不具合(発火原因)になる可能性がある。そのため、せん断加工によるフラットな断面品質が求められ、それに応えるものだった。また、2023 年に幅600mm サイズのロールto ロールでのアルミ箔せん断加工を実現し、2030 年モデルの自動車部品の開発試作に参画している。さらに、2024 年には電気自動車用モータに向けたアモルファス箔の打抜き加工にも取り組んでいる。

用途拡大と新しいビジネスモデルの構築

 デジタル・アナログの独自技術で伸長する精密打抜き加工だが、用途拡大と新しいビジネスモデルの構築にも余念がない(写真3)。まずは用途の拡大だが、位置決め精度± 1μm であれば細胞1 個分の微細な位置決めもでき、その特徴を生かして医療分野もターゲットにしている。実際、iPS 細胞培養シートの治具加工で継続的な発注を獲得し、2023 年11 月にはドイツで開催された医療用加工技術・部品材料展「COMPAMED」に大阪府のブースで出展して10 件超の見積もり依頼を受け、そのうち1件が10μm 間隔のスリット(メモリ)をチューブに刻んだ医療部材として成約に至っている。医療分野では国内のみならず世界でも精密打抜き加工技術が通用することを実感した。医療分野以外でもMR(複合現実)グラス用シートレンズや先進自動車部品の試作開発などその用途を拡大させている。
写真3 半導体用プローブのマイクロカット(写真提供:サンコー技研)

写真3 半導体用プローブのマイクロカット(写真提供:サンコー技研)

 次に新しいビジネスモデルの一つとして高精度位置決め自動プレス装置の外販を始めた。同装置をユーザーの仕様に合わせてカスタマイズし提供する。自動車用ばねメーカーに30 台の販売を計画している。さらに新しいビジネスモデルとして技術提携型ビジネスも模索する。

「金型にはノウハウが詰まっています。ただ単に加工するだけではなく、金型に詰まっているノウハウを技術という価値に転換すれば新しいビジネスができます」(田中敬社長)

 量産メーカーと試作段階から金型を共同開発すれば、試作から量産に至る過程でノウハウを提供できる。精度、コスト、開発リードタイムの点で量産メーカーも同社もwin-win の関係になれる。精密打抜き加工をベースに中小プレスメーカーの挑戦は続いていく。

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