プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2025.01.10
第4回 金型とプレス成形で独自システムを構築してDX 化を推進―伊藤製作所
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
プレス部品メーカーの伊藤製作所(三重県四日市市)は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として「プレスリモートモニタリングシステム(PRMS)」と「プレス加工センシングシステム」、高難度プレス部品の金型設計データベースを開発して生産性を向上させている。
チョコ停を70%削減した独自システム
プレス成形では、かす上がりによる打痕や排出ミスによる変形などで不良が発生することが多い。そこで同社はまず、かす上がりや排出ミスによるプレス機の停止「チョコ停」を防ぐため、異常停止と稼働のログを取るシステムのPRMS(写真1)を開発した。
写真1 プレス機のチョコ停を防止するプレスリモートモニタリングシステム(PRMS)
PRMS は、プレス機に装備するミス検出装置とかす上がり検出装置からかす上がりやミスフィードなどの異常データとショット数、稼働・停止時間のデータを収集し、自作の演算処理装置で処理してモニタにリアルタイムで表示する。また、異常停止の多いプレス機に対して超高速度カメラを設置し、センサの信号で起動して異常発生の前後を記録する機能も追加した。PRMS は20台のプレス機に搭載してチョコ停を70%削減できている。
さらにPRMS は協力メーカーにも拡張している。かしめ加工を委託するメーカーの加工機にPRMS を設置してもらい、異常信号から加工不良の原因(排出時のチャッキング不良、着座不良)を特定し約1 年間で不良をゼロにできたと言う。
データから不良の原因を把握して的確に対策
PRMS でプレス加工中の稼働実績とチョコ停を可視化した同社は、さらに金型の挙動を把握できるプレス加工センシングシステムを開発した。
同システムは5 種類のセンサ(放射温度計、GT センサ、半導体ひずみセンサ、温度センサ)とカメラで金型の挙動をリアルアイムに計測する(写真2)。各センサで収集したデータをエッジPC(データロガ)でリアルタイムに処理し、同時にクラウドコンピュータに転送して社内で共有する。それによりパンチの欠けや成形不良などの発生をリアルタイムに検出でき、不良の原因を迅速に把握して的確に対策できる。また、プレス加工センシングシステムで収集した各種データを機械学習を用いて重回帰分析することでパンチの寿命も予測できる。
写真2 センサとカメラで金型の挙動をリアルアイムで計測するプレス加工センシングシステム(写真提供:伊藤製作所)
同システムは、既存の金型にセンサを埋め込む形で構築して成果も得ているが、今後は金型寿命の観点から2 番型の製造でセンサを設置することでシステムを構築していく。
高難度部品の金型設計データベース
同社は金型設計でもDX 化として高難度プレス部品のデータベースを構築している。難易度の高いプレス部品の金型設計で効率化を図るためのデータベースだ。
新規受注したプレス部品のうち設計の難度が高いものについて、過去の類似部品の設計図から作成した3 次元(3D)モデルと、類似部品を3D 測定器でスキャニングして得た3D モデルとを比較・解析しながら金型設計用データベースを構築している(図1)。データベース化した3D モデルには、引張試験後の材料特性データも反映させてあるので、新規に受注した部品の金型を設計する際、データベースと比較しながらプレス時の材料の板厚減少や温度分布、金型の応力集中などをシミュレーションできるためリードタイムの短縮につなげられる。「素人でも3 年で一人前の金型設計者に育てられる」と伊藤竜平社長が言うように金型設計のDX 化は、設計の効率化の他に技術者の早期育成も視野に入れた取り組みにもなっているようだ。
図1 難度の高いプレス金型部品のデータベース化で設計を効率化する(写真提供:伊藤製作所)
プレス加工を支える次代の人材づくり
2 つのシステムと金型設計用データベースを中心にDX 化を進める同社は、それを支える次代の人材育成にも余念がない。2019 年からは全ての新入正社員を対象に5 カ年の育成カリキュラムを実施する。
5 カ年の育成プログラムは、年次ごとに達成目標とそのための社内研修、社外研修、資格取得が詳細に定められている。たとえば、1 年目の社内研修はプレス機と金型の構造や材料の種類・特性などの座学およびプレス機の操作・日常点検などの実習からプレス加工の基礎を学ぶ。座学、実習とも教師は先輩社員であり、半期のカリキュラムの日程がシステマチックに定められている。2 年目以降は社内だけでなく社外のセミナーを活用して品質管理やリーダーシップ、コミュニケーションスキルを学ぶ。資格は1 年目からフォークリフト/クレーンの運転免許など業務に不可欠な資格を年次ごとに取得する。
そして5 年間の育成プログラムを終えると希望の職種をヒアリングし、金型設計に従事することになった社員は、新たなカリキュラムに則って製図からCAD、CAM、CAE、機械要素、材料まで金型設計の基礎と金型加工、およびプレス加工、測定/分析も加えて金型づくり、製品づくりの知識を3 年間で習得する。
同社は社員の平均年齢が33 歳で42%を女性が占めると言う。ほとんどの新入社員がモノづくりとは無関係に育ってきた人材のため、短期間で一人前に育成するためにもデジタル技術とDX、さらに論理的でシステマチックな人材育成が企業力を上げる重要なファクターになっている。同時に同社の大きなストロングポイントにもなっているようだ。