短納期や高品質、複雑形状への対応力を強みに試作品および小ロット部品の製作を手がけるアイキ(大阪府八尾市)。「来た仕事は絶対に断らない」、「自分でお金を出して買いたいと思えるものを提供する」をモットーに顧客との信頼関係を築いてきた。近年は「残業ゼロ」を目指し、細かな改善を積み重ねながら現場作業を効率化。少人数で高い利益を出せる企業へと生まれ変わりつつある。改革を主導する松下絢一専務に話を聞いた。
――試作や小ロットが主力とのことですが、どんな部品を手がけていますか。
松下
1998 年の設立当初はエアコンやコピー機などの一般的な板金部品を手がけていたようです。その後、市場や顧客ニーズの変化に合わせて徐々に小さい部品にシフトし、今は1mm 角から2mサイズのものまで扱っています。メインは手のひらサイズ以下、板厚は0.8 ~ 1.2mm がボリュームゾーンで、多いときは月に1,000 図面の製作をこなします。最近は自動車や蓄電池向けの銅製バスバーの試作、データセンター向けの小ロット板金部品の仕事が多くなっています。
――1mm 角から2m とは幅広いです。
松下
来た仕事は絶対に断らないというスタンスでやってきました。私自身、仕事を断るのが嫌なので、「できます」と答えてしまいます。「他社で断られたんだけどできる?」と言われたら、そこに大きなチャンスがあるということ。難しいと思った仕事でもお客さまの要望に社員みんなで頑張って応える。その繰り返しでさまざまなサイズや形状に対応できるようになりました。お客さまに育てていただいたような会社です。
試作品の一例。アルミの深絞りやメッシュ素材の絞り、ベンダーによる曲げ・丸めなど多彩な技術が光る
――加工機もいろいろと保有しています。
松下
塗装とめっき以外のいわゆる金属加工はすべて社内で完結できるのが当社の特徴です。板金加工やプレス加工用の金型も内製しており、レーザ加工機やベンダー、プレス機械のほか、金型加工用のワイヤ放電加工機や細穴放電加工機、部品加工用のマシニングセンタ(MC)があります。数年前に最新のチャッキングシステムと64 本のATC(自動工具交換装置)を搭載したオークマ製5 軸MC を導入し、切削部品の試作・小ロット生産も強化しました。また、レーザ加工機については10 年ほど前に微細加工に適した澁谷工業製のファイバーレーザ加工機を導入したことで、熱ひずみのない薄板の切断や穴あけ、銅の切断が可能に。これが現在の銅製バスバーの受注につながりました。
微細加工に適した澁谷工業製のファイバーレーザ加工機
予定と実績を見える化しムダを排除
――スピード(納期)や品質などを会社の強みとして挙げています。まず納期について、短納期に対応するための取組みを教えてください。
松下
対策として別に難しいことをやっているわけではありません。ただ、ホワイトボードを使った予実管理には力を入れています。バスバーやデータセンター向けの仕事は特に納期が短く、受注から1 週間後や3 日後に納品するケースがざらにありますが、問題なく対応できています。
――具体的にはどんなことを?
松下
現場のホワイトボードにスタッフ全員のその日の予定を書き出しています。それも、「何をやるか」ではなく、例えば1 つの試作品をつくるのに10 工程あるとすれば、1 工程目の段取りに10 分、加工に1 分かかるので10 工程トータルで2 時間25 分かかる…といった予定を始業から終業までしっかりと立てています。そして、書き込んだ予定の下に実績を書き込んでいく。予定と比べて実績が極端に長ければ、なぜそんなに時間がかかったのかを徹底的に掘り下げます。
「段取りに10 分」と予定していたのに30 分かかったのはなぜか。金型が所定の位置になく、探し回っていたからとわかれば、ムダを省くために金型の管理方法を考える。あるいは、5 つの試作品をつくるのに都度、必要な金型をとりに行くのがムダだとわかれば、朝いちばんに必要な金型をすべて用意しておく。小さな改善の積み重ねで短納期に対応しています。この取組みで「残業ゼロ」も達成しました。
――残業ゼロはすごい。こうした取組みを始めたのはいつからですか。
松下
7~8年前からでしょうか。私が入社した当初は月の残業時間が非常に長かったので、残業ゼロを目指して取り組み始めました。コロナ禍前にゼロを達成し、以降はゼロが続いています。おもしろいことに取組み後、社員数は最も多かった28 人から減ったのに売上げや利益は上がりました。今までどれだけムダがあったのかわかります。また、残業がなくなると社員にとっては給与減になるので、残業代が減った分をベースアップで上乗せし、年収が変わらないようにしました。8 時から17 時までしっかり働き、定時で帰る。しかも給与は変わらない。会社としてだいぶよくなったと思います。
オークマ製5 軸マシニングセンタを数年前に導入。自動車のエンジン回りの部品の受注を狙う
現場の工夫で“楽に”品質を高める
――品質でのこだわりは?
松下
社長である父に常々言われていることですが、「お客さまに1 万円の見積もりをして受注が決まったら、自分が1 万円を出して買いたいと思えるものをお客さまに届けなさい」を常に意識しています。そのおかげで当社は専任の営業スタッフなしでも仕事を受注できている。品質が営業をしてくれているのだと思います。
――画像寸法測定機や3 次元形状測定機など検査設備も豊富です。
松下
ええ、「測定機はお金を生まない」とよく言われますが、品質を保証するのにノギスやハイトゲージしかないのはどうでしょうか。当社は顧客の図面に入っている寸法はすべて保証していますし、寸法を保証できる見込みがない場合は見積もり時に顧客に見直しを依頼します。また、工程内検査も実施しています。ブランクの展開寸法は正しいか、レーザ切断での穴抜けはないか、ベンダーでの曲げ忘れはないかなどを都度確認し、次工程に回すようにしています。
加工忘れを防ぐために、加工機にカウンターを設置して自動で曲げ回数やタップ回数をカウントする工夫も。10 工程の曲げがある部品を10 個つくれば、曲げ回数は100 回になるはず。必要な加工回数とカウンターの数が合致しているかを必ず確認しています。
画像寸法測定機や3次元形状測定機など計9台を保有。図面に描かれた寸法はすべて保証する
――ミスを防ぐにしても、どうすれば“楽に”防げるかを考えていますね。
松下
ムダが嫌いな会社なのです。ですから当社には会議もありません。全員が参加する毎朝5 分程度の朝礼で重要事項を伝えるだけです。それも、「こういう不良が出たからここに気を付けよう」とか、「ワイヤ放電加工機の稼働率が低いから、前倒しでこの金型をつくっておこう」など本当に必要なことだけ。長くても10 分かかりません。
現状維持では生き残れない
――松下専務の経歴を聞かせてください。
松下
中学、高校、大学とラグビーをやっていて、そのままラグビーを教えたくて高校の保健体育の教員になりました。ただ、事情があって教員を続けられなくなってしまい、父に頭を下げて2011年に入社しました。そのとき言われたのは、「社員の2 倍働いて同じ給与でよければ…」。入社後はベンダーとCAD のオペレーターとして現場で経験を積み、その後、関東での顧客開拓を目指して横浜営業所の立上げを任されました。2 年ほどで大阪に戻り、2016 年に専務になり現在に至ります。
――息子さんの入社を社長は喜んだのでは?
松下
どうでしょうか(笑)。ただ、ある情報誌に載ったインタビュー記事に、「息子が入ってきたから、会社をいい状態にして継がせたい」と書いてありました。それを読んで、やっぱり頑張らなあかんと思いました。父は創業者ですが、会社を立ち上げた当初は仕事も少なく、社員を食べさせるためにだいぶ苦労をしたそうです。今でもすごいと思うのは、朝、社員の誰よりも早く出社して門を開け、メールのチェックをしていること。そういうトップの姿勢を見ているので、社員もついてくるのでしょう。見習わなければと思います。
――7 月1 日の社長交代が予定されています。抱負を聞かせてください。
松下
いろいろなことにチャレンジしていきたいですね。今は金属加工に特化していますが、AIやロボット、金属3D プリンタの技術が今よりもっと進んで、微細で精密な試作品を自動でつくれるようになったら、現状維持ではおそらく衰退は避けられません。そうした技術が実際に世の中に出てくる前に技術開発や多角化などの手を打つ必要があると考えています。
――例えばどんな分野に挑戦を?
松下
オリジナル製品を開発・設計から手がけて「アイキブランド」として市場に出していければと思っています。大量生産品ではなく、顧客のニーズに応えるカスタムメイドの品を当社の技術を活かして届けられれば、と。また、現在の金属加工の顧客層を増やす意味では欧米市場へも挑戦したいですね。コロナ禍前ですがアメリカ市場を調査して、品質や納期の面で困っている会社が多いことがわかっています。すぐには無理でも、いつかは欧米で勝負したい気持ちがあります。
意欲あれば活躍できるのが町工場
――今後の課題は?
松下
一番は人材確保です。先入観なしに仕事を覚えてもらいたいので新卒のみ募集をしているのですが、なかなか入ってくれません。ネックは休みが少ないこと。試作品は納期が短いので、土曜日に全員休んでもらうことが難しい。休日数を重視されると選ばれにくいのが現状です。
――高校新卒の場合、親の意見にも左右されます。
松下
そうです。ただ、当社のような町工場のいいところは、学歴に関係なく意欲があれば活躍できる点にあります。大企業に入って希望に沿わない仕事をするよりよっぽどいい。また、一般にはあまり知られていませんが、町工場であっても優良企業は驚くような利益を上げている。町工場の魅力をもっと発信していければと思います。
――これからどんな会社を目指しますか。
松下
自分の子どもに「継ぎたい」と思ってもらえるような会社にしたいですね。社員のお子さんにも「パパの会社で働きたい」と思ってほしい。企業として成長し続けることは大前提。それにプラスして、お客さま、地域、社員の誰からも愛され、信頼される会社を目指していきます。
まつした けんいち:1985 年6 月7 日生まれ、40 歳。大学卒業後、高校教員を経て2011年㈱アイキ入社。16 年より現職。中学から大学まではラグビーに熱中した。今は娘との野球観戦が趣味。根っからの阪神ファン。