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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2025.02.25

第11回 値上げ交渉の心得

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西田経営技術士事務所 西田雄平

交渉のロードマップを描く

 ここまで整理することができたら、今度はどのようなステップで価格交渉を進めていくのかロードマップ化(図表3)していきます。ここでのポイントはデジタルでもアナログでも構わないので、実際に紙などに描いて社内に宣言するということです。
図表3 価格交渉のロードマップ

図表3 価格交渉のロードマップ

 筆者の顧問先では、営業や工場が一堂に会して「収益改善会議」を開催しています。そのような場を設けて、どういった顧客に対して、どういったスケジュール感で、誰が責任をもって担当していくのかを宣言していくのです。営業マンの頭の中だけでは、大抵うまくいきません。半強制的に推進力をもたせていくくらいが、ちょうど良いのではないでしょうか。

 さらに大事なことは、全社一丸で進めるということです。値上げは営業部門単独では進めることができません。なぜなら、その前提として原価計算の見直しや利益一覧表の作成、理論武装の準備などが必要になってくるからです。どうしても他部門の協力が必須なのです。そういった部分についても、いつまでに、誰が進めていくのか、明確にしていくのがポイントです。

 当たり前のことですが、値上げ交渉はお客様あっての話なので、ロードマップに描いた計画は途中で変更になることもあります。このあたりは柔軟な姿勢をもちながらも、お客様の反応に関係なく進められる社内的な課題については、期日までにビシッと実施しているのかどうかを確認していってほしいと思います。

正式レターの書き方

 それでは正式レターの書き方についてご説明いたします。この文書の役割は、値上げ依頼は会社の方針だということをお客様に明言することにあります。この正式レターの発行と受領をもってはじめて、正式に値上げ依頼を行った(先方に伝わった)と言えるでしょう。あとで言った言わないの論争にならないようにするためにも、きちんと書面で申し入れをしていきましょう。

 その例文が(図表4)です。そしてレターを書く際のポイントは以下のとおり。
図表4 「価格改定のお願い」の例文

図表4 「価格改定のお願い」の例文

①窮状を数字で伝える
②市場の動向や推移を書いておく
③ 「返す刀」を用意しておく etc
 このレターを最終的に読むのは“先方の決裁者”です。第三者が読んでもパッと理解できるよう内容や表現は熟慮を重ねてください。

「返り討ち」を避けるコツ

 そして最も重要なことは「返す刀」の用意です。顧客は必ずと言ってよいほど、正式レターに書かれている内容が妥当なのかどうか、ツッコミを入れてきます。そのツッコミに対する答えを用意しておかねばなりません。その答えこそが「返す刀」です。「返す刀」が遅れれば遅れるほど、価格交渉期間は伸びていき、社内は疲弊していきます。価格転嫁が遅れる分、利益も減っていきますので良いことはありません。

 それでは、その受け答えの一例をご紹介します。
Q: 人件費が2005 年~ 2022 年にかけて139%アップとありますが、これは妥当なのでしょうか?

A: はい。厚生労働省から出ている我が国の最低賃金のデータがこちらです。これと比較しても妥当な水準といえます
 このように公正明大に正々堂々と臨むための、入念な準備が必要なのです。
 したがって、この記事にある例文やインターネットでひろった文章を吟味しないで使用することは絶対にしないでください。正式レターとしてしたためる以上は、顧客から何を質問されても返答できるようにしておかなくてはなりません。

模擬戦をしてから本番へ

 ここまでの準備ができたら、あとは模擬戦(ロールプレイイング)を行いましょう。
①いきなり客先に行かせない
②社内の人に相手役をやってもらう
③本番さながらの緊張感で
 社内の人に相手役になってもらい、値上げの内容について詳しい説明する練習をしていきます。値上げ交渉は平気で数百万円~数千万円のお金が動く場になります。そのようなところに経験不足の担当者を「行ってこい」と放り出しても、上手くいくはずがありません。しっかりと受け答えの練習を重ねて本番に臨んでいってください。

収益改善会議で進捗確認

 最後に進捗確認の方法です。当たり前のことですが、営業担当者に任せっぱなしではいけません。全社一丸で取り組んでいる一大テーマなので、それ相応の進捗報告の場があってしかるべきです。

 それが月1 回の「収益改善会議」です。繰り返しになりますが、これは経営者や経営幹部をはじめ、営業部門や工場部門のキーマンが一堂に会し、値上げやコストダウンといった収益改善活動の進捗報告を行ったり、今後の課題や会社の方針を確認したりする場になります。筆者の顧問先の中には、9 年以上も毎月休まず継続開催している企業(金属加工業 社員90 名)もあります(もちろん業績は◎)。ぜひ皆様の社内でも開催してみてほしいと思います。

 今回は「値上げ交渉の心得」というテーマでお送りいたしました。値上げは、とにかく準備が大切。しっかりと理論武装をして臨みましょう。次回は最終回「将来への種まき」です。お楽しみに。
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