にしだ ゆうへい:代表取締役
2009年、大学を卒業後、ミネベアミツミ㈱に入社し購買管理業務に従事。24歳のときにタイ工場に赴任。現地マネジメントに加え、現地の経営者とタフな商談や価格交渉を経験。2015年、西田経営技術士事務所入社。全国の中小製造業へ「収益改善プログラム」を導入。原価と値決めにメスを入れ、顧問先企素の利益創出に億単位で責献。主な著書『中小企業のための「値上げ・値決め」の上手なやり方がわかる本』(日本実業出版社)。
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今回のテーマは「段取り費」です。段取り費とは、金型の乗せ換え作業の際にかかる人件費や設備代、試し打ちの際に発生する材料ロスなどを原価計算したものを言います。
読者の皆さんの中には「いつの間にか小ロットになって、利益が出なくなった」という問題に出くわした人も多いのではないでしょうか。儲かる値決めや適切な価格転嫁を行っていくためには、こういった項目についても原価計算書にしっかりと見える化し、見積条件として明示できるようになっておく必要があります。
今回も自社の現状を振り返りながら、じっくりと読み進めてみてください。
なぜ、顧客は小ロットばかり要求してくるのか?
皆さんの会社がそうであるように、日本の中小製造業の大半は「多品種少量生産」です。金型の数はどんどん増える一方で、段取り1 回あたりの生産量(生産ロットサイズ)はどんどん小さくなっていることと思います。
そのため、以前よりも金型交換作業を頻繁に行うようになったのではないでしょうか。企業によってはプレス機が本稼働している時間よりも、段取り替えで停止している時間の方が長いところもあります。まずは、このように経営環境が変わってきた背景について考えたいと思います。身近な製品で言うと、携帯電話。一昔前は片手で数えるくらいの種類しかなかったのに現在では色違い、サイズ違い、性能違いなどと100 機種以上が店頭に並んでいます。スマホケースに至っては、そのさらに何倍もの種類が売り場に並んでいます。
このように多品種化してきた理由として、消費者ニーズの高度化が挙げられます。「隣の人と同じ色だと嫌だ」や「もっとシンプルなのが良い」などといった個々のニーズが生まれてきました。当たり前のことですが、顧客の要望に応えていかなければ、製品は売れません。したがって品種は増える傾向になります。しかし我が国の人口は減少しています。全体的に市場の大きさは小さくなっているので、同じ製品をたくさん作っても売れなくなってきました。
顧客の立場になって考えてみてください。もし売れ残りが生じると、廃棄による損金が発生しますよね。この損金発生リスクを極力抑えるために、顧客はなるべく少ない数量で注文を行うようになってきました。これが小ロット化の進んだ背景であると考えます。しかも、昨今はジェットコースターのように市場が日々変化しています。
「今月は1 万個売れるぞ!」と思っていたものが、明日には「やっぱり100 個しか売れない!」となることが日常茶飯事です。そのため、顧客は残材リスクを抑えるために、リードタイムをギリギリまで引き付けて発注するようになりました。これが短納期化の進んだ背景です。
社会がこのように変化してしまった以上、多品種少量化の波には逆らうことはできません。大事なことは「うちは小ロットで…」と嘆くのではなく、多品種少量生産でも儲かる生産体制を整え、小ロットでも負けない見積り技術を磨いていくことです。そのためにも、段取り費を見える化しておくことが肝心なのです。
このことは、365 日24 時間、商売のことを考えている経営者にとっては当たり前のことかもしれません。しかし社員レベルになると、意外と知らないまま仕事をしている方も多くお見かけします。「また小ロット注文かよ…」とか「また段取りしなきゃ…」という声だけが先行しないよう、入念に教育していく必要があります。
段取り費は2 種類ある
さて、本題です。段取りにかかる費用は2 種類。1 つが「段取り材料費」です。プレス加工業であれば、金型セット後に試し打ちを行う企業が多いと思います。その際に発生した材料ロスのことを「段取り材料費」と言います。
そして、もう1 つが「段取り作業費」です。これは金型セット作業にかかる人件費や設備代のことです。皆さんの会社でも機械設備を停止させ、1 人ないしは複数人で金型交換作業を行っていると思います。
このような費用についても、原価としてしっかりと見える化していきましょう。
それぞれの計算方法
次の公式を、穴があくほどよく眺めてみてください。特に(kg/ 回)などの単位に注目しながら、実際に電卓を叩いてみてください(下記はあくまで基本形。実際は企業によってカスタマイズが必要です)。
ロットサイズに応じた原価を計算せよ
基本形が理解できたら、今度は生産ロットサイズを小さくしてみたいと思います。
皆さんも、顧客から「今回だけ50 個にして!急ぎで追加お願い!」と言われたことはないでしょうか。下記の計算は、その原価シミュレーションです。
最大のポイントは「段取り作業1 回あたりの手間」は、生産ロットが1,000 個/ 回の場合でも50個/ 回の場合でも、たいして変わらないという点です。そのため、製品1 個あたりに換算した段取り費用は、小ロットの場合、割高になってしまうのです。これを経験上、なんとなく分かっている方は多いのですが、大事なことは原価というお金に換算して表すということです。コンサル先では、お金に換算して初めて赤字であることに気付くケースが非常に多いです。
こういった情報が原価計算書に“別途切り出して”見える化されているからこそ、「小ロットには注意しなければならない」という意識が働き、儲かる値決めや価格転嫁につながっていくのです。