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機械設計

2025.02.10

中国ローカルロボットメーカーの躍進

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エム・アイ・アール 高 原

中国の代表的なロボットメーカー

1.Inovance

 17 年間で売上高を170 倍と、驚異的なスピードで成長してきた中国系総合電機メーカーである。創業メンバーはHUAWEI電気部門の出身者である。HUAWEIがその事業をエマソン・エレクトリックに売却した際に、創業者の朱氏は元HUAWEIの同僚を18人率いて、エマソン・エレクトリックから退職、Inovanceを創業した。中国では「創業18羅漢」と呼ばれている。制御機器(インバータ、サーボ、PLCなど)からスタートし、2017 年にロボット市場に参入、2019 年に商品を本格的に市場投入し、わずか5 年で日系のメーカーを追い抜き、スカラロボットで中国市場シェア1 位となった。現在、6 軸、中型、大型ロボットの開発も進めている。また、ロボットのみならず産業用インバータ、サーボ、小型PLCも中国市場シェア1位である。

 2023年、Inovance創業20周年を機に、社長の朱氏は中国製造業各業界トップ企業の経営者、業界関係者を招き、講演を行った際に、「過去の20 年は中国No.1 になり、今後の20 年は世界No.1 になる。世界トップの総合電機メーカーになる」と明確な長期ビジョンを掲げた。

2.ESTUN

 Inovanceと同じ制御機器メーカーからスタートした会社である。一昔前、ESTUNはサーボの会社というイメージが強く、創業者の意向で今後はロボットメーカーとして事業展開していく方針である。ESTUNは6軸製品(約85%は6軸ロボットである)と大型ロボットを得意としている。2019年の販売台数はわずか3000台強であったが、コロナ禍の3 年間で業績を大きく伸ばし、2023 年に販売台数は2万台を超えた。

3.EFFORT

 中国国営系企業である。もともと自動車完成車メーカーである江淮汽車(JAC)のシステム部門であり、江淮汽車から独立してEFORTとなった(*江淮汽車は中国新興系EV メーカーのNIO 社、HUAWEI社のEVをOEM生産担当する会社である)。2016 年、EFORTはイタリアの老舗ロボットメーカーCMA Robotics を買収し、塗装ロボット分野での技術とノウハウを取得した。ポーランドの自動車業界に特化したシステムインテグレータのAutorobot 社も買収し、欧州系自動車メーカーの顧客も手に入れた。

4.JAKA

 JAKAは中国最大手の協働ロボットメーカーである。社名は「Just Always Keep Amazing」の略で、その名のとおり、革新と品質を追求する企業を意味している。2014年に上海交通大学のロボット研究所からスピンオフした形でスタートした。創業者たちは、産業用ロボットの新しい可能性を探求し、特に中小企業でも導入しやすい協働ロボットの開発に注力した。

 JAKAの協働ロボットは、使いやすさと安全性を重視して設計されている。これにより、従来の産業用ロボットが持つ複雑なプログラミングや安全柵の必要性を軽減し、人とロボットが同じ空間で安全に作業できる環境を提供している。製造業だけでなく、物流、医療、サービス業など、さまざまな分野で応用できる。

 JAKAは設立以来、国内外での市場拡大を進めており、特にアジア、ヨーロッパ、北米市場でのプレゼンスを強化している。また、JAKAは研究開発にも積極的で、AI 技術やIoT との連携を進めることで、よりスマートで効率的なロボットソリューションを提供している。

中国系メーカーの成功要因分析

1. 直営業

 外資系メーカーは、代理店販売を中心とするビジネスモデルであり、効率的ではあるものの、市場の実態を把握しづらい側面がある。特に中国のように急速に発展する国では、市場の変化が非常に速いため、マクロ経済の動向や政府の政策、市場ニーズ、競合他社の動きなどを迅速に把握する必要がある。これらの変化をリアルタイムで捉えるためには、顧客訪問を通じて市場の状況を常にキャッチすることが重要である。

 ローカル系メーカーも代理店を活用するが、ユーザーに対する営業活動は必ず自社で行う。受注した案件を代理店に任せるのではなく、代理店を活用して取引を進めるのが主なスタイルである。代理店にすべてを委ねるのではなく、あくまで自社主導でビジネスを展開している。

2. 試行錯誤が許される市場環境

 中国のエンドユーザーは、ある意味で寛容な姿勢を持っている。日本では、販売されたロボットが生産ラインで停止したり、誤作動したりといったトラブルが発生すると、大きな問題になることが多いが、中国ではユーザーがそれを受け入れているケースが多い。最初から完璧な製品を求めるのは難しいことを理解しており、失敗を通じて学び、改善していくという考えである。開発中の製品であっても、まず生産ラインに組み込み、ロボットメーカーの技術者や開発者が現場に常駐し、トラブルが発生すればその場で対応する。こうしてロボットメーカーとユーザーが一体となり、製品をともにつくり上げていく。

3. 開拓精神

 Inovanceの創業者は、企業は市況の変化やマクロ経済の影響を受けてはならないと述べている。不景気であっても、必ず成長している企業は存在し、市場には景気の波があるため、どのような状況でも業績を伸ばし続けなければならない。この考えは、多くの中国のロボットメーカーにも共通しており、彼らも同様の姿勢で取り組んでいる。

 2024 年9 月に開催された上海工業博覧会では、ローカルロボットメーカーのブースが非常に活気に満ちていた。不景気だからこそ、どうやって販売台数を伸ばすか、各社が真剣に取り組んでいる様子が見受けられた。

 筆者はこの状況に浅田次郎著「壬生義士伝」の一節にある言葉を思い出した。「盛岡の桜は石ば割って咲ぐ。盛岡の辛夷は、北さ向いても咲ぐのす。んだば、おぬしらもぬくぬくと春ば来るのを待つではねぞ。南部の武士ならば、みごと石ば割って咲げ」。市場の回復を待つのではなく、不景気の中でどう生き抜くかを考える。これは経済不景気の時代にローカル系ロボットのメーカーの姿勢である。

今後の展望

 Inovance やESTUNは、もともと制御機器メーカーであり、サーボやコントローラなどの主要部品を自社で製造することができる。さらに、減速機などの部品も、中国のローカルメーカーが雨後の筍のように増えている。ロボットは、システムとして組み上げることで初めて価値を生み出す製品であり、中国には数十万社ものロボットSIer(システムインテグレータ)が存在している。これらの企業が、中国のローカルロボットメーカーを強力に支える存在となっている。

 米中デカップリングの中で、中国の製造業は「産業移転」という流れが進んでおり、多くの製造業企業が積極的に海外進出を図っている。ロボットメーカーも、こうしたエンドユーザーや装置メーカーとともに積極的に海外へ進出している。今後、国内市場だけでなく、中国のロボット技術が世界中で採用されるようになり、グローバルな競争力が強化されていくだろう。
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