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機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」

2025.02.14

第7回 3Dスキャナを活用した働き方改革とDX

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いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記

おばら てるき:いわてデジタルエンジニア育成センター長。自動車内装部品の設計会社を退職後、岩手県北上市を活動の拠点に10年以上、3次元デジタル技術関連の人材育成、企業支援に努め、学生から求職者、企業まで幅広く指導し、3次元から始めるDX推進活動を続けている。同センター長のほか、3次元設計能力検定協会の理事も務める。

はじめに

 3Dスキャナで対象物を計測することを「3Dスキャン」と呼び、3Dスキャナは、「物体に光やレーザーなどを照射し、3 次元形状を取得してデジタルデータ(3次元データ)化する機器」である。

 主に3Dスキャナは、設計データどおりにモノができているかの検査(CAT:Computer AidedTesting) やリバースエンジニアリング(RE:Reverse Engineering)などに利用される。ここでのリバースエンジニアリングとは、実物を3Dスキャナで計測して3次元データ化(一般的に3次元CADデータを作成)することである(図1)。
図1 3Dスキャナで取得したデータの2 つの活用用途

図1 3Dスキャナで取得したデータの2 つの活用用途

 3Dスキャナは「3 次元測定機」や「3Dデジタイザ」などと呼ばれることもあり、3 次元測定機と呼ばれるものの中には、「プローブ(探針)」を対象物に接触させて3次元座標を計測する接触式3Dスキャナがある。今回は、対象物に接触することなく光やレーザーを照射して計測する非接触式3Dスキャナについて説明する。

検査(CAT : Computer Aided Testing)

 機械設計者にとって、自分が設計した形状どおりに物が製造されているかどうかを知ることはとても重要である。現在は多くの設計現場で3 次元CADが使われるようになり、3 次元データを設計図として物がつくられることが増えてきているが、この3 次元データを正として、製造された現物と比較することで品質を検査できる。

 3 次元CADで設計した3 次元データと、現物を3Dスキャンした点群やメッシュデータを専用の検査ソフトウェアに取り込み位置合わせを行い、差をカラーマップや断面などで形状を比較して見ることができる。使用するソフトウェアによっては、検査したい箇所をピンポイントで確認し、その誤差をラベル表示できるものや、寸法公差や幾何公差を認識してOK/NGの判定を自動で行えるものなどもある。3Dスキャナをロボットアームに取り付けて、さまざまな角度から対象物を計測するシステムを導入し、生産ラインでの検査を自動化している企業もある。

 直尺やノギスなどを使って手作業で計測するには限界がある。特にデザイン的な曲面のある製品を正確に計測することは非常に困難である。接触式の3次元測定機(接触式3Dスキャナ)の場合、高精度での計測・検査が可能だが、プローブを当てて1 点1 点計測していくため、形状全体を素早くデジタルデータ化することは難しく、形状全体の検査やリバースエンジニアリングには多大な時間がかかってしまう。さらに、ゴムのような柔らかい製品などは、プローブを接触させるとへこんでしまうため計測できないが、非接触である3Dスキャナであれば計測可能である。

 筆者が昔、自動車業界で働いていた頃は、3 次元CADで曲面形状の断面を作成し、それを紙に印刷し、厚紙に貼り付け、ハサミやカッターで切り取ったものを実物に合わせて隙間がないかなどを確認していた。これを「ガバリ」と呼んでいて、1 カ所だけでなく複数箇所を検査するため、数十もの断面を印刷しては厚紙に貼って切り取って、実物に当てて検査するという作業を繰り返していた。非常に手間のかかる作業だったが、これも設計者の仕事だと当時は思っていた。その後、一部の断面箇所の検査だけでなく、形状全体を検査・確認できる3Dスキャナの存在を知り、その便利さに感動したことは言うまでもない。

 検査治具を製作すれば、設計上の重要箇所を素早く検査できるが、3Dスキャナを活用することで、多少の時間はかかるがデザイン的な曲面部分の検査も可能となり、全体把握、修正箇所の特定、設計へのフィードバックを的確かつ迅速に行えるようになる。3 次元CAD データと重ね合わせて比較・検査できるため、検査のための2 次元図面をわざわざ起こす必要がない。つまり、検査用に図面を準備する工数を削減できる。検査用の図面作成業務を減らすことで本来の設計業務に集中できるようになり、その結果として残業時間を減らすことができれば、それは立派な働き方改革であり、製造業のDXにもつながる。

 また、ノギスなどを使って対象物を計測していると測り忘れが発生し、再度、物がある場所まで行き、再計測するという時間的ロスが生じることがある。3Dスキャナで形状全体を計測しておけば、いつでもコンピュータ上で長さを測ったり、角度を測ったりできる。3Dスキャナを活用することで、設計工数の削減、開発コストの削減、品質向上につなげることができるのである。

リバースエンジニアリング(RE)

 リバースエンジニアリング(Reverse Engineering)は、さまざまな業界で使われている言葉で、直訳すると「逆行工学」となる。その意味のとおり、モノづくりの世界においては、設計図面からモノをつくるという通常の流れとは逆のアプローチで、すでに出来上がったものを分解したり計測したりするなど、設計仕様や機能を調査することを指す。

 3Dスキャナを活用したリバースエンジニアリングは、主に3次元CADデータがなく、現物しかない場合に使用される。3Dスキャナを活用しリバースエンジニアリングを行うことで、既製品の分析だけでなく、破損部品の修復、治具設計や金型設計にも活かすことができる

 また、粘土などで手づくりしたモックアップなどを3Dスキャンして設計に活かすことも可能である。人体の3Dスキャンによってその人の身体に合った物をつくったり、工場の中を3Dスキャンして設備設計やレイアウト検討に役立てたりするなど、製造業だけでなく、医療や建築/建設、土木関係など幅広い領域で3Dスキャナの活用が進んでいる。

 何らかの事情で3次元CADデータがない場合など、現物を3Dスキャンでデジタルデータ化することで、リデザインに役立てたり、CAEで解析したり、CAMで加工したり、3Dプリンタで造形したり、CG/レンダリングを施したりと、さまざまな用途に活用できる(図2)。
図2 3Dスキャナで取得した3 次元データの一般的な活用例

図2 3Dスキャナで取得した3 次元データの一般的な活用例

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