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機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」

2025.02.14

第7回 3Dスキャナを活用した働き方改革とDX

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いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記

3Dスキャナで必要な作業とノウハウ

 とても便利で優れた3Dスキャナだが、すべてに万能ということではない。何でも簡単に3Dスキャンして3 次元データ化できるわけではない。3Dスキャナは一般的に光やレーザーの反射やひずみなどを利用した三角測量によって表面形状を計測しているため、穴の奥や入り組んだ形状の取得を苦手としている。X線CTスキャナを使用すれば内部形状を測定できるが、1 億円を超える高額な機器であり、測定できる材料や大きさも限られる。

 透明や黒色、光沢のある素材など、光を透過したり、吸収したり、乱反射したりするようなものの計測は基本的に苦手である。対象物に白い粉などを吹きかけて計測したり、赤外線や複数本のレーザーを同時に当てて計測できる装置を利用したりと対応策もあるが、それでもすべての形状を完璧にデジタルデータ化することができない場合も多くある。

 うまく3Dスキャナで取得できなかった部分は専用ソフトウェアを使用して編集を行う。3Dスキャン後の作業の流れを図3に示す。3Dスキャンしたデータは、必ずと言っていいほど編集、修正作業が必要である。3Dスキャン=3次元CADデータではない。よく勘違いされるが、3Dスキャンしたデータは、点群でポリゴンデータ(STL)に変換されるが、そのまま3次元CADでの編集利用は基本的にできない。通常のサーフェスやソリッドといった3次元CADデータとは異なるため、後工程での利用が困難なこともあり、取扱いには注意が必要である。
図3 3Dスキャン後の流れと活用について

図3 3Dスキャン後の流れと活用について

 編集や修正作業では、3Dスキャンできなかった箇所の穴埋め、ノイズ処理、スムーズ処理などを行う。その後、面張りやソリッド化作業などを行い、3 次元CADデータ化していく。これらの作業を含めてリバースエンジニアリングと呼ぶわけだが、専用の機能が搭載されたソフトウェアを使用することで、自動でCAD面を生成したり、境界線・面構成を手動で作成し、計測データに沿った面を作成したり、計測データを参照してモデリングを行ったりできる。リバースエンジニアリングは、普段3次元CADを使っている人であれば、ある程度トレーニングを受けて経験を積めば使えるようになるだろう。

 3Dスキャナでの計測は、形状を複数の角度から撮影し、取得した画像の合成によって3 次元データを作成していく。そのため、データを重ね合わせて結合する際の合成誤差が生じる。精度として、単純な精度と点群のばらつき精度、繰返し測定の精度などがある。

 合成誤差を減らすには、なるべく測定回数を減らして、高い精度で形状を読み取る必要がある。形に合わせた最適な3Dスキャン方法を考える必要があり、機器とソフトウェアの特性を理解したうえで作業するテクニックが必要になる。3Dスキャナは習得に時間がかかると思われるかもしれないが、使っていくうちにコツをつかみ、すぐに使えるようになるだろう。中には、位置合わせを適切に行うために、目印であるマーカーを製品や周囲に張り付けて3Dスキャンする機器もある。

 3Dスキャナは、3Dプリンタと同じくさまざまな種類があり、自社の目的に合う3Dスキャナを選ぶ必要がある。メーカーによって使い勝手も違う。メーカーごとに独自環境のもとでテストを行っているため、カタログ値のみでの良し悪しの判断も困難である。機種選定の際は、実際に3Dスキャンして比較した方が良いだろう。

3D スキャナをうまく設計業務に活用していこう

 製造業でも「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をよく耳にする。DXとは単純なデジタル化ではなく、デジタルを活用して業務を変革していくことである。

 人がノギスなどで計測するには時間がかかり、自由曲面のような計測が困難なものでも、3Dスキャナを活用した検査やリバースエンジニアリングによって、時間短縮や品質向上が期待できる。3Dスキャナによる検査は2次元図面をなくすことにつながり、リバースエンジニアリングはこれまでの設計手法を変える1 つの革新的なアプローチとして捉えると、これはもう立派なモノづくりにおけるDXである。

 従来の業務の進め方や客先との決まりごとがあるため、今すぐに3Dスキャナを用いた検査や品質保証を実現することは難しいかもしれない。しかし、DXの第一歩として固定概念を捨て去り、3Dスキャナを活用した検査業務の変革に取り組み始めてみてはどうだろうか。

 自社の設計スキルや現場力の向上を目的に、3Dスキャナの導入を検討し、設計者の働き方改革を進めてみてはどうだろうか。測定のガイドライン(QIF規格など)や3次元図面(3DA/MBDなど)に対応するソフトウェアも増えてきている。もし、最初から自分たちだけで取り組むのが難しいのであれば、外部の3 次元測定サービスなどを活用してみるのも手である。良い製品を観察して学ぶことも設計者として大切なことである。その際、細かい形状を詳しく調べるのに3Dスキャナが大活躍することだろう。
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