機械設計 連載「防水製品の開発・設計の基礎とポイント」
2024.11.11
第1回 防水設計を始める前に必要な、IP規格の理解と防水設計の目的
アイテックソリューション 北村 信之
これから開発する製品をIP規格に適応させる際、一番重要なことは、それぞれの等級で保護すべき内容を正確に理解したうえで、どの等級に対する保護を製品に付与するかということだと考える。よく「IP コードの数字が大きいほど性能が高いのか」という質問を受けるが、そうではない。表2の外来固形物に対する保護(防塵)は、等級の数字が大きくなるごとに対応する固形物のサイズが小さくなることから、保護する内容が厳しくなっていくので、数字の大きさが大きいほど性能が高いと言えるが、表1 に記載する水に対する保護(防水)は数字の大きさと同じく条件が厳しくなっているとは言いがたい。防水の等級では、1~2等級では「鉛直に落下する水滴」に対する保護であり、3~4は「散水・飛まつ」、5~6は噴流(6は暴噴流)、7~8は筐体を水に浸す(水没)試験に対しての保護となるため、それぞれの等級によって保護すべき水の状態や掛かり方が異なっているためである。
そのため、例えば監視カメラのような屋外に固定設置した状態で使用する製品を企画する際に、「できるだけ数字の大きなIP コードの防水等級を付与しよう」と考えてIPX8を設定し、試験に合格できるような設計をしてしまうと、製品が水に浸かることが想定できない製品に対して、水に浸かっても壊れないための設計をしていることになるため、不要な防水関連部品が増え製品コストの増加につながる。
逆のパターンとしては、IPX8(第二特性数字は最も大きい)の試験に合格する性能を持った製品でもIPX6 の試験に合格するとは限らない。その理由としては、IPX8 の試験はIPX7 よりも厳しい条件と設定されており、「製品を水深1 m に沈め30 分放置する」というIPX7 の試験よりも過酷な状況下において、内部に有害な量の水が入ってはいけないという等級であるため、静圧に対して保護することができれば問題がない(IPX8の試験内容は決まっていないため絶対ではない)が、IPX6では暴水流(イメージとしては消火栓などから出る水流)を保護する必要があり、特別な対策をしていない設計の場合、水圧による筐体の変形や微細振動により水が防水部を乗り越えて浸入してしまうため、IPX6 の試験には合格できない可能性がある。
単純に防水性能を高くすることは、防水に関連する部品点数が増えてしまい、材質も高価なものを使用する必要性があるなど、製品のコストの増加につながるため、開発する製品の用途に基づいた適切な保護等級を決めることが大切である。
ここまではJIS C 0920 で定められている「電気機械器具の外郭による保護等級」について解説してきたが、IP コードは電気機械器具に関するものとは別に、JIS D 5020(自動車部品保護等級)で定められた規格も存在する。同じIPコードで表記されたものに関してはどちらも同じ内容になるが、異なる点はJIS D 5020 では、IPX4K(加圧飛水)/IPX6K(加圧強噴流水)/IPX9K(高圧蒸気洗浄噴射)など、車載部品に対して求められるいっそう強力な防水規格が定められている。特に大きく異なるのは、IPX9Kという規格では「高圧の蒸気」に対しての保護が必要となる。電気機械器具の保護では一律に常温水となっているが、常温水と蒸気では粒子の大きさが異なることから高度な防水設計が要求される。
防水製品に関する規格としてはほかにもいわゆるダイバーウォッチに関する規格(JIS B 7023/潜水用携帯時計-種類及び性能)などがあり、製品の用途に応じてIP規格にとらわれず、最適な規格に準拠することも大切である。
防水設計の目的
ここまで解説してきたIP 規格とは、要するに「一律の方法で確認試験を実施することで同じ水準の性能を担保する」という内容であり、具体的な設計手法が定められているわけではない。ここからは防水設計の目的と基本的な考え方を説明したいと思うが、冒頭で記載したように筆者自身の経験に基づく内容になることを前提としてご理解いただきたい。
そもそも防水設計の目的とは、ユーザーが製品を使用する際、「想定される程度の被水であれば製品の使用上問題が発生しないことをメーカーが保証」することであり、IP 規格に基づく試験に合格していなくてはならないということではない。実際に世の中で流通している電気機器の中には、IP規格ではなく自社独自の防水規格を仕様として記載している製品も存在する。IP 規格を用いた方が競合他社との性能比較のためにわかりやすく、JIS に準拠していることで製品の信頼性を上げることは間違いないが、IP 規格を記載すること自体が防水設計の目的ではないということは大切なポイントではないだろうか。
実際に昨今の製品には「IPX7相当」という記載も多いが、“相当”という表現は先述のJISには記載はなく、メーカー独自の解釈であり、メーカーとしてはIPX7 と同等の実力があり、ユーザーの使用上は問題ないという表現だと思われる。IP 規格についても、ある程度の想定はあると推測するが、自然現象を基に試験方法を設定されているわけではなく、定量的に試験を行うことで相当の実力を確認するための試験となっていると思われることから、想定される製品使用環境での雨量または被水量がIP 規格で考えるとIPX4 に相当しているため、開発する製品の防水性能をIPX4 に設定するという考え方が必要である。
基本的な防水設計手法
冒頭でも例にあげたが、水筒やランチボックスは身近な防水製品であり、水筒のキャップ部分やランチボックスの蓋などにゴム製のパッキンが使用されているが、その構造こそが基本的な防水設計であり、必要な機能を満たしシンプルに考えられた構造である。
水筒は本体となる容器部分と飲み口となるキャップ部分で構成されているが、飲料を保管する容器であるため、内部は清潔に保つ必要があり、容易に洗浄できる構造にする必要がある。本体部分とキャップは分離できる構造が望ましく、分離する部分から液体が漏れては困るため、ゴム製のパッキンを用いて止水するという構造になっている。また、ランチボックスの例では、容器部分と蓋部分は容易に取り外せる構造となっており、内部の液体や蒸気が漏れないように、蓋と容器の間にゴム製のパッキンを挟み変形させることで隙間を埋め、液体が外部に漏れ出ない構造となっている。
水筒とランチボックスに共通していることは、キャップ部や蓋を容易に着脱できるといった製品にとって必要な機能と、液体が外部に漏れ出ないという要求される機能を両立した防水設計になっている点である。電化製品における防水設計においても、液体が内部にあるか外的要因かという点は異なるが、基本的な発想は変わらず製品として必要な機能(例えば蓋が外れる、可動部がある、カメラなどを用いるための透明な窓など)があり、かつ、外部からの被水があっても内部に浸水しない、もしくは浸水したとしても基板やバッテリーなどの電気部品にまで液体が到達しない構造にすることが基本的な防水設計の考え方である。どのような製品でも基本的な考え方は変わらないが、IP 規格を満足させるには、それぞれの試験に応じた設計配慮が必要となり、その配慮の仕方が一番大切な設計要素となると考えている。
具体的にどういうことかというと、例えばIPX3 の試験では鉛直方向から60 度までの間で散水された水に対しての保護を求められているため、床に据え置きして使用する製品であれば、傘のような部品があれば、基本的には水が製品の内部に入ることはない。取付け面に水がたまることで浸水するということも考えられるが、電気部品を高床式のように高い位置に配置し、製品の底面部分に空間を設計しておけば、取付け面にたまった水が入ることもない。このように防水設計は単純に隙間をゴム製のもので埋めるということではなく、製品の使用条件と求める防水性能を考慮し、最適な設計をすることで不必要な部品コストを抑えることができる。
今回は防水設計を始める前に必要になる、IP 規格と防水設計の目的について記述してきたが、次回からはもう少し具体的な内容について解説していくので、興味のある方は引き続き購読いただければ幸いである。