機械設計 連載「防水製品の開発・設計の基礎とポイント」
2024.12.23
最終回 量産時の防水性能の確認方法
アイテックソリューション 北村 信之
きたむら のぶゆき:技術統括部課長。アイテックソリューションは技術者派遣、受託設計、試作部品作製などの事業を展開している。受託設計では「防水コンサルティング」を強みとする。大手企業からベンチャー企業までさまざまな企業を対象に、開発中の製品の3 次元データや試作機からの課題の抽出、防水・防塵の設計アドバイス、防水評価試験、入水経路の特定、不具合対策検討など、防水製品の開発支援を行っている。
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はじめに
本連載も3 回目となるが、今回は防水設計を施した製品の試験方法などについて解説していきたい。今回解説する内容が防水設計の中で一番重要かつ労力を要する内容ではないかと思っている。
筆者のイメージでは、防水設計は設計して金型を起工するまでの工程は非防水製品とそれほど変わらない。当然、防水に関係する部品設計などが増えるため作業工数は増えるが、特別なことをするわけでもない。では何が難しいかというと、出来上がった部品を組み立て、要求される防水性能を満たした製品を大量に生産するということに尽きる。
どういうことかというと、金型を手配し出来上がった試作品で防水試験を実施し、防水性能の判定がNGとなった場合、「設計ミス」、「部品不良」、「組立不良」などさまざまな要因が考えられるため、量産開始までに、それらの不良内容を精査し対策しなくてはならない。また、試作レベルでは問題がなかった製品でも量産中には必ずと言ってもいいほど不良が発生するため、不良品を市場に出さないための確認方法も確立する必要がある。 文面として読む分にはそれほどの業務量とは感じないと思うが、実作業となるとかなりの工数を必要とするため、今回の解説が少しでもお役に立てば幸いである。
防水試験の内容
防水試験の内容については連載第1 回の中で触れたが、IP 規格の試験で合格していればユーザーが実際に製品を使用するうえで問題ないのかというと正直不安がある。なぜならば、IP 規格に準じた試験はあくまでも製品の実力を図るためのものであり、実際にユーザーが製品を使用する環境下では外的要因によるさまざまなダメージが製品に蓄積されているはずである。
ユーザーが製品を購入した直後に製品が被水するのであれば問題はないと思うが、購入してから実際に製品が被水するまでの期間、ユーザーはある程度の高さから製品を落としてしまうことがある。また、通常では防水試験後は製品を安定した状態に置き、ある程度乾かしてから製品を分解し浸水の有無を確認するが、ユーザーは水に濡れた状態の製品でも構わず振り回しているかもしれない。そのようなユーザーの実使用環境を考慮し、ある程度のダメージを受けた状態まで想定した試験を行うことで防水製品の信頼性は上がり、実使用でも不具合が発生しにくい防水製品になる。
とはいえ、想定されるダメージすべてに対応したような製品にしてしまうと、製品を強固にしていく必要があるためコストも高くなり、サイズも大きくなっていくので、どこまでを保証するかの判断が必要であり、信頼性試験の実施内容を定めていく必要がある。信頼性試験の内容は、先述したような落下によるダメージを保証するのであれば、落下試験を規定サイクル実施した後に防水試験を行うことで担保でき、製品が持ち運び可能なものであり被水後に姿勢が変わる可能性がある製品の場合は、内部への浸水自体をNGと判断すれば問題ないと考える。そのため、初めて防水製品を開発される場合には、製品企画の段階からどの程度まで保証するかを定め、そのスペックに合わせた防水設計を施す必要がある。
防水試験の方法
防水性能を確認する方法は、IP 規格に沿った内容の試験を実施することは必須だが、水を用いた試験を開発中の製品で行う場合、浸水し内部の電気部品などを壊してしまう可能性が非常に高い。電気部品などは浸水すると破損する可能性が髙いため、試験のたびに部品が壊れてしまうと開発コストも高くなる。また、実際の防水試験を行うと結果の確認までにそれなりの時間を要するため、部品を壊すことなく簡易的に防水性能を確認するために「リーク試験」という方法があるので解説する。
1.リーク試験とは
リーク試験とは、簡単に言えば防水エリア内の気密が保たれているかを確認するための試験であり、水ではなく製品内部の気圧の変化を見ることで密閉性を確認する試験である。リーク試験としては、「圧力変化」を確認する方式と「筐体の変形」を確認する方式が一般的である(図1)。
圧力変化を確認する方式には、「加圧式」と「減圧式」があり、どちらも製品内部(防水エリア内)の圧力を変化させ、経時による内圧変化を測定することで防水エリア内が密閉されているかを確認する。
もう一方の筐体の変形を確認する方式では、製品を試験機に設けられたチャンバ内に設置し、チャンバ内部を加圧していくと、筐体の外郭部はチャンバの内圧によって押され少しずつ凹んでいく。その凹んだ部分にゲージをあてた状態のまま放置すると、筐体の内部気圧は少しずつチャンバ内の圧力に近づいていくため、気圧の変化に合わせ筐体が元の形状に戻っていく(凹みが解消されていく)。その筐体の変化量を測定することで内部の気密性を確認するという方式である。
どちらの方式も実際に水を使用することはないため、せっかく完成させた製品を壊すことがなく、合否判定のために製品を分解する必要がないことから、量産ラインの検査項目として防水性能の良否判定を行うことができる。どちらを選択するかは開発する製品の形状やサイズ、外観品質などに合わせることが望ましい。
2.リーク試験を行うために必要な設計
リーク試験を行うためには、試験を実施するための構造をあらかじめ筐体側に用意しておく必要がある。圧力の変化を確認する方式か、筐体の変形を確認する方式かによって必要となる形状も異なるので、樹脂部品などであれば金型を起工する前にどの方式で進めるのかをあらかじめ決めておくことも忘れてはならない。
両方式に共通して必要になる構造としては、試験機と製品をホースでつなぎ、筐体内部の気圧を変えるための孔形状がある。前回の連載では完全防水をしている製品では気圧調整用の孔を設ける必要性を解説したが、リーク試験で内圧を調整する際にその気圧調整用の孔を使用する方法や、外部接続端子を保護するための防水カバーなどがある場合は、カバーを外した際の開口部を用いる方法が一般的である。防水エリア内とつながっている孔に対し、エアーが漏れないようにアタッチメントをあて、加圧または減圧することで内部の気圧を変化させる。使用した孔は試験後に通気性のある防水シートで密閉しておく必要がある。
内圧の変化を確認する方式であれば、筐体に孔をあけるだけで対応できるが、筐体の変形を測定する方式では別に一点配慮が必要である。筐体の変形を測定する方式の場合、減圧された際にある程度筐体が変形する必要があるため、設計段階から測定しやすいポイントを設定し、その部分は変形しやすい形状にするなど事前に準備しておく必要がある。