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機械設計 連載「防水製品の開発・設計の基礎とポイント」

2024.12.23

最終回 量産時の防水性能の確認方法

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アイテックソリューション 北村 信之

3.リーク試験の合否判定

 ここからは、リーク試験を行うことでどのようにして防水性の合否を判断するのかを解説する。例えば加圧式のリーク試験を行うと、試験結果のグラフは図2 のようになる(減圧式の場合は山の向きが反転する)。リーク試験では判定ポイントとして、①一定時間内に内部気圧が規定圧に到達すること、②規定時間経過後の内部気圧が規定圧以上であること、という2 つのポイントで合否を判断する。
図2 リーク試験結果のグラフイメージ

図2 リーク試験結果のグラフイメージ

 図2 では判定ポイント①で設定した規定時間①、または規定圧①に達するまで加圧を行い、規定圧①に達するとリーク試験機は加圧を停止しその気圧を保持する。その状態で規定時間②までモニタリングし、規定時間が経過した判定ポイント②で内部気圧が規定圧②を下回っていない場合はOK判定となり、下回った場合にはNG判定となる。製品は防水ができるレベルで密閉できていても空気は漏れるので、内部気圧は少しずつ下がるため、判定ポイント①の時点から内部気圧が大気圧に近づいていくことはNGにはならない。

 図3 ではリーク試験がNGになる場合のグラフを用意した。いろいろなパターンが想定されるため、パターンごとにサンプルA~Cとして解説していく。まずサンプルAは、判定ポイント①の判定はOKとなるが、判定ポイント②では規定圧②を下回っているためNGとなる。サンプルBは判定ポイント②では規定圧②を超えているが、判定ポイント①の時点で規定圧①に達していないのでNG。サンプルCは判定ポイント②に達する前に気圧が下がりきっているためNGとなる。
図3 リーク試験のNG結果グラフ

図3 リーク試験のNG結果グラフ

 このグラフからそれぞれ考えられる不具合としては、サンプルAは気密状態が悪く少しずつ内部の空気が漏れている状態であり、パッキン部などに異物が挟まっているなどの不具合が考えられる。サンプルBは製品の気密は取れているが規定圧に達しないため、規定圧①の設定値が高すぎてパッキンなどを押し上げ、内圧が逃げている状態が推測される。サンプルCの場合はサンプルAと似ているが空気が漏れている量が多いため、Oリングなどの部品が切れている場合やテープなどで止めている部分が浮いているなど大きな穴による漏れが推測される。

 このように、試験でNGになったサンプルもNGの状態からある程度の不良内容を推測できるため、生産ラインで多くのデータをサンプリングしていくことで、傾向からNG箇所を推測できるようになり、リワーク効率も良くなることにつながる。量産初期などは合否判定結果だけではなく、グラフと修理内容をデータとして蓄積していくことが必要である。

4.リーク試験のしきい値

 リーク試験で一番大切なことは、水を用いた試験の結果とリーク試験の結果が同じになることである。リーク試験の目的は簡易的に製品の防水性能を確認することにあるので、水を使用した試験の結果とリーク試験の結果は相関関係になっていなくてはならず、製品ごとに適切な時間・気圧のしきい値を設定する必要がある。リーク試験のしきい値は製品の内容積や構成部品の強度によっても変化するため、ほかの製品で設定したしきい値は流用できず、開発製品ごとに検討する必要がある。しきい値の設定は図4 のような手順で実施すると工数を削減でき効率的だと考える。
図4 リーク試験のしきい値決定の手順

図4 リーク試験のしきい値決定の手順

 手順①として、まずは設計値がワーストの関係(パッキンの圧縮が一番少ない状態)になるサンプルを作製し、実際に防水試験を行う。設計ワースト品を意図的につくることは難しいので、疑似的に隙間を広げるなどで止水部の関係性が設計値の下限(パッキンの圧縮が下がる方向)になるようにサンプルを作製する。防水試験がOKになれば次のステップへ移行し、NGであれば設計として防水できていない状態なので、NG箇所を特定し対象部位を設計変更して部品を修正する。

 次に②でワーストサンプルに対しリーク試験を行って実力値を把握、余裕を持った値にしきい値を決める。ここでのリーク試験はしきい値を決めるためのものとなるので、ワーストサンプルがOKとなる値を探し決定する。しきい値を決めた後、③~④でしきい値の妥当性を検証していく。

 手順③では意図的に作製したワーストサンプルではなく、無作為に選定した部品を組み立てたサンプルを準備しリーク試験を行う。初期に用意したワーストサンプルが適切であれば、ここでリーク試験NGになるサンプルは組立工程などで不良が発生しているはずなのでリワークを行い、修正後再度リーク試験を実施する。NGを繰り返すようであれば、初期のワーストサンプルがワースト条件になっていない可能性があるため、ワースト品サンプルを見直し、再度同じ手順を繰り返す。最後にリーク試験でOKとなったサンプルを実際に防水試験にかけ、防水試験で問題がないことを確認するといった手順となる。

 ④の段階でNGになるサンプルが出た場合は、先ほどと同様に初期のワーストサンプルがワースト条件になっていないことが考えられるので、最初から見直すことをお勧めする。この工程も文章上では単純な手順の繰返しとなるが、実際に作業をしてみるとかなりの工数を要するため、早い段階から準備をしておく必要がある。

5.リーク試験の注意点

 ここまでリーク試験について解説をしてきたが、注意点として、リーク試験は「完全に密閉された防水設計」の製品にしか実施できない。リーク試験は製品の内圧の変化を基に防水性能を疑似的に確認しているので、防水エリアが完全に密閉された防水設計ではない場合、製品内部は加減圧をしてもすぐに大気圧に戻るため判定ができないためである。つまりは、IPX7 やIPX8 のような完全に製品を水没させる防水製品や、IPX5 やIPX6 に対応する製品であり、かつ内部に水が入らないように完全に密閉した防水設計を施した製品に対しては実施可能だが、それ以下の防水性能の製品には実施できないので注意してほしい。

 また、量産出荷前にリーク試験による気密確認を行うか否かに制約はなく、メーカーの自社判断となるため、水没させるような製品に対しても設計保証でリーク試験を実施しないという判断もあると考える。

最後に

 ここまで3 回にわたり防水設計についての解説をしてきたが、最後に最も大切だと思うことをお伝えしたい。

 筆者も常に挑戦と反省を繰り返しているので偉そうなことは言えないが、防水設計を行ううえで最も重要だと感じていることは、一つひとつの確認作業で手を抜かず、先送りにしないことである。どのような設計も基本的には同じではあるが、防水設計では部品点数が多く、型の取り数が多数個取りで作業量が膨大であっても、しっかりと部品の寸法を測定し、ワーストケースでもパッキンなどはしっかりと圧縮されていることを確認し、防水性能が保てていることを現物で一台ずつ丁寧に見ていくことが最も大切になる。近年の開発現場では開発日程が短縮され、開発人員も削減されている傾向にあるが、そのような状況でも開発の初期にしっかりと時間を使って検証することで、最終的には製品の量産もスムーズに立ち上がるので、初期からしっかりと検証しながら開発を進めていただければと思う。

 ここまで長々と筆者の拙い知識を皆さまにお伝えしてきたが、執筆は初めてということもあり、不慣れで読みにくい文章だったことをおわびするとともに、最後まで読んでいただいたことに感謝の意を表する。
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