icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械設計 連載「事例から見る摩擦・摩耗の基礎とトラブル解決手法」

2025.09.19

第4回 潤滑

  • facebook
  • twitter
  • LINE

安藤技術士事務所 安藤 克己

潤滑剤

 潤滑剤(Lubricant)は、①摩擦面間の摩擦・摩耗の低下、②焼付き、摩耗、転がり疲れなどの表面損傷の防止、③潤滑面の冷却、④異物の混入防止あるいは排除、⑤腐食やさびの発生防止、などの目的で使用される。潤滑剤は、潤滑油(軸受油、作動油、ギヤ油など)、グリース(石けん基、非石けん基)、固体潤滑剤、に大別できる。

 潤滑油は、基油と添加剤から構成される。基油は、鉱油(石油残渣から精製)、合成油(ポリオレフィン、ポリエーテル、シリコーン、燐酸エステル)、動植物油(牛脂、なたね油)があるが、一般に鉱油が使用されている。添加剤として、用途に応じ、油性向上剤、極圧剤、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、摩擦調整剤、腐食防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、あわ消し剤、などが配合される。

 添加剤のうち、重要な油性向上剤と極圧剤による効果を、図4 のストライベック曲線上に示す。油性向上剤は、接触面に物理吸着、化学吸着し、②混合潤滑領域における摩擦低減、④ごく低速域における摩擦の速度特性を逆転し、スティックスリップ(摩擦振動)を防止する効果がある。極圧剤は、添加剤自体が分解・重合して潤滑膜をつくる、または金属原子との反応により潤滑膜をつくることにより、①化学摩耗により表面粗さを低下させ、流体潤滑領域をより厳しい条件の方へ拡張、③金属化合物からなる固体潤滑表面膜の生成により、境界潤滑状態を改善する効果がある。

 グリースは、潤滑油(基油)中に増ちょう剤(Thickening agent)を分散させて半固体状、または固体にしたもので、特殊な性質を与えるほかの成分が含まれる場合もある。増ちょう剤は、カルシウム、ナトリウム、リチウムなどの金属石けん系、複合石けん系、ウレア系、有機系、無機系がある。図62)に代表的なリチウム石けんグリースの石けん繊維構造を示す。増ちょう剤の割合は、グリースの種類によるが、10~20%程度である。増ちょう剤は、基油中で3 次元的網目構造を形成しており、そのためグリースは非ニュートン性(せん断応力がせん断速度に比例しない)とテキソトロピー性(せん断を受けると時間とともに軟化するが、静止すると元に戻る性質)を示す。グリースの特徴は、長期無給油可能、少量で可、潤滑系単純、密封単純、異物除去不可能、高速限界低い、冷却能なし、一般には損失大、添加剤の必要濃度が高くなる、などである。
図6 グリースの石けん繊維構造(12-ヒドロキシステアリン酸リチウム)

図6 グリースの石けん繊維構造(12-ヒドロキシステアリン酸リチウム)

 潤滑改善事例として、製鉄所の連続鋳造機ロール軸受があげられる3)。連続鋳造機ロール軸受は、超低速、重荷重のため境界潤滑条件であるため、リチウム石けんグリースを、ウレアグリース(油膜厚が厚い)とすることで、寿命延長を図ってきた。現在では、抜本的な改善策として、グリース潤滑からオイルエア潤滑とすることにより3 倍以上の寿命延長を達成している。

 固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、黒鉛、PTFE(Polytetrafluoroethylene)などがある。潤滑効果はへき開により、接触面間に介在して、摩擦係数を低減して焼付きを防止することにある。使用量の約2/3は黒鉛、二硫化モリブデン、PTFEであり、そのうち1/2以上はグリース(ペーストも含む)、油へ添加されて使用されている。図7にアルミニウム同士(無潤滑、PTFE塗布)のピンオンディスク試験結果の例を示す。固体潤滑剤による摩擦係数は種々のデータがあるが、図7 の事例に示すように、筆者の経験ではおおよそ0.1 であり、摩擦係数が0.01以下となる潤滑油と比較すると摩擦低減効果は限界があるといえる。
(a)アルミニウム(無潤滑)同士μ=0.19  (b)アルミニウム(PTFE塗布)同士μ=0.10                         図7 アルミニウム同士のピンオンディスク試験結果例

(a)アルミニウム(無潤滑)同士μ=0.19  (b)アルミニウム(PTFE塗布)同士μ=0.10                         図7 アルミニウム同士のピンオンディスク試験結果例

潤滑管理

 潤滑管理の基本は、決められた周期・量・場所に給油脂を確実に行い摩擦・摩耗を防止し、機械をスムーズに動かすことで、保全は給油脂に始まり、給油脂に終わる、といわれている。①漏れのない給油脂管理の徹底、②潤滑剤管理(油種管理など)、③油量管理(補給など)、④油種選定(適油選定、潤滑油の知識)、⑤潤滑剤の性状管理(油診断)、⑥コンタミ管理(清掃、浄油作業)、⑦機械要素点検(振動診断や交換)、などが管理項目としてあげられる。

 潤滑トラブル事例として、油圧作動油劣化によるシリンダ誤作動事故における油圧作動油分析結果の例を表1 に示す。新油と現状使用油の油性状分析結果から、漏油トラブル発生時に、当初使用油(動粘度68 mm2/s)に、低粘度の新油(動粘度46 mm2/s)を補給したこと、汚染度がNAS等級で12超級と進んでいたことが主な原因と考えられる。そのほかの項目では、水分と挟雑物が基準値を超え、耐摩耗添加剤であるZn量も低下しており、油の汚染、劣化が進行している。このため、対策として指定作動油への全更油と定期的な性状管理を実施することにした事例である。
表1 油圧作動油分析事例

表1 油圧作動油分析事例

 汚染度を評価するNAS等級は、航空機用に米国で開発された規格であるNAS1638 で規定されており、各粒径範囲ごとの等級で最も数値の高いものを、NAS総合等級(12超級が最大)で報告することが一般的である。工業や航空宇宙の流体動力用途に現在も広く利用されている。ISO 等級も使用されているが、総合等級ではなく、4 μm以上、6 μm以上、14 μm以上の粒子数を数値化しそれぞれISO等級にあてはめていくもので、NAS等級とは評価方法が異なる。
参考文献
1)橋本巨:基礎から学ぶトライボロジー、森北出版(2006)、p. 6
2)山本雄二、兼田楨宏: トライボロジー第2 版、オーム社(2010)、pp. 63~76、p. 82、119、220、224
3)四阿佳昭:潤滑技術・管理による設備の安定稼働と長寿命化、新日鐵住金技報、40(2015)、p. 28
28 件
〈 2 / 2 〉

関連記事