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機械設計 連載「事例から見る摩擦・摩耗の基礎とトラブル解決手法」

2025.11.06

最終回 トライボロジー課題解決事例

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安藤技術士事務所 安藤 克己

あんどう かつみ: 所長、博士(工学)、技術士(機械、金属、総合技術監理)。1977 年東北大学大学院工学研究科修了、新日本製鐵入社(現日本製鉄)。釜石製鐵所、君津製鐵所、技術開発本部(富津)にて、製鉄設備エンジニアリング、設備長寿命化などの研究開発に従事。2000 年から日鐵テクノリサーチ(現日鉄テクノロジー)にて、材料・トライボロジー、腐食防食技術の試験・分析・評価、研究支援、コンサルティングに従事。2016年安藤技術士事務所開設、技術コンサルタントとして活動中。
 第1 回から第4 回で、表面・接触、摩擦、摩耗、潤滑の基礎的事項のうち実用的に重要と思われるポイントを述べ、第5 回では、トライボロジー課題解決のために必要な評価・解析手法を述べた。最終回では、トライボロジー課題解決事例を、主に材料技術・表面技術の視点から紹介する。

耐摩耗技術(セラミックライニング)

 高硬度のセラミックスは、耐アブレシブ摩耗性には優れているが、金属に比べ靱性が劣るため、耐摩耗ライニング材として、従来材の高クロム鋳鉄などに比べ、材質やメーカー・品種による耐摩耗性の差が極めて大きく、材料選定指針の確立が課題であった。

 製銑工程(原料、焼結、高炉)において、原料が落下衝突する耐摩耗ライニング材などを対象として、各種セラミックスのエロージョン特性を評価した。エロージョン試験は、粒子の衝撃力が加わるので、アブレシブ摩耗試験より過酷な試験となる。表11)に試験に供したセラミックス試験片(試験片寸法50×50×t5~10 mm)を示す。セラミックスの材質はアルミナ、窒化珪素、サイアロンとし、耐摩耗材として市販されている33種類を入手し評価した。破壊靱性はインデンテーション法で測定した。摩耗粒子は、図11)に示す、高炉原料の焼結鉱(粒径5~100 mm程度)を破砕、ふるい分けし、平均粒径0.8 mmとした粒子(HV=10.4 GPa=1060)を用いた。焼結鉱は、粉状の鉄鉱石と石灰石、粉コークスなどを混合、焼結機内で焼結反応を進行させることにより製造され、角張った形状で、相手材を摩耗させやすい。セラミックス試験片と焼結鉱粒子の硬さ比は、ほぼ1.25以上であり、第3回の図6から、ほとんど摩耗しない領域にある。
表1 セラミックス試験片

表1 セラミックス試験片

図1 焼結鉱(HV=10.4 GPa)

図1 焼結鉱(HV=10.4 GPa)

 図21)に示すエロージョン試験機(衝突速度150 m/s、衝突角度45°)を製作し、試験を行った。図31)にエロージョン試験結果を示す。耐摩耗性は、摩耗率w(mm3/kg)=摩耗体積/摩耗粒子総重量で評価した。図3から、摩耗率は0.1~1.0 mm3/kgの範囲にあるセラミックスが多く、耐摩耗性が優れていることがわかる。解析結果から、セラミックスの耐エロージョン性は、破壊靱性と硬さで予測でき、KIC≧5.0 MPa・m1/2 かつHV≧15 GPaの条件を満足するセラミックス(窒化珪素、サイアロン各1種類)が優れた耐エロージョン性を示すことが表された。
図2 エロージョン試験機

図2 エロージョン試験機

図3 エロージョン試験結果

図3 エロージョン試験結果

 この結果をもとに実用化されたセラミックライニングブロワー翼を図42)に示す。材料コストは、窒化珪素(サイアロン)>アルミナであることから、吸引粉体による摩耗の激しい翼入口部は窒化珪素(サイアロン)とし、羽根部はアルミナ接着とした。設計面から、セラミックスと金属の接着と接合技術は実用化の要であり、多種多様な技術が開発されている。
図4 セラミックライニングブロワー翼

図4 セラミックライニングブロワー翼

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