打合せに必要なのは調査結果である最新技術情報のコピーと重要4要素を網羅した1枚の資料
今回紹介する取組みにおいて、後述する技術情報、ならびにA4で1ページ程度の資料を除き、それ以外に資料を作成する必要はない。続けることが最優先の取組みにおいて、参加者に不必要な負荷をかけることは業務設計として間違っている。
会議に先立って用意すべき資料について、若手技術者が最新技術情報として調査をした例を考える。情報源として、できれば紙媒体も存在する学術論文などが望ましいが、情報の鮮度という観点からインターネット上のものであっても、情報の出所が大学や研究機関といった信頼できるものであれば問題ない。会議に必要なのは、人数分の媒体のコピーだ。情報のすべてをコピーする必要はなく、重要な部分、またはそれを抜粋したものでかまわない。会議では議論に時間を割きたいためA4コピーで1、2枚程度が望ましい。
加えて準備したいのが、技術情報に関する「重要4 要素」の記述だ。それぞれについて長々と書く必要はなく、A4で1ページ以内に収めることが肝要である。重要4 要素を表1 に示す。この構成は技術報告書とまったく同じであることに気がついてほしい3)。
技術情報に関する重要4 要素、ならびに記事や論文の抜粋コピーをプロジェクタを使って映すのではなく、コピーをして出席者に紙で配布するようにしてほしい。紙で配布するのは、会議出席者が必要に応じてメモをするなど、手を動かしてもらうことを狙っている。思考を活性化させるには手を動かすのが効果的であることが、筆者の経験則としてわかっていることによる。
なお、タブレットなどに電子ペンでメモをする方法でも問題ない。もし、全社員がタブレットを持っているようであれば、既述の情報を電子データで配布し、会議出席者はタブレット上の配布データに直接手書きで書き込むという方法も可能だ。このような電子データであれば複製もしやすいため、調査者である若手技術者にフィードバックとしてメモ済みのデータを渡すのも、モチベーション向上に効果があることを加筆しておく。
質疑応答では調査した技術情報の本質は何か、そして実務への応用とその可能性を議論する
会議における質疑応答で、若手技術者と技術者間で議論させたいのが、調査した技術情報に関する以下の2点である。
・技術の本質は何か
・ 実務のどのような場面で応用できる、またはその可能性があるか
技術の本質理解への探求は、技術者であれば常に念頭に置かなくてはいけない。特に若手技術者のうちにこの考え方の癖をつけておくことは、普遍的スキル向上のために重要だ。そのため、質疑応答では「この技術情報の中で、技術的観点から最も重要と考えられる部分は何か」といった質問を投げかけることが望ましい(図2)。
図2 技術情報に関する若手技術者と技術者の間での議論を通じた、技術の本質理解と実務応用を考慮した知恵の獲得を促す
もう1 つ質疑応答で議論したいのが、実務との関係性である。最新技術情報を調べた、という作業要素が強くなってしまうようであれば、実施するのは技術者である必要はなく、例えば調査会社の調査員の方が詳しく調べることができるだろう。技術者の強みはその技術の本質を理解したうえで、それがどのように実務に結びつくのかというところまで“想像する”ことだ。この想像努力こそが、単に知っているという「知識」から、知識を応用し、実践的な行動まで結びつけられる知見の「知恵」4)に昇華させる鍛錬となる。
最新技術調査は若手技術者だけでなく、中堅技術者やリーダーも行う
最新技術調査とそれを題材にした議論は若手技術者育成に大変効果的だが、より効果的にする意味で中堅技術者やリーダーも若手技術者と同様に取り組むことが肝要だ。その狙いは2つある。
1 つは最新技術情報の調査、共有、質疑応答の見本を見せることにある。実務経験を有する中堅技術者やリーダーは技術情報調査に対する嗅覚を持っていることが多く、この感覚を会議の場で体感することは若手技術者にとって大変重要な経験となる。加えて重要4 要素の記述や情報共有方法、質疑応答でのやり取りを見せるのも同様の効果がある。
もう1 つは、やらされている感を低減させることだ。若手技術者は立場が上の中堅技術者、リーダーや管理職がどのように仕事に取り組んでいるのかをよく見ている。最新技術情報の調査を若手技術者しか行っていないとすると、「なぜ自分たちだけが」という気持ちが大なり小なり生じ、それが結果的にやらされていると感じるようになってしまう。しかし、中堅技術者やリーダー、元技術者であれば管理職も同じように取り組んでいる姿勢を見せれば、取組みの必要性を若手技術者も理解するはずだ。若手技術者を育成するためには、中堅技術者やリーダー、時に管理職も実務で若手技術者へ見本を見せなくてはいけない。
最後の総評では課題指摘だけでなく、次につながる助言や提言を
会議の最後は、議長(リーダーや管理職)からの総評を行ってほしい。多くの場合、総評で述べられるのは不足点や問題点といった課題になる。これはこれで重要だが、より重要なのは最新技術情報の調査、その調査内容に関する議論、そして実務との関係性理解などについて、こうするとより良いという改善点を主とした助言や提言だろう。この取組みは若手技術者の育成はもちろん、ほかの出席している技術者への波及効果も期待され、結果として技術者で構成されるチームの技術力の底上げにつながる。
まとめ
今回は若手技術者育成の一つとして、最新技術情報に継続的に触れさせる方法を解説した。技術者としての強みを高めるには、技術の本質理解を優先にしながらも、最新技術情報の獲得によって知識を更新し、さらに技術者間の議論を通じて実践力に直結する知恵にまで進化させる必要がある。また技術情報の媒体は学術論文、学会誌、業界紙といった技術情報の質が担保されているものが求められる。
調査対象を何にするかは、若手技術者であっても裁量権が認められ、中堅技術者やリーダーも取組みに参加することで若手技術者の能動的参加を促し、取組み自体を継続的なものにすることが肝要だ。そして、単に技術情報を調べるだけでなく、技術報告書と同様の重要4 要素を事前にまとめる必要性を理解させなければならない。
参考文献
1 )吉田州一郎:第2 回 若手技術者が技術の本質を理解してない、機械設計、Vol.67、No.11(2023)
2 )J-STAGE ホームページhttps://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja、(参照2024-03-06)
3 )吉田州一郎:第7 回 技術報告書を構成する最重要4 項目、機械設計、Vol.66、No.11(2022)
4 )吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol. 68、No.2(2024)