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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2026.03.04

第23回 欧米流のジョブ型雇用と異なるアプローチで技術チームの戦闘力を上げたい

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FRP Consultant 吉田 州一郎

欧米流と異なる日本の製造業企業の技術チームに適したジョブ型雇用に近い育成効果の出るアプローチは何か

 ここまでは欧米流のジョブ型雇用の技術者育成に期待される望ましい効果と課題、日本の製造業企業に適用した場合に想定される障害を述べた。職務の明文化や技術者の対応業務幅の狭さなど課題があるものの、即戦力の技術者を育成するという意味で一理あり、よってこれを目指すのも企業の技術者育成戦略の一つといえる。 

 一方で欧米流のジョブ型雇用をそのまま受け入れるだけでなく、同様の技術者育成効果を異なるやり方で得られないかを考えることも必要だろう。ここからは本題である若手技術者育成を念頭に、欧米流と異なるやり方で技術チームを強化するアプローチについて考えたい。

日本の製造業企業に属する若手技術者の強化のポイント 

 企業として求めるのは、技術者という個人の育成を通して、技術チームを強くすることだ。技術チームを強くするための基本は“若手技術者の強化”にある。プレッシャーがかかってつらい中であっても、若手技術者がやりがいを持って技術業務を推進する状態になることによる底上げが、技術チームという組織の活性化には最も効果的である。 

 では日本の製造業企業に属する若手技術者を、欧米流のジョブ型雇用適用以外で、しかし同等の技術者育成効果を得るにはどうすればいいか。ポイントとなるのは、従来日本の製造業企業があまり重視してこなかった3 つの実務力を高めることにある。概要を表1に示す。 

 次にそれぞれの内容について述べる。
表1  従来重視されてこなかった若手技術者に求められる3 大実務力

表1  従来重視されてこなかった若手技術者に求められる3 大実務力

技術文章作成力の底上げは技術的な事実を追い求めるための必須インフラ 

 技術文章作成力は技術者の普遍的スキルの一つであり、技術者育成の土台となる部分だ3)。行った実験や試験の手順、その結果の記載はもちろん、その中から要点を抽出して1 ページにまとめる力は、技術業務を適切に推進し、それをまとめて記録を“技術報告書”として残すことは、若手技術者自身が自らの行ったことを整理することにほかならない4)。ここまでできれば、若手技術者の多くがこだわる考察だ。得られた事実からさまざまな角度、例えば異なる技術専門性の観点も取り入れながら結果に別の解釈を加えるなど、技術報告書が技術的な事実を突き詰めるインフラとなる。このインフラ強化の取組みは、ジョブ型雇用の技術者に求められる“自己研鑽”の代表的なものといえる。加えて理解すべきは、技術報告書の形で日々の技術業務をまとめられる程度に頭の中を整理できていれば、日々の技術業務によって得られる経験を“知恵”として獲得する効率が大きく高まることだろう。技術文章作成力の成長効率は年齢と強い負の相関があることから、若手技術者のうちに鍛錬しておきたい。 

 技術文章作成力は、個人差はあるものの短時間に成長するものではない。日本の製造業企業のように、終身雇用を基本として長い時間をかけて育てるという文化が活かされる場面といえよう。

裁量権を得た状態での技術業務の試行錯誤力鍛錬は若手技術者に自らの現状を理解させる 

 ジョブ型雇用の技術者が有する強みの一つは、技術業務の実行力だ。技術理論を押さえながらも、周りの技術者や他社と協力しながら技術業務を推進し、職務を完遂する力は若手技術者のうちに鍛えておきたい。ここで必要なのは“周りとの協力”を含む技術業務の実践経験だ。若手技術者に実践経験させる技術業務の企画は、リーダーや管理職が行う。 

 技術業務を企画する際のポイントを述べる。業務完了の目安となる到達点と納期を含む時間軸を明確化できていることが前提だ。技術業務は年単位でかかるような壮大な技術テーマではなく、おおむね1 週間から長くとも数週間で終わる程度の業務量であることが望ましい。若手技術者が技術業務を推進するにあたり、リーダーや管理職からは最低限のことは教え、相談があった場合は助言を与えてほしいが、必要以上に指示を出す必要はない。予算を与え、若手技術者の裁量で完遂させることを目指す。一人でできる技術業務範囲と量に限界があること、理解したはずの目標到達点を見失ってしまうことがあること、そして想定外のことが実業務では多く起こることを、若手技術者自身の実体験として感じさせることが肝要だ。このような体感の積み重ねは、若手技術者の技術業務最前線での実務思考力と実践力を高め、ほかの技術者との協力の重要性に気づかせることになる。 

 このような経験を通じた成長も前出の技術文章作成力同様、個人差が非常に大きい。短期間ではなく、ある程度長い時間をかけて若手技術者に繰り返し技術業務を経験させることが必要だ。終身雇用の考え方は、ここでも理にかなっているといえよう。

自分の技術の対外発信力は技術業務推進に不可欠な協力獲得と関係がある 

 若手技術者が、自らの技術を第三者に知ってもらうために情報発信をする。このような取組みでジョブ型雇用の技術者と似たような技術者育成効果が出るか疑問に思う読者もいるかもしれない。従来、技術者は社内の技術を“機密”という名のもとに“隠す”ことに注力してきた。これは日本の製造業企業に属する技術者に限った話ではなく、海外でも大なり小なり同じであろう。ここであえて挑戦してほしいのが“情報発信”である。 

 すでに何度か触れた通り、技術業務を完遂させるには若手技術者一人の力では難しいことがほとんどであり、周りからの協力が必須である。その一方で、若手技術者の多くは大学や大学院を中心とした研究室生活の中で、自分一人で研究テーマを進めるという訓練を受けた経験を持っている。これは重要なことである一方、周りの人間に協力を求めるスキルが不足することが多い。このスキル不足を補うのが、情報発信の経験だ。 

 発信する内容は“若手技術者の有する技術的な強み”が良い。灯台下暗しではないが、自分について最も情報を持っている一方で、それを言語化するのは難しいことに若手技術者のうちに気がつかせることが狙いにある。リーダーや管理職の方は、一度若手技術者に模擬的な情報発信として、自分の技術的な強みと考える点について口頭で説明させてみてほしい。事前準備がなければ、多くの技術者が就職活動中に準備した面接向けの原稿の焼き直しか、そもそも何も話せないだろう。 

 この自分自身をわかりやすく周りに伝える力は、ジョブ型雇用の技術者がそうであるように、周りと協力して技術業務を推進する際に必要となる。なぜならば、今の自分に何が必要で、そのために何をしてほしいのかを相手に伝えないと、必要な協力は得られないからだ。技術業務推進のスケールを大きくするには、自らが最善を尽くすことはもちろん、同時に独力にこだわりすぎず、必要に応じた協力依頼ができることが肝要である。若手技術者のうちに、自らを相手にわかりやすく伝える練習として、自身の技術的強みを社内だけでなく、例えば社員紹介というイメージで対外的に発信することにも取り組ませてほしい。 

 筆者が協業した海外の技術者はそれほど多くないが、日本の製造業企業の若手技術者は全体的に控えめであり、協力よりも自己完結にこだわる印象を持っている。これは若手技術者が、あまり経験のない情報発信の経験を通じ、自らのことを周りに伝える難しさと重要性を早い段階で理解できるという期待をいだかせる。若手技術者は行ったことがない経験だからこそ、自然に受け入れられると考えられるためだ。自らに関する情報発信を継続することで、周りに理解してもらうスキルが上がり、結果として協力の獲得という選択肢で技術業務推進スケールを大きくさせることができるようになる。控えめである、自己完結にこだわりやすいという日本の若手技術者に見られやすい特性ゆえの、強みといえるのではないだろうか。

若手技術者の育成を技術チーム強化につなげるために 

 以上のことを踏まえ、若手技術者の育成を技術チーム強化にどうつなげていくかを述べてみたい。 

 最初に行うべきことが“若手技術者向けの技術テーマ設定”だ。すでに述べた通りあまり長期間にわたって推進するものではなく、短期間で完了するものが望ましい。実際に技術テーマを与えて技術業務を始める前に、業務設定の背景、目的、目標到達点、そして納期をきちんと説明することがリーダーと管理職に求められる。また、業務のやり直しを防ぐため、リーダーや管理職は若手技術者が理解できているかどうか、目の前で書かせるなどの確認を徹底する5)。 

 次は技術テーマを推進するための予算の準備である。通常、技術チームとして予算を持っていると想定されるが、あえて若手技術者に予算獲得のための提案を資料作成含めて行わせてほしい。リーダーや管理職は資料準備方法や段取りの指導は行うが、一連の業務を経験させることで、予算獲得には手続きが必要であることを若手技術者に理解させることが目的だ。 

 予算獲得後は若手技術者に技術業務を推進させる。リーダーや管理職は若手技術者が相談に来ない限り、見守るようにする。ただし、安全に関する懸念がある場合はこの限りではない。そして月に1、2回程度、口頭で技術チーム内でのミーティングで進捗を発表させる。もし業務推進の過程で技術報告書が発行されているのであれば、それを出席者と事前共有する。そこで必要に応じて技術チーム内で技術議論を行い、技術的知見を深めるよう促すことを、リーダーや管理職は行ってほしい。このような技術チーム内の議論を通じ、若手技術者は技術チーム内で協力を得ることの重要性を理解すると同時に、自らの知見を深める技術議論には技術報告書のようなまとめに加え、自らの状況をわかりやすく伝えることが必要だと気がつくはずだ。 

 このような若手技術者育成を技術チームとして徹底できれば、若手技術者は着実に力をつけていくだろう。これを数年続けることができれば、ジョブ型雇用でなくとも、若手技術者が戦力となり、それに危機感を覚える中堅・ベテラン技術者たちも自らの成長の必要性に気がつくに違いない。結果、技術チームそのものの力が上がっていくのだ。

まとめ 

 ジョブ型雇用の技術者は、いくつかの課題はあるものの企業組織の求める高いスキルを有している可能性がある。技術者育成の観点では、このような技術者を育てること自体は妥当である一方、欧米流の考え方は必ずしも日本の製造業企業には合致せず、より適した手法を検討する必要がある。 

 組織力を強みとする日本の製造業企業が技術力を高めたい場合、技術チームの強化が前述のジョブ型雇用の技術者の増加と同様の効果が認められると考えられる。そして当該チームの強化に最も影響を与えるのが若手技術者の成長にほかならない。若い力の成長による組織の新陳代謝の流れは、いつの時代も成長企業の証といえる。 

 実務経験の浅い若手技術者を、ジョブ型雇用を意識して育てるには、技術者の普遍的スキルである技術文章作成力に加え、自らが裁量権を持って技術テーマを進める実行力、そして自身の考えをわかりやすく外に伝える情報発信力の3 つの力を鍛えることが肝要だ。これを技術チームの強みに落とし込むため、若手技術者に技術報告書というインフラを用意し、技術チームのミーティングで進捗管理と技術的議論を深めることを促してほしい。これらの経験を通じ、情報の発信とチーム内のほかの技術者からの協力が必要になることを若手技術者に実感させる。これを繰り返すことで若手技術者が技術チーム内で伸び、結果、チームの底上げとそれに引張られる形で中堅・ベテラン技術者のさらなる成長につなげることができる。
参考文献
1 )吉田州一郎:第6 回 若手技術者の“知っている”ことが実務で使えない、機械設計、Vol. 68、No.2(2024)
2 )吉田州一郎:第11 回 技術的な飛躍に不可欠な異業種技術への好奇心、機械設計、Vol. 67、No.2(2023)
3 )吉田州一郎:第1 回 技術者の普遍的スキルとは何か、機械設計、Vol. 66、No.5(2022)
4 )吉田州一郎:第5 回 普遍的スキルの鍛錬に最適な技術報告書とは何か、機械設計、Vol. 66、No.9(2022)
5 )吉田州一郎:第4 回 若手技術者が指示事項を理解したのかわからない、機械設計、Vol. 67、No.13(2023)
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