型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」
2025.02.17
第6回 日本語のできる外国人に伝わらない日本語
ロジカル・エンジニアリング 小田 淳
おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
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職場にいる日本語上手の外国人や、アジア圏などに出張に行ったときの日本語上手な通訳に対して、われわれ日本人は日本人同士で会話するような言葉や言い回しで話していないだろうか。筆者の経験では、このような話し方で外国人に理解してもらえる内容は良くて8 割であり、2 割は伝わらないまま会話や打合せが進んでいく。しばらく後に、「確かに言ったはずなのに」となってしまうのはこのためである。
外国人に伝わらない口語調の日本語
図1 を見てほしい。日本語上手な外国人に、このような言葉を使って会話している日本人は多い。
日本語上手な外国人といっても、プロの通訳ではない。あくまで日本語のできる外国人であり、英語のできる日本人と同じようなものである。筆者の中国駐在の経験で知る限り、いわゆる「日本語上手な外国人」は、大学の日本語学科で4 年間日本語を勉強し、卒業後に仕事で約5 年間、日本語を使っているレベルである。このレベルでは日本人同士で話す口語調の言葉を理解することは難しい。
アジア圏の外国人は顔が日本人と似ているので、日本人同士で会話をしている感覚になりやすく、仕事で仲良くなるとつい口語調になってしまう。しかし、日本人がそのようにして話した内容の2 割は理解されていないことを知っておく必要がある。
図1 で示した言葉では、「しょっちゅう」、「なる早」、「やっかい」、「マスト」が伝わらない日本語となる。その理由は後述する。
外国人が日本人の言う言葉を十分に理解していないと、理解できた部分だけで返事をすることになる。よって、ほとんどの返事は「はい、わかりました」になる。図2 は、「左から順に」を理解できない、もしくは聞き取れなかった例である。そうなると単に「ビスは留めていますか?」の質問と理解される。結果「はい、そうです」の返事になるのだ。そして、後から日本人同士で「『左から留めている』と確かに言ってたよね」となるのである。
50 歳以上の社会人は、過去に欧米人と英語を使って仕事をした経験のある人が多い。英語が下手ながらも、できる限りの英語力で仕事をした。欧米人の英語の問いかけに対して、日本人がたいてい「Oh yes,OK, OK」と返事をしたのはこのためである。そして後になり、英語をすべて理解してないで返事をしていたため、「こんなはずじゃない」となったのである。
この場合は、われわれ日本人はできる限りの英語力を発揮して仕事をしていたので、なすすべはなかった。しかし、日本語上手な外国人と仕事をするときはこの逆になる。私たち日本人の話し方次第で、伝わらない言葉の2 割を減らすことはできる。図2 の場合は、「ビスを留める順番を教えてください」が適切な質問だ。
日本語上手の外国人が理解しにくい言葉
1. 難易度が高い
「値(あたい)」、「互い違い」、「(液体が)なじむ」、「反り」など、普段の会話ではあまり使わない言葉である。特に中国人にとっては反りが理解しにくい。これは中国語で「反」の字は形状の「反り」を表す漢字として使わないからで、中国の特別な例である。図3 は、筆者が中国人に「反り」を理解してもらえなくて困った電話での会話である。結局、筆者の会社に来てもらい、部品を前にして会話をした。
2. 口 語
「すり合わせ」、「ひと通り」、「ちゃんと」、「ことなきを得る」など、メールなどの文章として書かない言葉である。基本的に外国人は教科書で勉強をし、その中に口語は少ない。私たち日本人は「文章に書くように話す」と意識すれば、口語はなくすことができる。
3. 日本語化された、あるいはされつつある英語
「マスト」、「コンセンサス」、「ウォッチ(する)」などは英語であるため、日本語を勉強する外国人には馴染みが薄い。最近は日本人同士でも理解できない英語を使う人がいるが、このような言葉は決して使わないよう注意したい。
4. 略 語
「なる早」、「3 %減」、「日本着」、「朝イチ」などの略語も、外国人は教科書で勉強をすることはない。しかし、流行りの略語は日本のドラマやアニメで使用されることが多い。ドラマやアニメで日本語を勉強する外国人は多く、意外に知っていることもある。
「二の次」、「ハードルが高い」、「苦肉の策」、「足が出る」などの言葉を習慣として使う日本人は多い。筆者の前職で慣用句を日常的に使う課長がいたが、中国人からクレームが来たことがある。使わないようにしたい。
5. 慣用句・慣用表現
「二の次」、「ハードルが高い」、「苦肉の策」、「足が出る」などの言葉を習慣として使う日本人は多い。筆者の前職で慣用句を日常的に使う課長がいたが、中国人からクレームが来たことがある。使わないようにしたい。
6. 曖昧語や副詞
「検討の余地がある」、「わからないでもない」、「やるに越したことはない」など、外国人にとって意味は理解できてもどのように対応してよいかわからない「あうんの呼吸」に頼った言葉である。「あうんの呼吸」の伝わらない外国人に対しては、これらのような曖昧語や副詞は使用しない方がよい。副詞とは「ゆっくり」、「しばらく」、「かなり」などである。これらも曖昧な言葉であり、いかようにも解釈ができてしまいトラブルの元になる。
7. カタカナ
言葉ではなく文字であるが、手書きの図面は設計者によって文字が読みにくいときがある。また、CAD図面であっても図面を縮小コピーしたことで小さくなった文字は見にくい。よって、「裏」、「傷」、「黒」などの線の多い漢字はカタカナにすることが多い。
しかし、外国人はカタカナが苦手だ。その理由は、カタカナは主に「テーブル」などの外来語で使用されるため、日本語を勉強する外国人には縁が薄い文字だからである。「ナット」など、カタカナ以外に文字がなければ仕方がないが、漢字や英語で表記できる文字は、カタカナを使用しない方がよい。