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型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」

2025.05.02

第10回 中国人の「問題ない」の本当の意味を理解する

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ロジカル・エンジニアリング 小田 淳

おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
U R L:https://roji.global
E-mail:atsushi.oda@roji.global
 中国人と仕事で会話をしていると、「没問題」の言葉をよく耳にする。「没」は「ない」という意味のため、「問題ない」という意味になる。しかし中国人の「問題ない」は、日本人のそれとやや意味が異なる。

 日本人が言う「問題ない」には「東京に行くにはこの電車で『問題ない』」のように「確実に問題ない」という意味や、待ち合わせに遅れたときに「10 分くらいなら『問題ない』」のように「まあ大丈夫」のような意味があり、そこには開きがある。日本人が仕事で「問題ない」と言うと、比較的前者の場合が多い。

 しかし、中国人と仕事をしていると後者に近い意味で使われる場合が多いのに気づく(図1)。前者の意味と理解した日本人は「確かに『問題ない』って言ったでしょう」となってしまい、不満をこぼす。あげくの果てには「中国人っていい加減」となってしまうことさえある。しかし、本当にいい加減なのであろうか。日本人がとれる対応はないのか?
図1 国民性によって異なる「問題ない」の意味

図1 国民性によって異なる「問題ない」の意味

 中国人の「問題ない」を意訳すると、「『今』は問題ないと『私』は思う」と理解するのが最も適切だ。今回は、この前半の「『今』は問題ない」の部分に関して解説し、次回以降に後半の「『私』は思う」について解説する。

そのときどきで判断が異なる

 筆者は中国駐在中に、ダイカストメーカーでプロジェクターのレンズが取り付く鏡筒(図2)の量産部品を作製していた。量産開始の約1 カ月前に金型が完成し、その部品の最終確認をしようとしていた時期に、日本の設計者から緊急の設計変更の連絡があった。この時期の設計変更は、量産日程の遅れにつながりかねない。筆者はその変更内容を携えてダイカストメーカーを訪問し、変更内容を伝えると同時に、日程の相談をすることになった。
図2 鏡筒

図2 鏡筒

 鏡筒の製造工程は、ダイカスト→切削→アルマイトである。筆者は製造リーダーに、設計変更の内容を伝えた後、日程の相談をした。その相談とは、1 カ月後に控える量産日程を変更せずに設計変更を盛り込みたいというものだった。あと1 カ月しかない日程で、この設計変更を盛り込むのは難しいと筆者は思っていたが、製造リーダーの返事はやはり「1 週間遅らせる必要がある」であった。3 つの工程の各部門でそれぞれに緊急対応が必要であり、それはできないという返事だったのだ。無理もなかった。

 夜になり製造リーダーはすでに帰宅し、筆者は1 人会議室にこもって日本にいる設計者に電話で相談しながら打開策を考えていた。そのとき、会議室にこのメーカーの社長が突然現れたのだ。筆者は困っている内容を社長に伝えたところ、その社長はすぐさま携帯電話を手にとり、すでに帰宅した製造リーダーに電話をかけ始めた。社長は10 分ほど話し込み、電話を切ると筆者に向かって「問題ない、量産日程に変更はない!」と言ったのだ。「さすが、社長の力はすごい!」と筆者は喜びながら握手を交わし、メーカーを後にしたのだった。

 2 週間後、筆者は最終確認のためダイカストメーカーを訪問し、製造リーダーに量産日程の話をした。もちろん日程に遅れはないつもりで話をしたのだが、製造リーダーは「1 週間遅れる」と言い出したのだ。筆者は社長との電話の話を持ち出して、「あなたは、『日程は変更しなくて問題ない』と返事をしたでしょう」と問い詰めたが、「あのときは『問題ない』と判断したので、社長に『問題ない』と言った。でも、今の状況では無理。1 週間遅らすしかない」と製造リーダーは言うのだった。

 量産開始まであと1 週間しかない。筆者は製造リーダーとの話し合いもこれ以上は無理と判断し、量産開始を1 週間遅らすことに同意した。

根拠・理由を聞くことが大切

 量産1 カ月前の設計変更には多少無理はあったが、製造リーダーは社長との電話で「問題ない」と言ったのだ。筆者は、製造リーダーがそのときどきで判断を変えたことに、日本人との違いを感じたが、同時に次のようにも思った。中国人は判断を変えることが多いが、判断を変えるというよりは、そのときどきの状況に合わせて最も適切な判断をしているのではないか。長く中国人と付き合うにつれ、このような中国人をだんだんと理解できるようになってきた。日本人が、中国人の国民性を変えることはできない。日本人がこれに合わせて対応するしかないのだ。

 さらに後から、筆者は大切なことを忘れていたことに気づいた。それは、社長が「問題ない」と言ったときに、その根拠を聞かなかったことである(図3)。社長は10 分も製造リーダーと話をしていたので、日程を遅らさなくても済む根拠は知っていたはずだ。筆者は「社長が言ったのなら大丈夫。その根拠は聞くまでもない」と、社長と製造リーダーに仕事を一任していたのであった。
図3 社長の「問題ない」に対して、その根拠を聞く

図3 社長の「問題ない」に対して、その根拠を聞く

仕事で「一任」体質の日本人

 日本人は「一任」して仕事を進める国民性がある。日本人同士の仕事の会話で「御社に一任します」はよくある。そのように言う理由は2 つある。1 つは、会社のスキルやもっている設備などによって事情があるから、そこまでは指示しないというものだ。相手を気遣う日本人の国民性である。もう1 つは、そこまで指示できるほどのスキルや知識が自分にはないので、一任せざるを得ないというものだ。そして、これら2 つには、「一任しても、私の期待や想像を外れることはない」という前提があるのだった。しかしそれには、同じ日本人なので考えることに大きな違いはなく、またお互いに長く深い付き合いなので、たいていのことはお互いに理解し合っていることが必要なのだ。

根拠・理由を聞いて、納得してから仕事を依頼する

 中国人に限らず、日本人と外国人は違う環境で育ってきたので、考え方に違いがあるのは当たり前だ。さらに比較的浅い付き合いでお互いに深くは理解しあっていない場合が多い。よって、安易に相手に一任するような仕事の仕方は避け、根拠と理由を聞いて納得したうえで、仕事を依頼するようにしたい。

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