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型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」

2025.05.23

第11回 続・中国人の「問題ない」の本当の意味を理解する

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ロジカル・エンジニアリング 小田 淳

おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。

U R L:https://roji.global
E-mail:atsushi.oda@roji.global
 先回の第10 回で、中国人が会話でよく使う「没問題(問題ない)」の意味が日本語とはやや異なり、意訳すると「『今』は問題ないと『私』は思う」であることをお伝えした。この前半にある「『今』は問題ない」は先回解説したので、今回は後半の「『私』は思う」について解説する。

自己判断で勝手に形状変更された金型部品

 筆者は中国駐在中に、プロジェクターの生産工場内にある事務所で仕事をしていた。ある日、製造現場から「プロジェクターの上カバーが取り付けられない」と連絡があった。生産が開始されて間もない新製品だ。急いで製造ラインに行くと、プロジェクターの内蔵部品に上カバーの内側が当たってしまい、どうにも取り付けられないのだった。製造ラインを停止して問題の仕掛品を確認したところ、プロジェクターのランプを冷却する2 つの樹脂部品で構成された送風ダクトが適切に嵌合できておらず、内蔵部品が大きく組み上がっていたのだ。

 適切に嵌合できない部品が生産中に出てきたということは、嵌合部分の寸法が何らかの理由で変わったことになる。2 つの部品の一方はほかの製品の流用部品であり、長年生産を続けているため、今になって寸法が変わるとは考えにくかった。よって、この新製品のために新しく設計したもう一方に問題があると考え、嵌合部の寸法を測定した。すると、生産前に承認した部品と比較して嵌合部の寸法が0.2 mm 厚くなっていたのだ(図1)。
図1 嵌合できない送風ダクト

図1 嵌合できない送風ダクト

 原因調査のため、嵌合部の寸法が0.2 mm 大きくなった樹脂部品を携え、この部品を生産する成形メーカーを訪問した。この成形メーカーは自社で金型も製作している。営業兼日本語通訳と品質担当者、成形担当者、金型担当者に集まってもらい、筆者から部品の問題点を説明した。「なぜ0.2 mm 大きくなったのか、誰が変更したのか」と問い正したところ、意外にも簡単に原因がわかった。成形担当者が「嵌合部の厚みが0.5 mm だったので、長期的に問題が起こらないように0.7 mm に金型変更を依頼した」と言ったのだ。

 樹脂部品に0.5 mm の肉厚部分があると、その部分には樹脂が流れにくくなりショートショットという不良になりやすい。よって、一般的には0.7 mm 以上の肉厚で部品を設計する。送風ダクトの設計時に配慮すべきであり、また金型打合せ時に成形担当者が指摘すべきであったが、肉厚0.5 mm のまま生産されてしまったのだ。

 成形担当者は、自分が金型担当者に金型変更を依頼したことが今回の問題につながった原因であることを理解していながらも、申し訳なさそうな表情はしていない。まるで、「長期的な生産で問題が起こらないように自分の判断で迅速に金型変更したことが、どうして問題なのだろうか」という様子にも受けとれた。

「問題ないと私は思った」という成形担当者

 今回の問題は、設計時あるいは金型打合せ時に、肉厚0.5 mm の部分があることに気づかなかったのが根本原因であったが、ここでは生産途中に金型が勝手に変更されてしまったことに注目したい。

 生産途中に部品の形状が変わることは基本的にあってはならない。もし製品に不具合があって部品の形状変更が必要であれば、設計者が十分な検証を行った後、設計者が部品の形状変更を成形メーカーへ指示するのが通常である。今回は金型で作製した成形部品のため、設計者が金型変更依頼書を成形メーカーに提出する。一方、成形メーカーが部品の不具合を見つけた場合は、成形メーカーが設計者にその不具合を連絡し、設計者が上述と同じ流れに沿って変更を指示する。今回、このルールはあったのだが、成形担当者が「0.2 mm くらいなら問題ないと私は思う」という自己判断で、部品形状を変更してしまったのだ。

自己判断で迅速に仕事を進める中国人

 中国人は良い意味で自立し、自分の判断で仕事を進める。日本人のように「(自分は判断できないので)社に持ち帰って、後日回答します」といった対応はなく、その場を任された担当者が持ちうる限りの知識で判断を下す。そして、もし後から間違いが見つかれば、そのときに修正すればよいと考える。判断が遅い日本人と比較して迅速に仕事は進むが、たまに「ちゃんと調べましたか?」、「実担当者に聞いてみませんか?」と聞いてみたいときもある(図2)。今回の場合は、この部品形状に関する責任者は設計者であったにもかかわらず、その形状変更の是非の判断にまで、成形担当者が踏み込んでしまったのだ。
図2 自己判断で迅速に仕事を進める中国人(イラスト:奥崎たびと)

図2 自己判断で迅速に仕事を進める中国人(イラスト:奥崎たびと)

自己判断によるトラブルを防ぐためにルールをつくる

 このように中国人の自己判断によって、日本人が想定しない事態に進展しトラブルになることはよくある。それを未然に防ぐためには「ルールをつくる」ことが大切だ。中国人と協業する期間中に3 回以上は発生するような業務は、ルールとそれに付随するフォーマットを作成するとよい。

 例を挙げると、中国の部品メーカーから部品サンプルを発送してもらうときには発送依頼書を作成し、メールに添付する。その内容は、部品名称・個数・希望納期・発送者・納入先担当者などである。ほかにも日程変更依頼書などがある。

 金型が変更されてしまった今回の問題では、金型変更連絡書はあったにもかかわらず、それを上回った自己判断をされてしまったが、これは特別な事例である。まずはルールとフォーマットをつくり、それに則って依頼し対応をしてもらうのだ。電話や口頭のみの依頼やメールの本文のみの依頼は避けるようにしたい。日本人のあいまいな依頼内容や表現も、このフォーマットをつくることによって正すことができる。

 「中国人の自己判断」と「日本人のあいまいさ」の相乗効果による中国人とのトラブルは起きやすい。日本人のあいまいな表現を、中国人は得意な自己判断で理解してしまう。ルールづくりとフォーマットづくりは、その解決法の一つである。

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