適切に嵌合できない部品が生産中に出てきたということは、嵌合部分の寸法が何らかの理由で変わったことになる。2 つの部品の一方はほかの製品の流用部品であり、長年生産を続けているため、今になって寸法が変わるとは考えにくかった。よって、この新製品のために新しく設計したもう一方に問題があると考え、嵌合部の寸法を測定した。すると、生産前に承認した部品と比較して嵌合部の寸法が0.2 mm 厚くなっていたのだ(図1)。
図1 嵌合できない送風ダクト
原因調査のため、嵌合部の寸法が0.2 mm 大きくなった樹脂部品を携え、この部品を生産する成形メーカーを訪問した。この成形メーカーは自社で金型も製作している。営業兼日本語通訳と品質担当者、成形担当者、金型担当者に集まってもらい、筆者から部品の問題点を説明した。「なぜ0.2 mm 大きくなったのか、誰が変更したのか」と問い正したところ、意外にも簡単に原因がわかった。成形担当者が「嵌合部の厚みが0.5 mm だったので、長期的に問題が起こらないように0.7 mm に金型変更を依頼した」と言ったのだ。
樹脂部品に0.5 mm の肉厚部分があると、その部分には樹脂が流れにくくなりショートショットという不良になりやすい。よって、一般的には0.7 mm 以上の肉厚で部品を設計する。送風ダクトの設計時に配慮すべきであり、また金型打合せ時に成形担当者が指摘すべきであったが、肉厚0.5 mm のまま生産されてしまったのだ。
今回の問題は、設計時あるいは金型打合せ時に、肉厚0.5 mm の部分があることに気づかなかったのが根本原因であったが、ここでは生産途中に金型が勝手に変更されてしまったことに注目したい。
生産途中に部品の形状が変わることは基本的にあってはならない。もし製品に不具合があって部品の形状変更が必要であれば、設計者が十分な検証を行った後、設計者が部品の形状変更を成形メーカーへ指示するのが通常である。今回は金型で作製した成形部品のため、設計者が金型変更依頼書を成形メーカーに提出する。一方、成形メーカーが部品の不具合を見つけた場合は、成形メーカーが設計者にその不具合を連絡し、設計者が上述と同じ流れに沿って変更を指示する。今回、このルールはあったのだが、成形担当者が「0.2 mm くらいなら問題ないと私は思う」という自己判断で、部品形状を変更してしまったのだ。