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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.06.24

CBN・ダイヤ工具のパイオニアとして難削材加工の需要にハイレベルで応える―住友電工ハードメタル

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住友電工ハードメタル㈱ 常務取締役
久木野 暁氏

Interviewer
上智大学 理工学部 教授
田中秀岳氏

 2003 年に住友電気工業の粉合・ダイヤ事業部(当時)から分社独立して誕生した住友電工ハードメタル(兵庫県伊丹市)。これまで日本の超硬工具やcBN 焼結体(CBN)・ダイヤモンド焼結体(PCD)工具のパイオニアとして切削加工の常識を変え続けてきた。これらの工具開発に携わってきた久木野暁常務取締役に、同社の製品開発の背景や今後の事業展開について聞いた。

田中

まずは久木野様の経歴と、ダイヤモンドやCBN(cBN 焼結体)に携わる契機について教えてください。

久木野

私は大学時代からダイヤモンドの研究に携わり、学部ではキュービックプレスという六方押しの超高圧装置を使って超微粒のダイヤモンドを焼き固めて、従来のダイヤモンド焼結体にはない高強度・高耐摩耗性のものをつくるといった研究を行っていました。
当時は6 GPa ほどで加圧していたのですが、大学院の研究ではもっと高い圧力を出したいと考え、火薬を使った衝撃圧縮法で数十GPa を発生させ、ダイヤモンドを合成するという方向に向かいました。ただ、いくら硬いものができても工業的な実用性がないとおもしろくない。それで機械加工に使えるようなものをつくりたいと思うようになりました。当時は超高圧を手がけている企業は国内に数社しかなく、その中の一つである住友電気工業(以下、住友電工)へ入社しました。

当時は企業と共同研究も行っていたのですか。

そうですね。大学単独の研究テーマ以外に企業との共同研究もいくつか行いました。住友電工へ入社後は希望通りに超高圧に携わる部門に配属され、住友電工におけるハードメタル事業の開発・製造を担う住友電工ハードメタルにおいて一貫して硬質材料の研究に携わってきました。

ありがとうございます。次に住友電工の沿革と御社との関連について教えてください。

住友グループの事業の起源は約400 年前にさかのぼりまして、銅に不純物として含まれる銀を除いて製錬する「南蛮吹き」という技術を開発したのが始まりです。その中で、住友電工は、銅から板棒線類を製造・販売する会社として始まりました。当時、銅線を引くためのダイスにはハイス鋼が使われていましたが、高能率・高精度で銅線を加工したいニーズがありました。1923 年にドイツで超硬合金が発明されて、住友電工では1928 年に自社での線引き用に超硬合金製のダイスの製造を開始しています。

住友電工の超硬合金は「イゲタロイ」の名前で有名ですよね。ダイスから切削工具へ事業が変わっていったのはいつ頃からですか。

イゲタロイとしての外販開始は1931 年です。ダイス以外にもろう付けタイプの工具開発はすぐに始めていました。当初は一体ものの工具でしたが、1959年には刃先交換式インサートを開発しています。

世界初のcBN複合焼結体材料を開発

住友電工ハードメタルは、もともとは住友電工の一事業部だったそうですね。

住友電工の粉合・ダイヤ事業部(当時)が2003 年に分社独立して今の形になりました。製品開発・製造などを当社で、企画・営業などを住友電工のハードメタル事業部で行っています。粉末冶金技術により開発されたイゲタロイ製品は90 年以上の歴史があり、もう一つの中核をなすCBN・PCD(ダイヤモンド焼結体)工具や単結晶など主に超高圧技術により開発されたダイヤ製品も50 年以上の歴史を有しています。

そのCBN 工具とPCD 工具について開発の経緯をお教えください。

CBN 工具の開発に成功したのは1970 年代のことです。ダイヤモンドやcBN 超砥粒はもともと米国のゼネラルエレクトリック(GE)が発明し、砥石に使われ、その後同じくGE によって金属結合材を用いたcBN 焼結体が開発・販売されました。
ただ、そのCBN 工具は鋳鉄ならこすり摩耗が支配的なので優れた切削性能を発揮するのですが、焼入れ鋼などではせん断熱による反応摩耗などがあって使えなかった。そこで住友電工では1977 年に、cBN よりも鉄族元素との親和性が低い窒化チタン(TiN)系セラミックスを結合材とした、高硬度のcBN 粒子による世界初のcBN 複合焼結体を開発したのです。それによって焼入れ鋼の研削加工から切削加工へのリプレイスが可能となり、急速にCBN 工具市場が広がっていきました。
また、その発展形として焼入れ鋼用のcBN 焼結体の上にTiAlN などの窒化チタン系セラミック膜をPVD 被覆し、耐塑性変形性と耐反応性を機能分担・両立することで飛躍的に切削性能が上がることを見いだし、2000 年に製品化をしました。

コーテッドCBN 工具については、久木野様が開発に携わっていたのですね。

おっしゃる通りです。開発当時は「CBN 工具にcBN よりも硬度の低いセラミックスをコーティングする意味があるのか」といった懐疑的な意見も数多くありましたが、現在では、焼入れ鋼加工用CBN工具市場での主力製品となっています。

御社は最近「SumiForce」というツールを発表しました。この開発の経緯や狙いをお聞かせください。

これまで製造現場では、「KKD(勘・経験・度胸)」と言われる匠の世界のような部分がありました。労働人口の減少に伴って、そこを見える化したいという思いからセンシングツールを開発したのです。旋削加工向けと転削加工向けがあり、リアルタイムで加工中のデータを見ることができます。ゆくゆくは異常検知や予兆検知につなげていきたいと考えています。

工具と一体化したワイヤレスのセンシングツールは、われわれの研究でも非常に強力なツールになると思って注目しています。われわれもセンサを内蔵した工具をつくりますが故障が多く、そこを克服されたというのはすごい技術をお持ちだと感服しています。

まだ発売にはこぎつけていないのですが、旋削用のものはレンタルサービスを始めています。
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