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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.06.24

CBN・ダイヤ工具のパイオニアとして難削材加工の需要にハイレベルで応える―住友電工ハードメタル

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住友電工ハードメタル㈱ 常務取締役
久木野 暁氏

Interviewer
上智大学 理工学部 教授
田中秀岳氏

計算科学などを活用し開発を効率化

御社の製品や技術の強みを教えてください。

われわれはこれまで他社にないような複合材料やコーティングなどを使って、各種工具材料の高機能化や高性能化を行ってきました。最近では、より効率的に幅広く開発するために計算科学やマテリアルズ・インフォマティクスからのアプローチも行っています。
第一原理計算(量子力学などに基づき電子の状態を計算することで物質の性質を調べる方法)をベースに、なぜダイヤモンドが鉄と反応するのかといったことを原子レベルでシミュレーションできる技術があります。その技術を使うと、例えば、被覆材料やCBN 工具の結合材に使うチタン系セラミック材料にどんな元素を加えると鉄との反応性が低下するかといったところで、候補となる元素のフィルタリングがある程度行えます。これを試行錯誤で行うと非常に効率が悪いのですが、われわれの知見と計算科学を融合させて迅速な組成開発を進めていっています。

専門的な手法を駆使して開発の効率を高めているのですね。

一方で、cBN やダイヤモンド関連の超高圧技術を適用した製品の製造では最低でも5 GPa(50 t/cm2)以上の圧力が必要になりますが、焼入れ鋼の降伏応力が1 GPa 程度なので金型がもたない。超硬合金でも3 GPa しかもちません。そこで、例えばパンチを富士山のような山形にして応力分散させたり、ラテラルサポートと呼ばれる金型どうしの反力で圧力を保つ特殊技術を適用したりするなどして、材料強度以上の5 GPa 以上での焼結技術を実用化しています。
さらに当社では金型の工夫だけではなくて、プレスの構造自体を見直し、10~20 GPa の発生も可能となりました。1 段目の金型にサイコロのような金型を8 つ組み合わせ、応力分散とラテラルサポートがより強烈に働く工夫をしています。当社では、ベルト型の1 軸のプレスで7 GPa まで、さらに20 GPa まで発生可能なマルチアンビル型などさまざまな超高圧装置を適用し、幅広い圧力、温度条件下での材料開発、量産を行っています。マルチアンビル型超高圧発生装置の大型化により、バインダレスCBN やバインダレスPCD工具の製品化を達成しています。
各種バインダレスCBN 工具と加工事例

各種バインダレスCBN 工具と加工事例

技術的ブレイクスルーで製品化に成功

古くから超硬合金を開発していて、金型自体の形状からプレスまで総合的に開発できるのはまさに御社の強みですね。最近ではCBN 工具に加えてバインダレス工具を積極的に発表されている印象ですが、背景として超高圧技術の進化によるバインダレス焼結が実用的になってきたことがあるのですね。

バインダレスPCD 工具は超硬合金やセラミックスなど非鉄系難削材の微細加工に非常に向いています。この工具を使うと超硬合金の直彫りや磨きレス加工が可能になります。一方、バインダレスCBN 工具は、特に鉄やニッケルなどの鉄族系金属難削材のミーリング加工で優れた切削性能を示します。
このうち、バインダレスCBN 材種は独自の製法にこだわり、現在2 種類を用意しています。1 つはインコネルなどのニッケル基合金難削材のミーリング加工などに推奨している粒径が数百nm の「NCB100」というグレードです。高硬度で熱伝導率が高く、シャープな刃先稜線が維持されるので、引き合いが増えています。もう1 つは粒径数十nm の「IX002」というグレード。超々微粒とも言える粒径で刃先がよりシャープに仕上がります。
これらの材料は優れた特性を有することが古くから研究レベルで報告されていたのですが、実用化はされていませんでした。工業的に必要とされる大型焼結体の量産が困難だったことに加え、大型焼結体が量産できてもダイヤモンドに次ぐ硬さで、電気伝導性もなく、レーザー光に対して透明であることから工具形状に加工できないという難題が解決できていなかったことがその大きな理由です。
当社では、多光子吸収をベースとした独自の特殊なレーザー技術を適用することで、高品位な刃先を加工できるようになりました。本製品は、金型などの微細加工用途にも非常に優れた切削性能を長時間にわたって発揮することから、従来CBN工具比で大幅な工具交換頻度の低減、磨きレス化の達成に期待が高まっています。まさに現在、本製品のラインナップを拡充し標準化に向けて動いているところです。

良い材料ができて、それを製品化するためのブレイクスルーがあったというのは非常に興味深いです。

現在はボールエンドミルだけでなくラジアスエンドミルでも製品化を進めています。すでに販売中のものでは、ボールエンドミルではノーズR で0.5、径で1 mm のものが最小だったのですが、今はこれが径0.2 mm まで対応できるようになっていて、一部販売を開始しています。

微細加工向けのラインナップが増えていっているのですね。

そうですね。日本の金型製作では、単純なものは海外に外注して、より複雑な加工難度が高いものは国内で対応するという流れになっています。そうした国内ニーズがある中で、1 つの工具で長時間加工できて高精度微細加工に対応できるということは大きなポイントになってきます。そこに対応できる量産技術がようやく固まってきたので、これからいよいよ本格的に販売を開始したいと思っているところです。
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