【特別座談会】機械加工現場の自動化を見据えた「見える化」技術のこれから
切削・研削・接合の見える化技術を提供し機械加工メーカーの競争力向上に貢献する
新興国とのコスト競争や人手不足などの課題を抱える機械加工現場では、これまで以上に自動化が課題解決の有効な手段になっている。自動化を進めるには、加工中の状況を「見える化」し、技術者の経験や勘に頼らなくても不良を出さずに済む仕組みづくりが不可欠。メーカー各社からは、工具ホルダに取り付けたセンサにより刃先の摩耗をモニタリングするシステムや、といし表面の画像を基にといしの状態を数値管理するシステム、FSW(摩擦攪拌接合)での温度と力をモニタリングして品質向上に役立てるシステムなどさまざまな提案がなされている。そこで本座談会では、機械加工の見える化ツールを提供する3 社の開発責任者に話を聞く。使い勝手や導入コスト、得られたデータをどう役立てるかなど、課題への対策も含めて見える化技術のこれからを探る。
〈参加者〉
住友電工ハードメタル㈱ アプリケーション開発部 部長
阿部 誠氏
㈱ナガセインテグレックス 常務取締役 製造本部 副本部長 技術統括
板津武志氏
㈱山本金属製作所 技術開発部 部長
山本隆将氏
〈コーディネーター〉
東京農工大学 大学院 工学研究院 先端機械システム部門 教授
笹原弘之氏
(左から)阿部誠氏、板津武志氏、山本隆将氏、笹原弘之氏
笹原 加工現場の見える化は、トラブル回避に加え、能率や品質の向上にも役立つ技術です。今回は、この分野でそれぞれ先進的な取組みをされている皆さんに、取組みの内容やユーザーへの普及状況などをお聞きします。最初に、見える化の目的で提供している製品の開発経緯や概要をご紹介ください。
センサ内蔵ホルダで切削力を手軽に把握
阿部 われわれ住友電工ハードメタルは切削工具の開発、製造を行っています。切削工具は購入後にどう使うかが重要で、以前はお客様の生産技術部門にいる熟練の方々が、われわれが「KKD(勘・コツ・度胸)」と呼ぶ過去の経験・実績を基に切削条件や工具の選定をしていました。ただ最近は現場の世代交代が進み、生産技術のキーマンがいないケースがあります。当社も長年蓄積したデータベースを基にお客様にいろいろと提案してきましたが、今は工具メーカーからの提案が以前に増して重要になっている状況です。
それと並行して、「切削中に何が起こっているのかを見える化したい」という昔からのニーズがあります。たとえばドリルなら、穴あけの最中に加工ポイントで何が起こっているのかは、外からはまったく見えません。IoT やデジタル化が進む中で、加工の様子を見える化してお客様の改善に役立てる必要性を感じていました。そこで開発したのがひずみセンサを内蔵した切削工具です。旋削加工向けと転削加工向けがあり、リアルタイムで加工中のデータを見ることができます。
笹原 私も拝見したことがありますが、無線でデータを飛ばして切削力をモニタリングできるものですね。切削力を測る既存の装置に比べ、手軽さやコスト面でハードルが下がったと感じます。
阿部 切削工具のホルダにバッテリーと無線基板、センサを内蔵しました。お客様の設備にそのまま取り付けられ、無線の受信機を設備の窓に貼るだけでデータがとれます。取付けにかかる時間は10 分程度で、その意味ではだいぶハードルが下がりました。転削加工向けの方は電子機器の充電スタンドのように端子を差して充電ができ、使い勝手も優れています。
ひずみセンサを内蔵した切削工具(写真提供:住友電工ハードメタル)
といし状態を初心者でも判断可能に
板津 ナガセインテグレックスでは、といし表面の状態を機上で撮影・評価できる「GRIDE EYE(グライドアイ)」を提供しています。私が入社した40 年近く前、「といしの状況を把握したい」という社長の思いから開発がスタートしました。当時は東北大学の庄司克雄先生が加工後のといしを機械から外した状態で観察されていましたが、当社ではなんとか機上で観察しようと取り組みました。レーザ顕微鏡を使ったりもしたのですが、非常に時間がかかってしまうのが課題でした。
そうした中、佐世保高専の川下智幸先生が取り組まれていた、といし表面を観察する技術にヒントを得て、といし表面の同じポイントをリアルタイムに観察しようと開発したのがグライドアイです。ドレッシング直後から加工のたびに同じポイントを観察することで、次のドレッシングのタイミングを判定できると考えています。
笹原 われわれも研削の研究で、といしの表面が目こぼれしているのか、目詰まりしているのかを追いかけたいのですが、なかなかできません。
板津 初心者がといし表面を見ても、「切れる状態か」、「切れない状態か」すら、おそらくわからないでしょう。それをなんとか把握するために、画像とセットで「これは切れる状態」、「これは切れない状態」とAI に学習させることで、初心者でもといしの状態を判断できる商品を目指しています。ゆくゆくはさまざまな情報を紐づけて、といしの状態から「こんな面粗さに加工できる」、「加工を進めると焼けてしまう」などがわかるようになるとより便利だろうと考えています。
笹原 研削はそれこそKKD(勘・コツ・度胸)の要素がありますから、画像で定量的に観察でき、AI を使って判断できるのは素晴らしい。といし表面の状態判断はどんな仕組みで行うのですか。
板津 2 段階で行う予定です。第1 段階は光を使う方法で、真上と向かい側の2 方向から光を当て、と粒の状態を見ます。ドレッシング直後のと粒はごつごつしているので、直入射した光は散乱して反射しませんが、と粒が摩耗して表面が平らになると直入射した光が反射するようになります。その光の量で表面が摩耗したかどうかを判断します。第2 段階は、といし表面の同じ点を見て、前とどう変わったかを比較します。この段階で、ワークの加工結果とといしの状態をセットでAI に学習させ、初心者でも判断できるようにします。
といし表面の状態を機上で撮影・評価できる 「GRIDE EYE(グライドアイ)」(写真提供:ナガセインテグレックス)