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機械技術

2025.01.30

【特別座談会】機械加工現場の自動化を見据えた「見える化」技術のこれから

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切削・研削・接合の見える化技術を提供し機械加工メーカーの競争力向上に貢献する

データをどう見るか、が課題

笹原 ユーザーへの導入を進めていくうえでの課題やそれへの対応を聞かせてください。

阿部 山本さんのお話にありましたが、お客様はデータをどう見るか、どう解析するかに困っています。それに対して、われわれは解析機能のついた専用ソフトウェアを開発し、活用しています。お客様の現場でスピーディに改善策を提案しなければいけない場合もあるため、比較的簡単に解を導ける機能、時間をかけてしっかり解析する機能などを準備しています。
アイテム数も増やしているところです。「別の工具形状がほしい」、「もっと小型の工作機械に使えるサイズがほしい」など、お客様から要望が出てきています。センサやバッテリーのサイズに制限はありますが、なるべく幅広いお客様に使ってもらえるように開発を進めています。

笹原 ちょっと気になったのですが、センサ付きとセンサなしで剛性に違いはないのですか。

阿部 旋削加工向けは、お客様が量産で使っているセンサなし工具と99%同じ剛性です。転削加工向けはやや剛性が劣るので、現状の工具とのすり合わせが必要になります。

板津 課題はいくつかあります。まず今後、グライドアイが機上搭載型となったとき、どのタイミングで測定するか、という点です。今はドレッシングのタイミングや加工終了時など、クーラントがかかっていない状態でないと観察できません。将来的にはクーラントがかかっている状態でも観察できるようにしたいと考えています。
 ほかのセンシング機能と組み合わせた活用も今後の課題です。当社にセンシング機能付きのスピンドルがあり、これを使えば通常の加工を行いながら加工中の動力が測定できます。このスピンドルで加工状況を把握し、最終手段としてといし表面を観察して判断するといった使い方を検討しているところです。また、価格帯については、機上に取り付ける段階では抑えたいと考えています。

笹原 生産状況を常に把握するのか、改善のためにある1 点を調べるのか、どちらをターゲットにするかで価格帯は異なりそうです。

板津 そうですね。単体で使用する場合と機械に付けて自動で測定する場合とでは、機上の方が要素が増えるためハードウェアの価格が上がりますが、ソフトウェアは機能を絞り込むことで価格を抑えられるかと。ただし、今後の課題として、AI を使用したソフトウェアの場合、学習に大量の学習データが必要となります。このデータを、お客様と当社のどちらが用意するのか。また、システムとしてどこまでつくり込んだ状態でお客様に提供するのか。データをオープンにしたくないというお客様の要求があるので、データ収集はお客様に行っていただくなど対応しなければならない項目はいくつかあります。そのために、当社としてはできるだけお客様のもっているデータを有効に利用するためのソフトウェアを用意する方向で動いています。

山本 課題は取得したデータをどう見るのか、という点だと感じています。われわれはツールホルダからセンシングするのと同時に、工作機械からも主軸負荷や各軸のサーボの負荷、座標情報などのデータを取得しています。それらをうまく使えば、ツールホルダからのデータを時系列で解析する以外にも、「ワークのこの場所でびびり振動が起きている」、「穴あけのときだけ温度が高い」などの分析が可能です。
 当社はそのための分析ツールも用意していますが、使いこなせるお客様は非常に少ない。したがって、センシング事業を拡大するには、お客様をサポートするための担当者を育てていかなければいけないのですが、それには限界があります。データサイエンスとまでいかなくても、データと加工現象を紐づける知識・ノウハウをお客様のところで培ってもらいたい。そこで始めたのが、先ほど話した教育の取組みです。

笹原 データを取得して、分析し、改善に結びつけられる人材を育成しなければならない。AI やソフトウェアを活用できるとしても、そこを理解している人材は必要ですね。山本さんにはそういう問題意識がありますが、お客さんの側にも同じ意識があるのでしょうか。

山本 お客様は加工現象を見える化するのが課題なので、まずはそこに注力している印象ですね。今後、収集したデータの質を評価する段階になったら、次のステップに進むのではと思います。いくつかの企業はそこに行き着いています。

笹原 お話を伺っていると、加工現場の仕事や技術者の役割が変わってくるのではと感じます。

板津 当社で言えば、といしを使って加工する、そのこと自体は変わらないけれども、昔に比べて情報がものすごく増えています。たとえば、「この材料を加工するにはこのといしでこの加工条件が良い」というような情報は得られると思います。一方で、トラブルが起きたときにどう対応したらいいかということに関しては、一般的な情報がない分、その解答にたどり着くことが難しい。だから、各メーカーがいろいろとセンシングをして、問題が起きないように取り組んでいるのだと思います。
 その結果、職人が長年の経験で覚えていた温度や振動などによる機械の挙動の変化は、ある程度わかるようになりました。では、加工技術者は何をするのか。ある加工をするために、何が必要なのかを考える。特に新たな材料、新たな形状など未知の部品に対して、どう対応するかを考えるのがメインの業務になるのではと思います。

データと加工結果の紐づけが鍵に

笹原 最後に将来展望を聞かせてください。

阿部 お客様の最終的な要望は「量産ラインでの不良を減らしたい」という地点です。それに応えて、工具の突発的な欠けを検知して機械を止め、不良を防止するところまでは達成したい。量産ラインでは、不良をつくらないために安全を見て工具の定数交換をしていますから、工具の強度や摩耗状態を見ながらしきい値を設けて工具欠損を予測できるパッケージも提供できればと思います。
 また、これまで感覚的に行われてきた最適条件を導き出すためのトライ&エラーを減らすことにも注力します。最適条件を100 としたとき、実際の加工をする前に、70 くらいの条件を導き出せれば、最適条件の探索にかかる時間を短縮できる。難削材の加工には特に有効でしょう。新しい部品加工を立ち上げる際、センサ内蔵工具でデータをとりながら最適条件を導き出すという方法を、標準として提案していきたいです。

板津 研削盤で加工する部品の形状精度は数μm以下のレベルで、鏡面ともなれば数十nm の面粗さになります。こうしたレベルの高い加工ゆえに自動化が進まない。といし交換1 つとっても、繰返しの再現性を高めるにはいろいろな課題があります。その中で、なんとか自動化につなげようと取り組んできました。4 年ほど前から構想しているのがAI 研削盤です。①加工条件を生成するAI、②機械の状況を判断するAI、③トラブルに対する解決策を出すAI の3 つを融合して、1 つの機械加工システムをつくりたい。センシングはその1 つの要素です
 AI が得意とするのは、「どのデータが加工に関与しているのか」などを見つけることです。これは従来、加工を知る技術者でないとなかなかできないことです。そのため、AI を使うことで、データと加工結果の因果関係を明らかにして、蓄えたデータを有効活用する仕組みをつくっていければと思います。

山本 人を育ててやるのか、AI でやるのかという問題はありますが、データと加工現象の紐づけをどうやるのかが一番の課題です。機械加工の現場では人が覚えなければならないことが増えていて、一方で人の数は減っているので、人の負担を減らすために、データ分析をAI に任せるのは1つの方法かもしれません。当社でもセンシングデバイスのデータと品質データから、加工状態の良し悪しを判断できるAI を開発中です。
また、工具が破損する前に自動で交換したり、不良品を仕分けるロボットを自動で動かしたりと、得られたデータを生産にフィードバックする仕組みも必要です。当社では一部行っていますが、これらをお客様にも展開できるよう努めていきます。

笹原 自動化に向けていろいろなことが進むと、幅広い知識が必要になるので技術者の育成は大変でしょうが、仕事の魅力は高まっていきそうです。こうした業務を支える技術者がたくさん求められ、その評価が上がっていけばいいと思います。
 本日はありがとうございました。
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