部品加工現場の自動化・省力化が進む中、切削中のバリの発生をどう抑えるかがこれまで以上に課題となっている。加工後にバリを除去しようとすると時間やコスト、人手がかかり、自動化・省力化で得られた効果が薄れてしまうためだ。空気圧制御システム大手SMCの釜石工場(岩手県釜石市)では、主力製品であるソレノイドバルブの部品加工にタンガロイの超高能率仕上げカッタ「TungSpeed-Mill(タング・スピード・ミル)」を採用し、バリの抑制に成功。手作業で行っていたバリ取りを完全になくしたほか、工具交換頻度の削減やサイクルタイム短縮など多方面で成果を上げている。
空気の力を使って「押す」、「掴む」、「回す」といった動きを行う空気圧制御システムは、工場を自動化するうえで欠かせない製品だ。SMCはこの空気圧制御システム全般を手掛けており、除湿・ろ過処理により清浄な空気をつくる圧縮空気清浄化機器、圧縮空気中のホコリを除去しかつ圧力を調整する空気圧補助機器、圧縮空気の方向を切り替える方向制御機器(ソレノイドバルブ)、方向制御機器で切り替えられた圧縮空気により駆動するエアーシリンダーやエアーチャックなど多岐に渡る製品を開発・製造している。世界シェアは37%。「顧客ニーズに真摯に対応する製品開発が特徴」(浦島勝樹工場長)で、自動車や半導体、食品、医療などあらゆる分野の製造ラインに使われている。最近は工場のCO2を削減する目的で使われるエアーマネジメントシステムの需要も好調だという。
一貫生産が強み
釜石工場は6カ所ある国内工場の1つで、ソレノイドバルブと空気圧補助機器を主に製造する。1991年に操業を開始し、2023年に第5工場が稼働。24年3月末時点で1,600人が働く。ソレノイドバルブにはアルミダイカスト部品が使われており、釜石工場ではダイカスト成形、ダイカスト部品の2次加工、塗装、組立てまで一貫生産できる体制を整えている。同社の強みである多品種・小ロット生産や短納期にも対応する。また、東日本大震災やそれ以前の地震を教訓に、大型発電機や衛星電話、備蓄食品・飲料、簡易トイレなどを準備。「物品が落下しないよう棚に工夫したり、避難しやすいレイアウトにしたりと、災害時の安全対策を徹底している」(久保至副工場長)。
機械加工設備としては、現場では、大量生産用の専用機や小ロット生産用のマシニングセンタ(MC)、NC旋盤などを保有。工場内に「技能育成道場」と呼ぶスペースを設け、熟練技能者から若手への技能伝承を図るなどオペレータ教育にも力を入れている。さらに、「合理化・改善グループ」を設置して工場内の自動化・省人化を推進。ほぼすべてのMCに社内で設計した自動化装置を取り付けている。自前の自動化装置はコストが安く済み、万が一故障したときも素早く修理できるのが利点だ。この自動化の流れを妨げる1つの原因になっていたのが、アルミダイカスト部品のフライス加工で発生するバリだった。直方体の部品の上面と側面に発生し、従来はやすりを使い除去していた。当該部品の加工を担当する六串生吾製造第2課班長は、「工数がかかり、作業負担も大きい。改善策を探していた」と振り返る。工具や加工条件、切削油剤を変えるなどさまざまな方法を試みたが、バリをなくすことはできなかった。
バリ取り作業がゼロに
超高能率仕上げカッタ「TungSpeed-Mill」
そうした中、23年11月にタンガロイのいわき工場(福島県いわき市)を見学したことが、課題解決の突破口になった。訪問したのは、今回取材を受けた長島洋之生産管理課課長代理と六串班長ら3人。「バリをなくしたい」というSMC側の要望に対し、超高能率仕上げカッタTungSpeed-Millを使ったアルミダイカスト材のデモ加工が行われた。バリのない仕上がりを見た六串班長は、「自社にも使えるかもしれない」と直感したという。
TungSpeed-Millはアルミ加工用に開発された超多刃カッタで、「バリ取りさらい刃」と「普通刃」という2種のインサートを交互に設置することで、バリレス加工を実現する。インサート材種にはPCD(ダイヤモンド焼結体)が使われ長寿命。また、超多刃(カッタ径φ100mmで最大刃数22枚)により加工能率も高められる。新刃先調整機構「カムアジャスト」により、刃先調整にかかる時間も大幅に短縮している。
釜石工場では24年1月からTungSpeed-Millを使い始め、成果を上げている。まず、製品品質に影響がない程度までバリを減らせたため、バリ取り作業をゼロにできた。工数やコストの削減効果は大きい。また、これまで使っていた工具に比べて寿命も延びた。「デモを見たときは、量産で使ってみなければわからないという気持ちが強かったが、予想以上に寿命もいい」(長島課長代理)。従来工具では寿命が近づくにつれてバリが徐々に大きくなる現象が見られたが、TungSpeed-Millではそれもない。さらに、PCDインサートの強みを活かして加工条件を従来工具の3倍に高めた結果、サイクルタイム53.8%削減という成果も得られた。
交差穴のバリ抑制に期待
フライス加工に続くバリ改善のターゲットは穴加工の抜けバリだ。特にφ0.8mmやφ1.0mmといった小径の交差穴のバリは、手作業で除去できず、穴の中で工具を往復させてなんとか取り除いている。タンガロイからの提案に期待したいという。
切削加工で発生するバリに関しては、手作業で行っていたバリ取りをロボットや工作機械を使い自動化することで、解決しようとする流れもある。ただ、浦島工場長は「バリ取りを自動化するには、そのための設備を新たにつくる必要がある。コストの面でも、切削加工の段階でバリを出さないようにすることが大事」と話す。釜石工場ではあくまでも切削加工の段階でバリを極力抑える方法に注力する考えだ。
人手不足が深刻化する中、モノづくりの各工程で“後工程に余計な手間をかけさせない”姿勢が重要になる。バリレス加工への取組みもその1つと言えるだろう。
左から長島課長代理、久保副工場長、浦島工場長、六串班長
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TEL:0246-36-8504(マーケティング本部代表)
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