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機械技術

2024.10.07

金型製作で得た利益を自社商品開発に投じ持続可能な企業経営を目指す―ShinSei

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 プラスチック金型の設計・製作を主力とするShinSei(京都府宇治市)は、金型メーカーとは別のもう1 つの顔をもつ。自社商品の開発・製造・販売を行う開発型メーカーとしての顔である。金型づくりで培った総合的なモノづくりの技術に研究・開発力をプラスし、他社や大学・公的機関とも連携しながら商品開発を推進。医療機器市場に参入するため、2017 年には第二種医療機器製造販売業許可を取得した。商品開発で得られた知的財産や流通ネットワーク、人脈などを蓄積することで、持続可能な企業経営を目指している。

鏡筒金型の減少で自社商品開発へ

 創業者の芦田竜太郎社長(図1)は、半導体製造装置大手TOWA の金型部門で研削や研磨、マシニングセンタ(MC)加工などの金型加工技術を習得した。「身に着けた技術で何ができるか試したい」と独立し2004 年にShinSei を設立。MC1 台で金型や装置などの金属部品加工を始めた。そこから10 年ほどで金型設計・製作から成形トライ、部品量産まで手掛ける会社に成長させた。本社工場にはMC やワイヤおよび形彫り放電加工機、成形研磨機などの加工設備のほか、5~100t の射出成形機5 台を保有。「金型メーカーとしてやるべきことは一通りやってきた」と話す。
図1 芦田竜太郎社長

図1 芦田竜太郎社長

 そんな同社に大きなインパクトを与えたのが2007 年に登場したスマートフォンだ。当時、同社が主力にしていたのはカメラの鏡筒向けの射出成形金型。スマートフォンの登場でデジタルカメラの需要が減り、鏡筒向けの金型へも徐々に影響が出始めた。「このままではいけない」と考えた芦田社長が着手したのが自社商品開発だったが、そのアプローチは少し変わっていた。

「まず研究・開発がどんなものかがわからない。ならば勉強してみようと、国のインキュベーション(創業支援)施設の利用を申し込みました」

 研究・開発の方法について学んだり、ベンチャー企業を見学したりする中で生まれた最初の自社商品が次世代型スチームトラップ「Steam REVO」だ。スチームトラップとは、蒸気の一部が水に戻ったもの(「ドレン」と呼ばれる)を蒸気中から取り除くための機構で、プラントで広く使われている。Steam REVO は流体力学に基づいた構造を採用し、可動部をなくすことで、スチームトラップを構成する部品の摩耗・劣化を防いだのが特徴。ステンレス製で錆にも強い。この最初の開発を通じて、性能評価のための実験やデータ収集など研究・開発に必要なノウハウを蓄積した。

 ハンディタイプの蛍光X 線分析機「VoXER」(図2)は、基礎技術をもつ米国のベンチャー企業と共同で開発した。素材に短時間かざすだけで鉄やクロム、マンガンなど元素の含有率を高精度に分析できる。ハードはShinSei が開発し、解析ソフトウェアも基本設計は同社が手掛けた。

 ほかに、手術に携わる医者や医療従事者が訓練に用いる心拍シミュレーターポンプも開発。これらの開発は、大学や医療機関などに所属する専門知識をもつスタッフの協力を得て行われた。インキュベーション施設や中小企業支援を行う公的機関を積極的に利用する中で、こうした人脈を得ることができたのだという。
図2 米ベンチャーと共同開発した蛍光X 線分析機

図2 米ベンチャーと共同開発した蛍光X 線分析機

消化器系カテーテルの開発に注力

 現在、力を入れているのが医療分野の商品開発だ。自社商品開発に取り組み始めた当初から、「医療向けをやってみたい」との願いが芦田社長の中にあった。第二種医療機器製造販売業許可を取得している同社は、リスクに応じて4 段階に分類される医療機器のうち「クラスⅡ(管理医療機器)」の製造・販売が可能。そこで、クラスⅡに当たる消化器系カテーテル、中でも特に難易度の高い胆石除去に使うバスケットカテーテルの開発に注力している。すでにプロトタイプを開発済みで、量産開始も視野に入りつつある。

 バスケットカテーテルは、樹脂製のカテーテル(細いチューブ)と形状記憶合金製の複数本のワイヤ、それらを操作するハンドルからなり、金属ワイヤをチューブから出し入れし、バスケット(かご)のように膨らませたり閉じたりすることで、胆石を掴み、取り除く。プロトタイプはφ2.6mmのカテーテル内に7 本の金属ワイヤを通してあり、7 本を結束するφ1mm の円筒状の部品にはφ0.2mm の穴が7 個あいている(図3)。この部品を同社ではごく一般的なMC で加工しているといい、機械の性能に頼らない加工技術の高さを物語っている。
図3 MC で削り出したバスケットカテーテルの先端部品

図3 MC で削り出したバスケットカテーテルの先端部品

 商品開発と並行して進めてきたのが社員の育成だ。品質管理や情報セキュリティなどの項目に加え、医療機器を製造・販売する際に必要な法律の知識を盛り込んだ教育プログラムを作成。「これで若い人の意識が変わりました」と芦田社長。社内教育の充実は、医療機器の開発に欠かせない優秀な人材を確保するうえでも重要なテーマだという。

 医療機器メーカーとしての一歩を踏み出した同社だが、今に至るまでにはさまざまな困難があった。開発に失敗した商品、市場に受け入れられなかった商品は数知れない。それでも続けてきたのは、加工設備や建屋ではなく、特許や知的財産、流通ネットワークなどの無形資産を自身がいなくなった後の会社に残すことで、持続可能な会社を目指してきたからだと芦田社長は話す。

「医療分野への参入は、法律の関係もあり難しいというイメージがありますが、私にとっては“正解のない”金型の方がよほど難しい。日本の金型メーカーは優秀で根性もある。金型ができれば、なににだって挑戦できると思います」