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工場管理 連載「闘う!カイゼン戦士」

2025.04.15

ユニバーサルな改善とモノづくりで誰もが輝く世界へ―オムロン京都太陽

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 センサなどの制御機器や電子部品、ヘルスケア製品などを手掛けるオムロンと障害者就労支援を推進する社会福祉法人太陽の家の共同出資により、オムロン京都太陽が設立された。企業と福祉の両面をつなぐ特例子会社として、職能的重度障害者の雇用機会を創出し、事業経営を通じて顧客満足の提供と収益確保を図ることを使命とする。全員参加型の改善活動や3S活動を通じて、障害のある人が自ら働くことにより生きがいを見出せる環境づくり、健常な人とともに活き活きと働ける職場づくりに努めている。また培ってきた障害者雇用のノウハウを広く社会に伝えるために、工場見学などの貢献活動も積極的に行っている。

理念が共鳴し誕生した特例子会社

 障害者の雇用と就労を促進する日本初の福祉工場として、1972 年にオムロン太陽(大分県別府市)、85 年にオムロン京都太陽が誕生した。どちらもオムロンが社会福祉法人太陽の家との共同出資で設立し、特例子会社に認定されている。以来、50年以上にわたり、障害の有無にかかわらずそれぞれの個性や能力を存分に引き出せる職場づくりに取り組んできた。
※ 親会社の法定雇用率に算入される特例を受けられる

 オムロン京都太陽では、ソケットや光電センサといった産業用機械に使用される製品、視覚障害者向け電子体温計などのヘルスケア製品、そのほか約1,500 種の多品種少量生産を手掛けている。従業員数は約180 人。そのうち約120 人が障害者で、身体障害が6 割、知的障害が3 割、精神・発達障害が1 割となっている。

 オムロンの特例子会社への取組みが先進的だったのは、障害者雇用を単なる福祉ではなく、彼らが自らの能力を活かして働き、自立する機会をつくることにこだわった点だ。一般的に企業は顧客満足度や生産性・品質の向上という観点で、社会福祉法人は障害者に対する保護や福祉の観点で運営するためなかなか相容れない。しかしオムロンの創業者立石一真氏が掲げた「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」という企業の公器性を追求した「OurMission(社憲)」と、太陽の家の「No charity buta chance(保護より機会を)」という仕事を持ち自立できる生活基盤をつくることが必要という理念が共鳴したことで特例子会社が設立された。

 オムロン京都太陽の冨安秀樹CSR 課課長代理は「オムロンはモノづくり技術、マネジメントや改善のノウハウがあり、太陽の家は障害者の人材確保と安定就業、生活支援などが専門。お互いの得意な部分を活かして工場運営をしています」と同社の強みを話す。

「人に業務をつける」ライン改善による職域拡大

 工程の自動化や治具による作業の効率化などのさまざまな工夫や改善を通じて、作業者が装置に合わせるのではなく、作業者の能力を引き出すために装置側を改善するという「人視点」の現場づくりにこだわってきた。一般的な企業では「業務に人をつける」という業務視点、つまり決められた業務ができる人を採用する。一方、同社は「人に業務をつける」という人視点で障害者を雇用している。「できないことをできないままで終わらせず、どうしたらできるか?という点に知恵を絞るのがわれわれの運営の特徴です。違い(個性)を活かすという多様性を大切にしています」(冨安課長代理)

 作業工程を細分化し、できないこと(障害物)を明確化し、工程改善や治具・機械を導入し障害物を取り除くことで健常者と同等レベルの作業を可能にする。たとえば、付属品の袋入れ作業では、①袋を開く②部品を取って入れる③封止するという工程において、何ができて何ができないかを分析。指先に障害のある作業者であれば①②が困難であり、そこを機械化すれば健常者と同等レベルが可能となる。
部品を自動供給する袋入れ作業

部品を自動供給する袋入れ作業

 部品点数の多い袋詰め作業では、箱の中の部品を順番どおりに規定数入れることが求められるが、組合せが多く、部品を取る順番を覚えられないケースがある。そこで箱にLED を付けて部品を取る順に光らせ、作業者は光っている箱から取るという単純な工程に改良すれば順序を覚える必要がなくなる。またセンサとブザーで取り間違いを防止する工夫も凝らした。この装置により、健常者より早く作業をこなせる人もいるとのことだ。

 また、現場には作業者の障害特性に合わせた操作性の異なる生産治具・補助具・半自動機が揃っており、これらは障害のある技術者も一緒に社内で設計、製作している。
LEDの光る箱から部品を取る、袋詰め工程を単純化

LEDの光る箱から部品を取る、袋詰め工程を単純化

作業者の障害特性に合わせた生産治具・補助具・半自動機が並ぶ生産ライン

作業者の障害特性に合わせた生産治具・補助具・半自動機が並ぶ生産ライン

障害者視点の工夫はユニバーサルな改善に

 人に業務をつけるうえでのライン改善は、従業員による改善提案もある。

 しゃがむ必要なく段ボールを取れる装置や指サック装着装置など生産技術を必要とするものもあれば、コンビニをまねた工具ラックなどユニークなものもある。車いすに踏まれにくいよう点線にした床のラインテープは、汚れにくく貼り直しも簡単とシンプルだが実用的だ。障害者視点での改善案でも実際はそのほとんどが健常者にとっても便利で役立つ改善となっている。
指サックの自動装着装置

指サックの自動装着装置

遊び心のあるコンビニ風ツールラック

遊び心のあるコンビニ風ツールラック

「障害者の職域を広げるための工夫は、健常者にとっても作業の負担軽減や効率化につながるユニバーサルな改善です。障害のある人が働きやすい職場は、障害のない人を含めて誰もが働きやすい職場だと思っています」(山口裕製造課課長)

徹底3S 活動で、人材教育や社内風土を醸成

 全員参加で注力しているのが2005 年からスタートした「徹底3S 活動」だ。毎年1 万5,000 件ほどの提案がある。3S 委員会を設置し報告会や年度発表会、3S 新聞の発行といった定期活動を基本とし、3S の徹底を図っている。成果発表会を毎月1 回開催し、1 チーム当たり年6 回(隔月1 回)発表を行う。障害者も委員会メンバーとして活躍している。24年は11 チームで活動、3S の実施日時や回数などは各チームに任され、リーダーが中心となりその成果を報告する。

 徹底3S 活動に取り組み始めたきっかけについて、山口課長は「当時、品質問題や従業員のモラール低下といったよくない空気が漂っていました。それを脱却するために、全員で取り組めるものはないだろうか?ということで始めました」という。当初は品質改善などを通じて顧客の信頼を得る目的もあり、トップダウンでスタートした。マネージャー層や山口課長らリーダー層が中心となり現場を巻き込んで活動していたが、徐々に職制の低いメンバーをリーダーに育成してゆき、現場主体の活動として定着した。軌道に乗ったのはここ10年くらいで、今では重度障害のあるリーダーがチームを引っ張る姿やみんなの必死さが見られる。

「重度身体障害者や知的障害、発達障害のある方々もチームリーダーとして自ら資料を作成し発表します。聴覚障害のある方が声を出しにくいことをものともせずに取り組む姿や、障害があるとは思えないくらいアイデア豊かな発表を見ると、目から鱗が落ちます」(同)

 多様性のある生産現場で改善活動や徹底3S 活動を全員参加で続けられているのは、歴代の経営層、つまり会社がその価値を認め続けてきたからだという。「設備の導入や製作にはコストがかかる一方で、それを上回る利益を上げることが難しいことがある。そうした直接生産性につながらない改善でも、障害者の活躍の場を生み出すということに価値を見出し、コストをかける。この価値を見出すのには葛藤もあります」(同)

 改善活動や徹底3S 活動を通じて、障害者の職域拡大、人材教育、社内風土の醸成など、障害者と健常者がともに活き活きと働くユニバーサルな職場づくりを目指す。またこれまでに培った障害者雇用のノウハウを広く社会に提供しようと、工場見学や講演なども積極的に実施している。

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