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工場管理 連載「工場はプロフィットセンター 儲けを生み出す工場を実現しましょう!」

2025.04.21

第2回 最新のデジタル工場で学んだことは改善と継続の重要性

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スマート工場研究所 渡邉 寛 

わたなべ ひろし シニアコンサルタント
URL:https://smartfactory-labo.co.jp/
 先日ドイツのシーメンス社のアンベルグとエアランゲンの工場を訪問しました。両工場はPLC(プログラマブルロジックコントローラ)、サーボアンプ、インバータなどの電子機器を製造し、古い工場ですがデジタル技術が導入され自動化が進んでいる工場です。エアランゲンの工場では同じ敷地面積と従業員数のままで、この33 年間で生産台数20 倍、生産品目10 倍に拡大するという素晴らしい改善が進められてきました。現在は自動化が全工程の75% ほどまで進み、1,500 品種を年間2,000 万個製造する能力を有しています。しかしながら、今回の訪問において、そのデジタル技術以上に重要だと思う共感と学びがあったので、ぜひそれを皆さん紹介したいと思います。筆者自身が日頃から日本の製造業の皆さんに振り返ってほしいと思っていることです。

工場の利益に直結した目標設定、できていますか?

 電子機器を製造する彼らの工場は、技術革新と市場の成長を受けて常に多品種変量生産が加速するビジネス環境、それに対応すべく生産性とQCD向上が切実に求められてきました。よって、工場では「生産性の向上」、「納入リードタイム」、「不具合率」、「新製品開発期間」、「CO2 削減」などをKGI(重要目標達成指標)としてストレートに定義しており、実にわかりやすい目標設定がなされています。そして、皆がそれを認識してその達成に向けて取り組んでおり、その結果は日々自動集計され、いつでも誰でも見ることができます。彼らの説明からは、真摯に強い意志をもって改善に取り組んでいることや活動に対する自信が感じられました。シンプルで当たり前のことを皆が大切に思い、形骸化・陳腐化せずに続けられていることに脱帽します(図1)。
図1 皆さんへのチェックポイントその1

図1 皆さんへのチェックポイントその1

継続した改善活動と投資回収は同期していますか?

 彼らが改善活動の結果、築き上げた世界はどのようなものでしょうか? 現場では自動化設備、ロボット、AI、自動搬送機が導入されて、作業人員はわずかでした。また、品質チェックの工程も設備やAI を活用してラインに組み込まれ自動化がなされていました。これらの技術は個別最適の結果で各工程に導入されているのではなく、ライン全体の生産性アップやスピードアップを追求して段階的に導入されていったようです。今もロボットアームの軌跡を改善してサイクルタイムの短縮を試したり、ラインの配置を変えたりすることで、自動搬送の動線を改善し、部品搬送・装填時間の短縮を狙った試みが日々続けられています。これらの試みには、各種シミュレータが活躍しバーチャルの世界で設計と効果の評価がなされ、改善期間が圧倒的に短縮されています。工場は一夜にしてできあがったわけではなく、長年の継続的な改善活動の結果として実現されている工場であり、今も進化を続けようとしています。投資が成果を生み出し、さらなる投資を促す、彼らの改善活動はまさにこの経営の投資回収サイクルに則ることで、継続するとともに大きな成果を生み出しています(図2)。
図2 皆さんへのチェックポイントその2

図2 皆さんへのチェックポイントその2

ITは生産技術の重要な一部

 先に述べたような改善活動を行うのは生産技術部隊です。工場の作業は設備やロボットが行い、それを監視してメンテナンスは人が行います。さらに工場を進化させていくことは生産技術部隊が担っています。彼らは設備やモノづくりの工学的な知見だけでなく、IT を理解してデータを分析して、AI、ロボット、シミュレータを導入して使いこなす技術者です。皆さんの会社の生産技術部隊はどうでしょうか? 役割や能力要件が異なると感じる皆さんが多いのではないでしょうか。日本の製造部門にはIT やデジタル技術は情報システム部門の仕事であるという考え方も根強く残っています(最近は違う傾向が出てきていますが…)(図3)。
図3 『 ITが生産技術の重要な一部』という認識を持った生産技術者の育成が必要

図3 『 ITが生産技術の重要な一部』という認識を持った生産技術者の育成が必要

 また、定常的に改善を主業務とする部隊も少ないのではないでしょうか。このような改善活動を行う人員が工場にどれくらいいるのか聞いてみると、工場全体で1,000 人ほどが働いており、およそ50 ~ 100 人が生産技術部隊であるとのことでした(若干大まかで申し訳ありません)。彼らが日々改善活動に本業として取り組む、それを10 年、20 年積み重ねた結果が今の姿、それも当然に思いました。

彼らは日本からも学んでいた

 最新のデジタル技術を見学できることを期待して訪問しましたが、そこで得た学びは「改善活動の重要性」と「継続は力なり」という伝統的な教えでした。ガイドしてくれた工場の若者の「日々工場の改善に取り組むことの重要性は日本から学んだ」という言葉に頭をぶん殴られた気分でした。それに彼らが得意とする企業を全体的・構造的にとらえる視点、全体最適や目的達成型で仕事を行う考え方が加わり、素晴らしい工場を実現しているのでしょう。皆さん、われわれも頑張りましょう!(図4)
図4 ドイツで実践されている工場スマート化の好循環

図4 ドイツで実践されている工場スマート化の好循環

追伸:本文ではあまり触れていませんが、シーメンス社が本来見せたかったデジタル技術、すなわちデジタル・ツインやデジタル・スレッドが実工場で実現されている姿は圧巻で凄みを感じました。

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