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工場管理 連載「ちょっと待った! そのDXは失敗します」

2024.10.07

第1回 DXがことごとく失敗する本当の理由

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ダイテック 山口純治

やまぐち じゅんじ:執行役員 DX 推進本部 本部長
研修講師およびコンサルタント。業務改革、業務の可視化・整理・標準化、システムの導入・運用を支援し、企業のDX 推進や目標達成を伴走型で支援。

そもそもDXとは何か

 DXを推進したいのに、「どこから何に手をつければいいの?」「うまく進められているという実感がない」「社員のスイッチが入らない」といった声は少なくありません。あなたの組織もこれらの問題に直面していませんか?本連載では、DXがことごとく失敗する本当の理由を明確にしつつ、DXという言葉に翻弄されないようにするための原理原則をお伝えします。

 まずは、そもそもDXとは何かを明らかにするところからスタートしましょう。DXとは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略です。この概念は2004年、当時スウェーデンのウメオ大学の教授であったエリック・ストルターマン氏(Erik Stolterman)の論文“Information Technology and the Good Life”で初めて提唱されました。

 ストルターマン氏は、DXを「The digital transformation can be understood as the changes that digital technology caused or influences in all aspects of human life.」と定義しました。和訳すると、「デジタル技術によって、あらゆる面で人々の生活をより良く変化させること」という感じです。

 経済産業省は、2016年にDXを次のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

 わかりにくいので簡潔に説明すると、「顧客や社会のニーズに対応するよう、データとデジタル技術を駆使して会社を全面的に刷新すること」といえます。要するにデジタルを活用した会社変革のことです。

 似たような言葉に、デジタイゼーション(Digitization)とデジタライゼーション(Digitalization)があります。デジタイゼーションは、「アナログ・物理データのデジタルデータ化」のことで、ペーパーレス化などの取組みが挙げられます。デジタライゼーションは、「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」のことで、営業のシステム化、教育のシステム化、モノづくりプロセスのシステム化などの部署ごとのシステム化を意味します。日本では、これらをDXと称するケースがありますが、本記事では区別して扱います。表に用語の定義をまとめましたので、確認してください。
表 DX、デジタライゼーション、デジタイゼーションの定義

表 DX、デジタライゼーション、デジタイゼーションの定義

 ところで、コンサルティングファーム各社の調査結果では、日本企業のDXの成功率は10%程度と報告されています。DXに取り組んでみたもののPoC(Proof of Concept:概念実証)の段階で終わっている会社が多いようです。

 この数字の信ぴょう性はさておき、DXの成功率が高くないことは間違いないようです。では、なぜDXは成功しないのでしょうか? 実はDXは失敗すべくして失敗しているのです。

DXはなぜ失敗するのか

 DXが高い確率で失敗している報告が各所から発表される中、その失敗の理由を知らなければ成功に導くことは極めて困難といわざるを得ません。

 2020年の10月から11月にかけて、アビームコンサルティングが実施した『日本企業のDX取り組み実態調査』によると、「ビジョン・戦略がスローガン止まり」「現場の巻き込みが不十分」「デジタルの神格化」「リーダーシップの盲目的な判断」「適切な予算や人的リソースの配分不足」「デジタル人財の不足」などが挙げられ、DX失敗の理由は軽く2桁を超えるでしょう。

 このように各所でさまざまな原因が指摘されていますが、DXが失敗する根本的な原因を端的にいい表した調査報告はありません。

 DXが失敗する主要な理由を1つ挙げるとすれば、「ブレーキを踏んだままアクセルを踏もうとしている」からです。ブレーキとは変革の推進を阻む要因です。

 変革を阻む要因となっているブレーキを踏んだまま、変革を進めようとしていることが、DXが失敗する理由の大きな要因なっているのです。変革の推進を阻む要因とは、「平常時のマネジメント」のことを意味します。おそらく多くの企業が現在も採用していて、正解だと思い込んでいる「平常時のマネジメント」のままでは、改革の推進にブレーキがかかり前に進みません。

 まず、「平常時のマネジメント」と「変革時のマネジメント」の違いを説明します。

 「平常時のマネジメント」は、業務の大部分が安定して変わらない状況を想定したマネジメントスタイルで、高度経済成長期の大量生産・大量消費の環境下で形成されたものです。

 このスタイルは、厳格な品質改善と業務効率の向上、つまり「カイゼン」を主軸とし、利益増大を追求します。設計、生産、販売、物流、アフターサービスの各分野において、個別に効率性を最大化することを目指し、より少ない経営資源で決められた成果を達成することを目標としています。日本のモノづくり企業はこのマネジメント手法を追求することで、高い品質の製品を低価格で提供し、世界から高い評価を得るモノづくり大国ニッポンをつくり上げました。このマネジメントスタイルは、需要が供給を上回る状況下で強力に機能します。

 一方、「変革時のマネジメント」は、変化する顧客や社会のニーズに対応するために、企業が生き残りをかけて既存の枠組みを見直しする取組みです。つまり、変化に強い組織へと変革することです。

 「平常時のマネジメント」は安定を追求し、ルールから逸脱しないことを重視します。一方で、「変革時のマネジメント」は生き残りをかけた変革を追求し、新たなルールを創造することを重視します。それぞれが異なる目的を持っていて、目的に応じた選択が必要です。

 「平常時のマネジメント」では、ルール遵守が重視され、ルールを守るために管理制度、評価制度、教育制度といった企業内部の制度が制定されます。これにより、「ルールは守るべきもの」という考え方が従業員に浸透し、その結果、自発的に新しいルールを創造する意識が薄れる傾向にあります。乱暴に言えば、思考停止状態に陥るリスクを抱えるのです。

 「平常時のマネジメント」は、DX推進や変革の推進においてブレーキになります。「平常時のマネジメント」の問題点とDX成功のための具体的な行動について次回以降取り上げて行きます。

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