工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」
2025.02.20
第7回 新入社員の基礎教育:基本技能を徹底して教える
ジェムコ日本経営 古谷賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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現場で使われる「コトバ(用語)」、そして自分たちの仕事のプロセスの「全体像」を教えると、まずは基本的な新入社員への教育は完了したと思うだろう。しかし、「次は、現場の作業教育だ」と、いきなり特定の作業教育をする前に、もう1 つ基礎教育として取り組むべきことがある。
それは、実際の作業をするために必ず修得をしておかなければならない「基本技能」と呼ばれるスキルの修得だ。組立工程、検査工程、塗装工程など、おのおのの工程で行われる作業は「標準作業」として、作業の手順や注意点などが定められている。標準作業を、区切りのよいところで切り分けたものが「要素作業」だ。たとえば、塗装工程における要素作業を考えると、塗装ブースの準備作業、塗装する対象品のセット作業、塗装作業、乾燥作業などが挙げられる。作業者に対する作業教育は、おおむねこの要素作業ごとに行われる。
そして要素作業が組み合わさって一連の標準作業となり、その標準作業に基づいて実際の工程では作業が行われる。この要素作業を行うための基本となるスキルが、「基本技能」になる。たとえば工具の使い方、ねじの締め方、安全な部品の持ち方、塗料の混ぜ方などだ。
「基本技能」を教えるメリット
「基本技能」とはあらゆる作業の基本となるスキルなので、これを教育しておくことで、その後の作業教育を効率的に行うことができる。たとえば、組立工程のある職場では、基本技能として部品の扱い方、工具の扱い方、ねじの締め方、部品同士のはめ方といったものが挙げられるだろう。たとえば、基本的なねじ締めの基本技能を修得していると、「ねじ締め」が含まれるすべての要素作業に対してそのスキルを活用することができる。
このような基本技能を修得していれば、作業教育をする際には「部品A を部品B にねじで固定すること、条件は…で」といった作業指示でよい。すでに技能を保有しているので、作業教育の時に面倒な説明を繰り返さなくてもよいのだ。基本技能を修得しないでいきなり標準作業を教育しようとしても、知らないことやできないことが多く、教育の完了までに時間がかかる。しかし、基本技能をあらかじめ教育しておくことで、作業教育をスムーズに行うことができるようになる(図1)。
意味のある教育であることを示す
実際、知識も技能も備わっていない新入社員にできる作業はほとんどない。しかし、新入社員の配属を受けた職場では、とにかく何か作業を与えなければならないと考え、箱を開ける、ゴミを捨てる、何かを持ってくる、といった「指示をすれば、すぐにできるような作業(雑用?)」をさせてしまう。
「Z 世代」の新入社員は、無意味なことへの抵抗感が強いとされる。いわゆる「タイパ(タイムパフォーマンス)」だ。自分にとってムダだと考える時間を浪費することに大きな抵抗がある。雑用も生産活動には必要なものだが、敏感な「Z 世代」の新入社員は「雑用を通して、仕事の基本を学ぶ」の裏側にある真意(=やらせることがないから、とりあえず雑用)をすぐに見抜いてしまう。指示された仕事が自分の成長にどうつながるのかが見えなければ、働く意欲すら失ってしまうだろう。
「基本技能」の教育は意味不明の苦労を強いるような精神論ではなく、「基本技能」の修得によってより複雑な作業を行うベースができることを論理立てて説明することができる。「A とB ができれば、作業C ができる」といった先の見通しを含めて説明をすることで、新入社員への教育が意味あるものだと示すのだ(図2)。
教えるべき「基本技能」を洗い出す
「Z 世代」の新入社員を教育するには、まず自職場にある「基本技能」とは何かを洗い出すことが必要である。「ねじ締め」「部品の組立」「ラベルの貼り付け」「油の塗布」「バリを削る」など、どの職場でも作業の基本となる「基本技能」はたくさんあるはずだ。まずは、それらを洗い出そう。ただし、多くの基本技能は先輩社員にとって「できて当たり前」のもので、身体で覚えていることも多く、あえて「技能」として意識していないものだ。まだ経験途上の若手社員などと冷静に議論をしながら、何を自職場の「基本技能」と位置づけるのかを考えるプロセスも必要になる。
この、先輩たちは当たり前のように身につけている「基本技能」は、その性質上、いわゆる暗黙知(経験で体得したノウハウ)になっているものも多く、教育そのものが属人的になる危険性がある。たとえば「ねじを締める」で考えると、実際の作業では部品の大小、部品の形状、あるいは材質の違いなどさまざまな要素が絡んでくる。これらを個人の経験で教えるのではなく、職場の形式知として、教育ツールや資料を基にして教えるようになることが必要だ。ねじ締めの基本的な知識や技能をベースに、硬い材料に対してはどうする、柔らかい材料に対してはどうする、といった職場の持つ知識こそが、その職場の強みになっているからである。もしも、このような「基本技能」が個人に依存した暗黙知の状態であれば、新入社員への教育を通じて、技能の形式知化に取り組むことを考えるべきだ。
次回までの振り返り
新入社員を即戦力で活用したいと思う気持ちはわかるが、ここは「急がば回れ」だ。いかに「基本技能」が徹底して教育できているかで、その後の教育のスピード、多能化への対応度が変わってくる。まずは、職場で必要な「基本技能」を洗い出して教育をすることだ。同時に教育訓練の場面を活用して、内在する暗黙知(ノウハウ)の形式知化、つまりコツの洗い出しや、判断基準の明確化などを進めてほしい。
今月の検討課題
作業教育の第一歩は「基本技能」教育。
・ 職場の「基本技能」を洗い出し。知っていて当然とは思わないこと。
・「 基本技能」に含まれる暗黙知を個人依存のまま教育しない。コツや 判断基準、注意点の明確化も必要。