国内有数の精密プレス金型メーカー、ササヤマ(鳥取県鳥取市)。自動車部品や家電製品向けの大型金型をはじめ、ウルトラハイテン材や難加工材対応の金型製作を得意とする。その精密な金型づくりを支えるのがアイダエンジニアリング(以下、AIDA)製の3 台の大型プレス機械で構成するトライアルライン。「お客さまの量産条件とほぼ同条件でのトライアウトを実現し、金型の持ち帰り回数の削減とLT 一発納品を目指している」と笹山勝社長は話す(写真1)。
山あり谷ありの歴史
同社は笹山社長の父親の笹山勝紀氏が1969 年に創業。今日まで精密プレス金型メーカー一筋の道を歩んでいる。しかし、その歴史は山あり谷ありだった。創業当時はコピー機のシャーシから鍋、釜などあらゆるものの金型製作を手がけた。その後は家電やOA 機器向けにシフトし、一時は大画面薄型テレビの背面パネル向け金型で世界シェアの70%を確保したこともあった。
しかし、2010 年を境にテレビをはじめとする家電の需要が激減し、それに替わって主力事業になったのがシートやドア部品などの自動車部品の金型製作であった(写真2)。もともと家電の中でも大きな金型を得意としていたため、その技術が自動車部品の大型順送金型に活かせたのである。また、どんなに苦しい時でも設備投資の手を緩めなかったことが企業再生の原動力になった。
写真2 自動車部品〔FB SIDE FRM(上)、FRMBACK SIDE SEAT(下)〕
自動車と家電業界の双方を得意先に
主力事業を自動車部品にシフトできたのは、2000 年に米国テネシー州に工場進出したことがきっかけだった。初めは、それまで得意とした家電関係の仕事を受注することが目的だったが、国内ではほとんど取扱いのなかった自動車部品の仕事が来るようになった。中でも同社の米国工場の近くにあった日本発条のテネシー工場への訪問を機会に大型金型をグローバル提供する先を探しているとオファーがあり、その後、両社の関係は深まり2015 年には資本提携するまでになった。「もしも米国に進出していなかったら、日本発条さんとの資本提携はなかったし、自動車部品に舵を切ることもできなかったと思います」(笹山社長)。とくに2015 年以降は自動車部品向けの金型事業は大きく伸び、ピーク時には売上高の90% を占めるまでになった。
ところが、そのまま自動車部品一本で行くのかと思いきや、最近になってまた事業内容には変化の兆しが現れている。2022 年頃から自動車部品の金型需要に陰りが見えたことから、再び家電関係にアプローチを強めた結果、直近では自動車部品と家電製品(冷蔵庫、洗濯機などが中心)がほぼ半々という売上構成になった。しかも同社の2024 年7 月期決算は12 億700 万円と、現社長になってから過去最高の売上高を記録するなど、今や自動車分野と家電分野の両方から注目される存在になっている。これからは、自動車/ 弱電といった業種の異なる金型をハイブリット製作していく仕組みを構築していく。
大型金型の製作で業界屈指の技術力
時代によって取り扱う製品は異なっても、技術により顧客満足度を高める姿勢に変わりはなく、とくに大型金型の製作やウルトラハイテン材をはじめ難加工材対応では業界屈指の地位を築いている。その金型製作技術を支えるのが、顧客企業の量産条件とほぼ同条件でのトライアウトを実現するプレスシステムである。現在、同社の工場には中· 小型のプレス機械を含めて7 台のトライアルプレスがある。中でも2004 年に導入したアイダエンジニアリング製の1000t 順送プレス「PMX︲10000」が技術と商品力を一段と高める新たな出発点となった(写真3)。
自動車部品の注文が入り始め、その一方でテレビ用金型の需要も増えていた2000 年代初め。当時の同社には大型プレスは500t の油圧プレスしかなかった。そこへ米国に工場を持つ日本の自動車メーカーから総数70 型ほどの注文が入った。しかし、油圧プレスにはレベラフィーダもなく、本体機能も旧式のものだった。「その油圧プレスで自動車部品用の順送金型のトライをしたものの、なかなか良い結果が出せなかったのです」(笹山社長)。やっとの思いで製作した金型を米国に送ったら、「これでは品物は流せない」と顧客から大目玉を食らったという。
「そんなこともあって、私から先代に対して『600t くらいで、テレビ用にも自動車部品用にも使えるレベラフィーダ付きのプレスを買ってください』と進言したのです。そうしたら先代もいろいろ考えたようで、導入時には1000t にグレードアップしていました」(笹山社長)。結果として、このプレス機械が自動車部品用のトライにフィットした。1000t というサイズ感が自動車系の顧客ニーズにマッチしたのである。
600トンサーボプレス
1000t 順送プレスに続いて、2010 年には同じくアイダ製の600t サーボプレス「SMX6000 サーボ」を導入した(写真4)。家電製品用として使い続けていた500t 油圧プレスの調子が悪く、その代替機としてダイクッションを使用した絞り型やタンデム· トランスファ型に使うことや、金型仕上げ用のダイスポ(ダイスポッティングプレス)的な使い方をすることを目的としたものだ。「当時はまだサーボプレスを導入している企業は少なかったので、当社の事業の付加価値をアピールするのに大いに役立ちました」(笹山社長)。
同社は600t サーボプレスを入れる際にも新規にレベラフィーダを購入した。と言っても600t サーボのためではなく、先に導入した1000t 順送プレスのためである。1000t プレスは最速60spm で回せるが、既存のレベラフィーダはそのスピードに追随できなかったため、使い道が限定されていたからだ。一方のサーボプレスはそこまでのスピードにはならない。そこで、1000t 用として高速回転に追随できるレベラフィーダを購入する一方、既存のレベラフィーダをサーボプレス用に転用することにした。「かつてはトライアルプレスというと本体機能ばかりに目が行きがちでしたが、付帯設備であるレベラフィーダを使ってみて、初めてその価値や使い方が理解できたのです」(笹山社長)。