世界最大級の順送プレス
2016 年、同社はそれまでの旧本社が手狭になったことから、高速道路のインターチェンジ近くに新本社工場を建設した(写真5)。その目的はウルトラハイテンをはじめとする次世代金型技術の開発、短納期を実現する高効率生産体制とシステムの構築、モノづくり人材育成のための労働環境の整備などだった。
新本社工場の開設と合わせて、マシニングセンター(MC)6 台とロボットを組み合わせた自動化ライン(写真6)、ベッドサイズ5000 ×4000mm の大型5 面門型MC、サブミクロンの精度を実現する超精密成形平面研削盤などを導入した。その中でも一番の目的は、新たな大型順送プレスを導入することだった。すでに600t、1000tのトライアルプレスを所有していたが、4m 以上の金型やウルトラハイテン材用の金型を製作するには、若干能力が不足していた。そこで1600t 順送プレス「PMX︲L2 16000(2)」を導入した(写真7)。2 ポイントリンクモーション順送機としては世界最大クラスのプレス機械で、金型の大型化や自動車部品の高ハイテン化に対応できる。ボルスタは4500 × 1800mm と広く、大型金型を得意とする同社にとって最適なプレス機械であると判断したものだ。
写真6 MC6 台とロボットを組み合わせた自動化ライン
1600t 順送プレスのラインで、キーポイントとなったのがレベラフィーダだ。従来の1000t プレスの場合、顧客企業の要請を受けて代替生産をしようとしたとき、プレス本体は良かったものの、付設のレベラフィーダがウルトラハイテン材をきちんと矯正できないことがわかり、途中で断念したことがあった。そこで、1600t では想定されるウルトラハイテン材をすべてきちんと矯正できるものにしたのだ。
顧客のサポートにも活用
1600t 順送プレスの導入により、1000t、600tの3 台のプレス機械によるトライアルラインが誕生した。今日では顧客のニーズによってこの3 台を使い分けており、社内でトライアルできない金型製作はやらない主義を貫く。
1600t を導入後、多数の顧客が同社を訪れテストを実施しているが、口々に「全く問題はないので、うちの設備が故障したときはぜひともサポートしていただきたい」と言われているという。既存の顧客だけでなく、同社とまったく取引のない企業から量産支援を頼まれるケースも増え、「導入時に描いた期待通りの結果になっています」と笹山社長。
完成度を高め、無駄な費用を減らす
同社のトライアルプレスは一部の小型プレスを除き、主力はすべてアイダ製である。「これは先代が好んだ結果でもありますが、私としても量産メーカーと同じ条件の金型を作ろうとしたら、アイダさんのプレス機械を入れておけば損はないと思っています。それだけお客さまから信頼されているメーカーだからです」(笹山社長)。
同社は大型金型の製作を得意とするが、出来上がった金型を鳥取から大都市圏に搬送する場合、輸送費だけでも一往復当たり数十万円かかるのが普通だ。金型に不具合があれば、何回も往復せざるを得なくなり、大きなロスとなる。こうした無駄を出さないためにも顧客企業のそれと同等の精度を持つトライアルプレスが必要なのである。「問題があるとすれば、たまにお客様のプレス機械では押せないものが押せてしまうことですが、当社ではそのあたりもよく考えて、社内でトライを繰り返して完成度を高めて納入するように努めています」(笹山社長)。
システム開発と人材育成に注力
プレス機械に限らず、同社では、「先行して設備を入れていくのも戦略の一つ」という考えから、継続して設備投資を行っている。2022 年には3次元CO2 レーザ加工機や加圧ガス冷却横型真空炉、ベッドサイズ1600 × 610mm の立形MC を2 台。2024 年はワイヤ放電加工機2 台を導入した(写真8)。
生産財への投資以外で力を注いでいるのは全社のシステム化と人材の確保· 育成である。システム化では生産の見える化やシミュレーション技術の強化、モデリングなどのデータエンジニアリングの国際分業化などの取り組みを始めている。人材育成に関しては、マルチジョブ、マルチスキルをコンセプトに体系的な人材育成の仕組みを構築した。
「昔は、金型メーカーといえば3K の代名詞のようなイメージがありましたが、それでは良い人材は集まらないし、会社も成長できません。その悪い流れを断ち切り、地元の若者に魅力を感じてもらえる会社にするため、職場環境の改善や経営の透明化など、やれるところから取り組んでいます」と笹山社長は言う。今や若い人材が従業員の大半を占めるようになり、社内は活気に満ちている。