BEVの問題点
上記企業経営者の見解でも、EV 化は今後も世界の潮流である(BEV は終焉しない)との見方である。すべてがBEV になることはないが、逆にBEV が駆逐されることもないという見解である。にもかかわらず、筆者がBEV の将来性に否定的な理由を、次に述べてみたい(企業経営者の見解に反論するのではなく、異なる見解の参考提示である)。
図1 に電気エネルギーの特徴を示す。電気エネルギーは、ほかのさまざまな形態のエネルギーに容易に変換できる汎用性の高さが特徴である。現代の生活で電化が進んでいるのは、以上の電気の特徴を利用するのが便利であることによる。ただし、発電所から家庭や工場に、電線によって瞬時に送電されるインフラが整っているところでないと、その利便は受けられない。車のように任意に移動する場合は、発電所からの電気を直接給電できないので、二次電池(バッテリー)に蓄電した図1 の化学エネルギーからの給電によって電気エネルギーを得ることになる。したがって、BEVは「電気自動車」と呼ばれるが、「バッテリー車」と認識する方が問題点を理解しやすい。電気エネルギーは有用であるが、バッテリー(化学エネルギー)との充電・放電には多くの課題が発生する。
車のような重量のものを移動させるバッテリーは大きなスペースをとり、重くなる。またバッテリーは、充電と放電で電気エネルギーと化学エネルギーとの変換を繰り返すと、副反応でバッテリー能力が劣化していく。バッテリー能力の劣化とは、充電した電力のうち、使用できる電力の割合を示すバッテリー効率が低下していくことである。
バッテリーの問題点としては、以下の3 つが挙げられる。
① 発火・爆発のリスク:落下などの強い衝撃、過充電・過放電、高温、製品の欠陥などで引き起こされる。一度発火すると、消火が困難になる。
② 劣化・寿命:使用年数や使用状況、高温環境下の充電などで徐々に劣化する。劣化が進んだバッテリーは発火しやすい。
③ 環境負荷:リチウムイオンバッテリーの製造では大量の二酸化炭素(CO2)が発生する。使用済みバッテリーの量が増加し、適正なリサイクルの仕組み構築が課題。原材料の調達の難しさも環境面での課題としてある。
以上のような問題点は、いまだ十分解決されていない。その不都合が知れわたるようになって、今のBEV 販売の停滞が起こっていると筆者は感じている。そもそもバッテリーは自動車のパワーエネルギー・キャリアとしては向いていない。加えて、バッテリーはリチウム、コバルト、ニッケルなどの希少資源に依存している点で、将来性に懸念が出てくる。にもかかわらず、将来的にもバッテリー自動車が世界の潮流になるだろうとの見解が多いのは、中国の勢いへの反応によるものと思われる。
BEVと水素エンジン車の比較
水素エネルギーの特徴を図2 に示す。水素は燃焼や爆発によってそれ自体を熱エネルギーや運動エネルギーに変換できる。水素エンジンは、従来の内燃機関の燃料を水素に置き換えたもので、水素の燃焼反応を利用して動力(運動エネルギー)を得る原動機である。水素は燃焼させると酸素と結びつき水になり、燃焼時にCO2 を排出しない(窒素化合物は排出する)。
水素で走る自動車と言えば、市販されているFCEV があるが、FCEV は内燃機関車ではなく、燃料電池内での水素と酸素の化学反応によって発電を行い、その電気でモータを稼働させて走る電気自動車である。表2 に、ガソリン車、水素エンジン車、燃料電池車、電気自動車の比較を参考までに示しておく。また、表3 には、BEV と水素エンジン車の比較を詳細に示す。
表2 ガソリン車、水素エンジン車、燃料電池車、電気自動車の比較
水素エンジン車は、企業経営者の見解でも指摘されていたが、エネルギー供給インフラ(水素ステーション)の整備が今からである点が課題と言える。加えて、エネルギー効率がBEV より低いとされるが、燃料充填時間、航続距離、車両重量では、BEV よりも水素エンジン車の方が優位である。水素の高圧水素ガスタンク貯蔵もイノベーションが期待できる。次世代自動車としてBEVが残るのか水素エンジン車が残るのかは、BEVのバッテリー効率と劣化対策などと、水素エンジン車のエネルギー供給インフラ整備のどちらを先にクリアできるかが大きな要因と考える。
異なった観点からは、これまで論議してこなかったが、次世代自動車はSDV(SoftwareDefined Vehicle)で、ソフトウェアによって機能や性能が定義される車になると予想される。SDV 化自体は動力源に依存しないので、水素エンジン車でもBEV でも実現が可能ではある。しかし、OTA(Over-the-Air)のソフトウェア無線アップデートによって車購入後の機能追加や性能向上を行わせる点では、BEV のパワートレイン全体がソフトウェアで制御されているので、BEV の方が親和性がよい。パワートレイン関連の機能追加をOTA でやらないケースにおいては、BEV も水素エンジン車も優位性では同じである。
次世代自動車がBEV か水素エンジン車かといった予測については、上記の要因以外にも、各国の自動車政策とポリティカル・パワーの影響がある。これについては次回で考察したい。