プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2025.04.09
第6回 精密冷間鍛造で常に新しい技術開発にチャレンジする-タイショーテクノ
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
精密冷間鍛造メーカーのタイショーテクノ(大阪府和泉市)は、自転車をはじめベアリング、産業機械などの部品の製造を手がける。精密冷間鍛造のニアネットシェイプ・ネットシェイプ加工によるトータルコストの低減とリードタイムの短縮、製品の高精度・高品質化を強みとする。
同社は国内における精密冷間鍛造のパイオニア的存在であり、技術開発の基本方針は①成功するまで粘り強く継続する、②新しい工法や材料へ果敢に挑む、③本業の技術の基本を正しく学び、さらに周辺技術も習得することを重視している。
「新しいことを学んでいこうとしないと社内の技術が陳腐化する」(岡室養子会長)ため、常に新しい技術にチャレンジする。これまでにも冷間鍛造と板金の小型複合プレス機の自社開発や整形インプラント部品の試作・開発など精密冷間鍛造のさらなる可能性を追い求める技術開発を手がけてきた。
例えば、小型複合プレス機の開発(2008 年)では、重量が0.75g で六角形の頭部に2 つの球がついている形状の小さな部品を± 20μm の精度で加工してほしいと依頼された。しかし、小型部品ゆえにワークを人手でつかめず、人が介在してはワークを次工程に移動させられない。そこで工程間の移動を自動化できる冷間鍛造・板金プレスの複合プレス機「マイクロトランスファープレス機」(写真1)を自社で開発した。
写真1 顧客の要望に応えるため「マイクロトランスファープレス機」を自社開発した
また、2007 年には新規市場をうかがい、精密冷間鍛造による純チタン製の整形インプラント部品の試作・開発を始めた。その結果、冷間鍛造の加工硬化を活かして純チタンの硬度を高め、整形インプラントとして必要な強度を付与する可能性を見いだした。
こうした新しい技術開発は同社の基本方針に沿うものであり、未知なる分野への挑戦がもたらした開発成果でもある。
デザイン・インで仮設足場の部品を精密冷間鍛造化
さらに最近は製品の設計段階から参画するデザイン・インにも取り組んでいる。2021 年には仮設足場の部品の精密冷間鍛造化をデザイン・インで実現した。
仮設足場とはビルやマンション、一般住宅などの建設で一時的に建物を囲う資材であり、鋼製の支柱(パイプ)、緊結部材、足場板、仮設階段などからなる。仮設足場の1 つの種類として、支柱に手すり(落下防止や踏板、階段などの取付けに用いる資材)や筋交(柱間に斜めに挿入する資材)などを緊結する「くさび緊結式足場」がある。くさび緊結式足場では支柱に手すりを緊結する部材のうち手すり側の緊結部は従来、鋼管(パイプ)の端部に複数の取付け金具(曲げ加工した線材)を溶接して製作していた(図1 右)。ただ、溶接点数が多いためコストが高く、また、溶接で垂直・平行度の精度を出しにくく、溶接した箇所を溶融亜鉛めっき処理する際に化学変化で形状が若干変化した。さらに、仮設足場の安全性を高めるため緊結部材にさらなる強度化も求められていた。
図1 くさび緊結式足場の手すり側の緊結部。右は従来の切削と溶接による工法の緊結部、左は新形状にして精密冷間鍛造した緊結部。従来工法のパイプの手すり部材と取付け金具を一体加工した
それらの課題を解決し、かつ緊結部材の製品価値を向上できないかと仮設足場資材メーカーから同社に相談があった。
「当社としてはお客様と製品の形状設計段階から精密冷間鍛造でいかに精度良く加工できるか、機能・性能やコスト、リードタイムでメリットを出せるかなどを加工の観点からアドバイスさせていただきました」(岡室知憲社長)
単に従来の切削・溶接から精密冷間鍛造に工法を転換するという考えではなく、精密冷間鍛造でメリットを引き出せる形状を新たに設計することから始めた。さらに素材形状や工程レイアウト設計を工夫した結果、パイプの手すり部材と取付け金具を精密冷間鍛造で一体加工し(図1 左、写真2)、支柱と地面との接地部の安定性も高める形状に変更し、線材部に溶接していた補強リブも精密冷間鍛造に換えた。精密冷間鍛造にすることで緊結部材のパイプ部は深く肉厚の薄い形状にでき、パーツ点数を減らし溶接箇所を少なくしたことで製造のリードタイムを短縮し、トータルコストの削減につなげられた。
写真2 従来は溶接していたパイプの手すり部材と取付け金具を精密冷間鍛造で一体加工
また、精密冷間鍛造化の効果として緊結部の剛性が上がって高強度化でき、接地面がさらに支柱に添いやすく、それをプレスで精度よく仕上げられるので組立て時の支柱と手すりの一体感が増し、耐荷重が従来品に対して119%向上した(基本的な仮設足場試験の結果)。その他にも最大使用荷重も向上して補強材の削減につなげられ、緊結部材の上下方向の突出の少ない形状にしたことで運搬・収納スペースの削減(=現場作業の負担軽減)につなげられた。なお、この技術は取引先と共同で特許公開している。
冷間鍛造メーカーが自らの加工技術をブラッシュアップさせることは当たり前の取組みだが、プレス加工機を自社開発したり難加工材料のチタンで医療という新規分野の部品を積極的に創製したりしようとする。さらには製品の設計段階まで遡って精密冷間鍛造のメリットを引き出そうとする。困難と思われるような案件の技術開発、将来を見越した先行的な技術開発、そして製品設計段階から参画するデザイン・インの技術開発と常に新しい展開を求める同社のチャレンジ精神はとどまるところを知らないようだ。