プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2025.04.28
第7回 超ハイテン成形用プレス金型の生産性を上げる肉盛り溶接ロボットーウチダ
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
1934 年に創業の自動車部品用プレス金型メーカーのウチダは(大阪府大東市)、ピラーやメンバーリアフロアサイド、フロアクロス、カウルトップインナなど車体を構成する各種部品の金型を設計・製造する(写真1)。
写真1 自動車部品用プレス金型を設計・製造し、自社工場で試打ちする
1998 年にはハイテン材(高張力鋼板)向けの金型づくりを始め、最近では1.5GPa の超ハイテン材の金型を手がける。超ハイテン材で成形する1m 超のセンタピラーやサイドメンバーのパネルでは寸法誤差± 0.3mm ~± 0.5mm と高い精度が求められる。
スプリングバックの大きい超ハイテン材の成形でこの寸法精度を実現するには3 ~ 5 回のトライと修正を繰り返さなければならず、そのたびに技能者が肉盛り溶接で金型の形状を微修正する。しかし、人手による肉盛り溶接は時間を要し、肉盛り層にばらつきが生じる。肉盛り不足だと再度機械加工しなければならなくなるため、どうしても多く肉盛りしてばらついてしまう。
「時間を要する人手による肉盛り溶接を自動化することで、技能者には金型の調整など人でなければできない付加価値の高い業務に注力してほしいと考えました」(内田祥嗣社長)
そこで同社は2022 年、肉盛り溶接の自動化に着手した。
肉盛り溶接の作業時間を79%カット
肉盛り溶接の自動化では、新日本工機と共同で6 軸多関節ロボットのハンド部にレーザ溶接機を搭載したレーザクラッディングロボットを開発した(写真2)。レーザクラッディングとは、金属基材に金属粉末を供給すると同時に、レーザ光で溶融することで肉盛り層を形成する技術。レーザ溶接機は、最大出力6000W の半導体レーザでビーム径φ4.7mm、溶接移動速度8.5mm/ 秒で溶接する。金属粉末は平均粒径50 ~ 150μm で12g/ 分を供給し、溶接ビード幅5mm、高さ1mm、重ね幅2.5mm で溶接する(写真3)。
写真3 ロボット溶接ならばらつきが少なく均一に生産性良く肉盛りできる
ロボットで肉盛り溶接する大きなメリットは、均一かつ薄く肉盛りでき、微小な面積もしくは大面積のどちらにも対応でき、人の作業(手動)に比べて生産効率が高いことだ。例えば、面積50× 20mm、高さ2mm のSKD11 を肉盛り溶接した場合、ばらつきが手動の0.5mm に対してロボットは0.1mm、作業時間が手動の340 秒に対してロボットは72 秒と79%削減できる。また、肉盛り材料を最低限の熱量で溶融させるため母材への入熱が低く、そのためひずみや熱影響が小さい。
ロボットのティーチングは、肉盛り溶接の専用ソフトウェアを用いる。レイアウトした金型のCAD モデルを取り込んで差分(肉盛り後の形状から肉盛り前の形状を差し引く)を計算してパスを自動生成する。
肉盛り溶接のポイントは、条件出しが重要になる。金型に対してピッチ、ラップ量、レーザ出力、送り速度、粉末供給量を適切にすることで割れやピンホールの発生を防げる。また、1 パスの肉盛り溶接の高さを小さくし、層数を増やすと割れやピンホールの発生を抑制できる。ただ、層高さが低くすぎると層数が増えて施工時間が増す傾向にある。
さらに解決すべき課題
肉盛り溶接ロボットを実用化した同社だが、解決すべき課題として①溶接条件次第で細かい割れが発生する、②プロファイル加工、面沿い加工ができないためエッジ盛り(ピン角)ができない、③エアカット中も粉末を噴射しているので30 ~40%は不要な粉末を使用していることがある。エアカット速度を上げるなどしてムダな粉末を使用しない工夫をしているが、「肉盛り溶接ロボットは人と同じように一方向に肉盛りしますが、往復方向の肉盛りができればさらに生産効率も上がります」(堤研二技術部技術2 課課長)。そのための動作プログラムを試行していくと言う。
業界に先駆けて肉盛り溶接の自動化(ロボット化)に取り組んだ同社には、大手メーカーからの視察も多いと言う。少子高齢化の日本にあって製造現場で可能な限りの自動化を推進することは避けて通れない課題だ。金型づくりで肉盛り溶接や研き仕上げなどは技能者にしかできない作業と思われがちだったが、そんな固定観念は捨て去らないと生き残っていけない。肉盛り溶接ロボットを構築したプレス金型メーカーの次なる挑戦に期待したい。